手術後の麻酔が残っている女性患者にわいせつな行為をしたとして、準強制わいせつ罪に問われた男性医師に2月20日、無罪が言い渡された。
これを受け、被害を訴えている女性を支援する弁護団が3月15日、結成され、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開いた。全国6都道府県の12人が参加する予定。
上谷さくら弁護士は「被害者に『できないことはできない』と丁寧に説明し納得してもらうことは弁護士の大切な仕事だが、この事件はその必要がないと思っている。間違いなく有罪だと確信し、弁護団結成に至った」と話した。
●「被害者側に有利な事実認定がされていない」
高橋正人弁護士は、今回の無罪判決を「非科学的な判決」と批判し、「鑑定資料を再鑑定できないかのように報道されているがそれは間違い」と話す。
警察庁の通達では、DNA鑑定の運用指針について、原資料の残りまたは鑑定後に生じた試料の残りを保存することとされており、今回の事件では、女性の胸が原資料で、胸を拭ったガーゼが試料にあたると指摘。
警視庁科学捜査研究所は、まずガーゼを半分に切り、もう半分を保存。片方のガーゼから抜いた4本の糸からアミラーゼを検出し、4本を抜いた後のガーゼから抽出液を作ってDNAを検出したという。
高橋弁護士は「今回、科捜研が廃棄したのは抽出液でありガーゼの半分は残っている」と指摘。
「判決は抽出液を捨ててはダメと言っているが、結果しか出ていないものを残しても信用性はない。経過が大事なので、再現可能性を残すため試料を残さなければならない。しかし、裁判官はそこに一言も触れていない」と批判する。
上谷さくら弁護士は「被害者側に有利に働くような事実認定がされていない」と批判。
男性医師が上半身裸で顔入りの写真を撮影していたことなどについて「医学的に必要な行為としても説明がつかないわけではない」といった認定がなされたり、担当看護師が証言を変化させたことが「合理的」と判断されたりしたことなどから、「初めから無罪ありきで書いた判決だ」と話した。
山田廣弁護士は「担当看護師の証言の変遷など、総合的に証拠を見たときは有罪が明らかと考えている。控訴審でもしっかり弁護したい」と話した。
●事件の概要
女性は2016年5月、東京都足立区の病院で、右乳腺腫瘍の摘出手術を受けた。手術後、病室に運ばれて、「(担当していた医師に)乳首を舐められた」「(医師が)胸を見ながらマスターべーションしていた」として、被害を訴えた。
男性医師は、準強制わいせつ罪で逮捕・起訴されたが、一貫して「冤罪」を主張。公判では、(1)女性の証言の信用性、(2)DNA鑑定などが、科学的な証拠として認められるか――が争点となった。
東京地裁は2月20日、(1)女性が麻酔による「せん妄」という状態で、性的な幻覚をみた可能性がある、(2)女性の乳首から検出されたDNAは、触診や別の医師との会話などで付着した可能性があり、DNA鑑定の信用性に疑いがあるとして、男性医師に対して無罪を言い渡した。
東京地検は3月5日、男性医師を無罪とした東京地裁判決を不服として、東京高裁に控訴した。