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芸能界からGAFAまで監視する「公正取引委員会」、どんなパワーを持っているのか
公正取引委員会(よねやん / PIXTA)

芸能界からGAFAまで監視する「公正取引委員会」、どんなパワーを持っているのか

最近、芸能人が所属する芸能事務所を辞めて独立するというニュースをよく見聞きするようになりました。かつては、芸能人が芸能事務所を辞めると、テレビなどに出演することが難しくなることから、芸能活動を続けていくためには事務所を辞められないという縛りがありました。

しかし、公正取引委員会が、芸能人に対する妨害活動も独占禁止法が禁じる「優越的地位の乱用」や「取引妨害」などに該当する恐れがあると指摘したため、芸能事務所がテレビ局などに圧力を掛けることが難しくなったという背景があります。

また、公正取引委員会は、GAFAについても問題意識を持っており、独占禁止法上の違反事実はないか監視を強めています。このように、存在感を増している公正取引委員会ですが、どのような組織でどのような権限があるのでしょうか。(ライター・岩下爽)

●なぜ省庁ではなく、「委員会」なのか

公正取引委員会は、独占禁止法等の執行や運用、政策立案を行う機関です。国の官庁は、○○省や○○庁という名称が付くのが一般的ですが、公正取引委員会は、「委員会」となっています。

これは、「独立行政委員会」と呼ばれるもので、政治的中立性が求められる業務を行う機関です。内閣から独立した委員の合議により意思決定がなされます。公正取引委員会以外には、国家公安委員会、中央労働委員会、運輸安全委員会などがあります。

公正取引委員会は、委員長と4名の委員で構成されており、外部から指揮監督を受けることなく独立して職務を行うことができます。委員長は元財務官僚、委員は、元公取委官僚、元裁判官、元検察官、元学者となっています。

もっとも、実際の実務を担うのは、公正取引委員会事務局の職員であり、行政官だけでなく、経済、法律、会計などの民間の専門家も非常勤として採用し、業務を行っています。公正取引委員会の資料によれば、現在約800人の職員が働いています。

●独占禁止法が禁止していること

公正取引委員会が主に扱う法律は、独占禁止法ですが、どのような法律なのでしょうか。独占禁止法の正式名称は、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」です。この法律は、①私的独占、②不当な取引制限、③不公正な取引方法を禁止することを目的としています。

(1)私的独占

私的独占とは、競争相手を市場から排除したり、新規参入を妨害したりして、市場を独占することです。私的独占がなされると、独占企業が自由に価格決定することができるようになるため、消費者の利益を害します。

そこで、ある事業者が独占状態にあるときは、公正取引委員会は、事業者に対し、競争を回復させるために必要な措置を命ずることができます(8条の4)。

(2)不当な取引制限

不当な取引制限とは、同業者同士が話し合って価格を決めるなどして、競争をしないことです。「カルテル」と呼ばれるものです。同業者が話し合って同時に価格をつり上げられると消費者としては選択の余地がなく、高い価格の商品を買わされることになります。

私的独占又は不当な取引制限に違反する行為があるときは、公正取引委員会は、事業者に対し、当該行為の差止め、事業の一部の譲渡その他これらの規定に違反する行為を排除するために必要な措置を命ずることができます(7条)。

(3)不公正な取引方法

不公正な取引方法とは、たとえば、メーカーなどが販売店に対して販売価格を指定することなどです。指定した価格を下げて販売したら商品の供給を停止すると圧力を掛けて、価格を維持させることは許されないということです。

不公正な取引方法がなされた場合、公正取引委員会は、事業者に対し、行為の差止め、契約条項の削除その他当該行為を排除するために必要な措置を命ずることができます(20条)。

このように、価格が自由な競争によって形成されるように、公正取引委員会は市場を監視しています。

●市場監視をアピールするように

公正取引委員会は、内閣から独立している組織であることから、野党から追及されることもなく、以前はあまり目立つ組織ではありませんでした。また、公正取引委員会が監督するのは、ほぼ全ての企業なので、対象が広すぎて告発などがない限り、積極的に動き辛いという特徴がありました。

しかし、最近はGAFAなどが台頭してきたため、これらの企業の規制について国民の関心が高まり、また、芸能界の悪しき慣習なども、SNSなどで疑問が呈されるようになり、公正取引員会としても動かざるを得ない状況になってきました。

デジタル社会の進展で、社会の構図が大きく変わりつつある中で、市場独占や価格統制が疑われる場合、今はすぐにSNSで意見が述べられ議論が巻き起こるので、公正取引委員会もネットの情報を注視するようになってきています。

公正取引委員会としては、これまで以上にしっかり市場を監視しているということをアピールする必要があるため、メディアを通じて積極的に情報発信をしています。そのため、公正取引委員会の活動が目立っているのかもしれません。

●アマゾン、ビー・エム・ダブリュー、日本プロ野球組織の事例

公正取引委員会の活動は多くありますが、主な活動についていくつか紹介します。

(1)アマゾンジャパン合同会社

アマゾンジャパン合同会社は、取引上の地位が劣位にある納入業者に対して、次の行為を行っていました。

①在庫補償契約を締結することにより、契約で定めた額を、納入業者に支払うべき代金の額から減じていた。 ②様々な名目で金銭を提供させていた。 ③過剰な在庫であると判断した商品について、納入業者の責めに帰すべき事由がないにもかかわらず返品していた。

そこで、公正取引委員会は、独占禁止法に違反する疑いがあるとして、改善を求める確約手続通知を行いました。アマゾンジャパン合同会社はこれを認め、確約計画の認定申請を行いました。

(2)ビー・エム・ダブリュー株式会社

ビー・エム・ダブリュー株式会社は、大部分のディーラーに対し、BMWの新車について、到底達成することができない販売計画台数案を策定し、ディーラーとの間で十分に協議することなく販売計画台数を合意させ、販売ノルマを達成できなかった場合には、BMWの新車をディーラーの名義で新規登録することを要請していました。

この点についても、公正取引委員会は、独占禁止法に違反する疑いがあるとして、改善を求める確約手続通知を行いました。ビー・エム・ダブリュー株式会社はこれを認め、確約計画の認定申請を行いました。

(3)日本プロフェッショナル野球組織

日本プロフェッショナル野球組織は、新人選手が日本球団への入団を拒否して外国球団と契約した場合、一定期間ドラフト会議で指名しないとの申合せを行っていました。公正取引委員会は、独占禁止法に違反しないかについて審査をしていましたが、日本プロフェッショナル野球組織から、改善措置を自発的に講じたとの報告があったため、疑いを解消するものと認められたことから審査を終了しました。

●大手企業ほどターゲットになりやすい

独占禁止法は、企業に市場を独占させないようにするための法律なので、大手企業ほどターゲットになりやすいという特徴があります。企業としてはできるだけシェアの比率を高め、市場で有利な立場に立ちたいと考えるものですが、それを制限するのが公正取引委員会の役割です。

大手企業は、コンプライアンスもしっかりしているところが多く、当然独占禁止法に違反しないよう注意を払いながら業務を行っています。しかし、どうしても優越的な地位から市場原理をゆがめるような行動をしてしまいがちです。

自由競争が徹底され、消費者が適正な価格で商品やサービスを購入できるのが資本主義の良さなので、大企業が関連企業に対して圧力を掛けて価格を統制したり、メーカーが販売店に価格を強制したりするようなことは許されません。

GAFAはもちろん、日本企業についても、市場をゆがめるようなことをしていないか、しっかり監視していくことが重要です。役所というのは、意外と世間の声を気にするものです。公正取引委員会を動かすためには、国民がおかしいと思ったことをSNSなどで発信していくことが大事になります。見て見ぬ振りをするのではなく、おかしいことは「おかしい」と国民が主張していくことで、社会を変えていく必要があります。

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