大阪地検トップの検事正だった北川健太郎氏が、部下の女性検事への準強制性交罪に問われている事件をめぐり、女性検事のAさんが5月21日、東京丸の内の外国特派員協会で記者会見を開いた。
Aさんは「これは検察組織内の犯罪と二次加害についての公益通報です」とうったえ、検察の対応の問題などを検証する第三者委員会の設置を求めた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●性暴力だけでなく、検察組織の二次加害にも苦しみ
この事件では、北川氏は初公判で起訴内容を認めたが、その後、一転して無罪を主張している。Aさんは記者会見の冒頭、次のように強調した。
「私は検事である前に被害者であり、妻であり、母である1人の人間です。 今日は被害者としてスピーチします。お話ししたいことは3つあります。 1つ目は権力者の性暴力による苦しみ。2つ目は権力者に近い者の二次加害による苦しみ。3つ目は検察組織の二次加害による苦しみです。 これは検察組織内の犯罪と二次加害についての公益通報です」
大阪地検の元トップの性暴力事件をめぐる経緯(取材や新聞報道などをもとに弁護士ドットコムニュースが作成)
●被害者保護に動かない検察庁
Aさんは記者会見で、被害申告のあと、検察庁内外にAさんの情報やAさんへの誹謗中傷が広まるなどしたため、誹謗中傷などに関わった職員に注意したり謝罪させたりするよう検察庁に求めたが、何ら対応してもらえなかったと説明した。
「検察の二次加害により、働く権利を奪われ、組織の中で孤立させられ、救いのない死にたくなるような絶望を感じました。
ただ安全に働きたいだけなのに、私と家族をこれ以上苦しめないでほしい、私が死ななければ苦しみをわかってもらえないのかとうったえましたが、検察は説明すらしませんでした」
検察組織から二次加害を受けたとうったえた女性検事Aさん(2025年5月21日/外国特派員協会/弁護士ドットコム撮影)
●Aさん「他にも被害者がいるのではないか」
またAさんは、静岡地検検事正がセクハラで懲戒処分を受けたり、広島地検幹部によるパワハラで若手検事が自死した過去の例をあげ、「検察にはハラスメントが横行しています」と主張。
「検察の使命は、真相解明のために捜査、公判を尽くすことであり、それが被害者の尊厳や正義の回復、犯罪の厳正な処罰、治安維持につながります。
しかし今回、矮小化して組織を守ろうという誤った組織防衛の意識が働き、真相解明とは真逆の方向に暴走したと思わざるを得ません」
Aさんは検察の役割をそう説明したうえで、「今回の事件を契機に、徹底的に検証し、再発防止策を講じるべき」と述べ、検察から独立した第三者委員会の設置を求めた。
記者会見に同席したAさん代理人の安齋航太弁護士は、今後、国家賠償請求訴訟を起こすことなどを検討していると明かした(2025年5月21日/外国特派員協会/弁護士ドットコム撮影)
●検察審査会への申立てに向け、情報提供よびかけ
Aさんは2024年10月、名前などの自身に関する情報や捜査情報を北川氏側や他人に漏らしたとして、副検事の女性を国家公務員法違反や名誉毀損の疑いで刑事告訴した。
しかし、大阪高検は今年3月、この副検事を不起訴としたうえで、最も軽い「戒告」の懲戒処分にしたと発表した。
Aさんはこれを不服として検察審査会に申し立てるための調査を進めているといい、北川氏の事件やAさんに関する誹謗中傷などについて少しでも耳にしたことがある人たちに情報提供を呼びかけている。
情報提供先のメールアドレスは「boshu-okumura@okadalaw.com」。