「正直、まだ会いたい」 軽度知的障害の女性、オレオレ詐欺で有罪判決から1年…利用されても断ち切りがたい共犯者への思い
逮捕後から書いたノートと長谷川さん(2022年1月/弁護士ドットコムニュース)

「正直、まだ会いたい」 軽度知的障害の女性、オレオレ詐欺で有罪判決から1年…利用されても断ち切りがたい共犯者への思い

「軽度知的障害のある人が犯罪に巻き込まれる」

そのように聞いて思い浮かべるのは、加害者、それとも被害者としての障害者像だろうか。

オレオレ詐欺の「受け子」をつとめ、逮捕・起訴された女性(20)を2021年3月の初公判から取材した。彼女の知能指数(IQ)相当値からは、軽度知的障害に該当すると診断されている。

執行猶予付きの有罪判決を受けたあと、グループホームで生活しながら自立を目指す彼女について、相談支援事業所の責任者は「彼女には被害者の側面もあります」と話す。

女性は「オレオレ詐欺」という言葉だけは知っていたが、「オレ、オレは、男の人に関係する詐欺だと思っていたから、自分には関係ない」ことだと考えていたと語る。

事件から1年以上が経った今でも、女性は自分を「受け子」にした共犯男性への思いを完全には捨て切れていない。法廷で語られることのなかった本音を聞いてきた。(編集部・塚田賢慎)

●韓国のカルチャー、ネイリストに憧れる地方生まれの20歳

長谷川あかねさん(仮名)は、地方で生まれ育った20歳の女性だ。

東京にやってきて、特殊詐欺の「受け子」をつとめたために、逮捕・起訴され、昨年6月、懲役2年6月(求刑3年・執行猶予4年)の判決を言い渡された。

被害者の80代男性は、電話口で異常に気づき、通報していた。長谷川さんは、受け渡しの現場で、待ち構えていた警察に現行犯逮捕された。

判決を受けた日から、同じように障害などのある女性らとともに、都内のグループホームで生活している。

更生支援計画書にのっとり、規則正しい生活を送ることで自立を目指す。

ただし、許可のない外出や、携帯電話の使用は禁止されており、家族とも好きに連絡できないため、ストレスも感じている。

ホームでの取材は今年の1月中旬と2月上旬におこなった。1月の取材日は、たまたま事件からちょうど1年。長谷川さんは「もう1年。早いですね」と驚いていた。

「せっかく東京に来たから、原宿か新大久保のネイルに行きたい」

彼女にはネイリストになるという目標があり、ぼんやりとながら進路を考えている。

●中学で軽度知的障害の診断を受けた

昨年、「のんの相談支援事業所」の責任者・楠原公代さんから記者のもとに、「今度、特殊詐欺で利用されてしまった少女の受け入れ要請があった」との連絡を受け、裁判を傍聴した。「このように巻き込まれるケースが最近多く聞かれる」という。

長谷川さんは中学生のときに軽度知的障害とわかったそうだ。言語理解が苦手で、人に言葉で伝えることが特に苦手だという。また、記憶力、計算能力、集中力も低いとされた。

逮捕から初公判(3月)までの2か月間で、事件を起こした長谷川さんには国選の弁護人がつき、社会福祉士が更生支援計画書を作成、釈放された際の受け入れ先(同グループホーム)も決まっていた。

3月中旬、東京地裁——。

入廷した長谷川さんは緊張しているように見えた。

《顔の向きは検察席に向かってまっすぐでも、気になるのか、目端(左)で傍聴席を見ている。綺麗に爪を整えている》などと当時の取材ノートにはある。

一緒に逮捕された知人男性(実際は本名)や氏名不詳の者らとともに、孫や孫の上司などになりすまし、80代の男性宅に何度も電話し、「仕事で現金を至急必要としている」「上司の姪にお金を渡してほしい」と伝えた。しかし、不審に思った80代男性が、警察に通報していたことから、現金200万円(実際は警察が用意した偽金)の受け渡しの際に、警察に現行犯逮捕され、未遂に終わった。

検察官が上記の公訴事実を朗読する。「間違いがないか」と裁判官から問われた長谷川さんは、「はい、はい」とうなづいたが、「間違いがないか」ともう一度念押しされると、ちょっと左に首をかしげて、自信なさげに「はい」と答えた。

証拠調べ・論告・弁論は次回日程でおこなわれた。この日の初公判のなかで、長谷川さんの障害について触れられることはなかった。

事前に生い立ちを教わっていなければ、傍聴席からは、長谷川さんに知的障害があることがわからなかったはずだ。

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●オレオレに引きずりこんだ「知人男性」とは

彼女を東京に連れて行き、受け子の役割を与えたのが、「知人男性」だ。

現金受け渡しの現場にも付いて来て、長谷川さんに指示を直接出していた。

警察官が被害者と赴くと、知人男性(実際は本名)がいて、被告人になにやら指示をしている状況を見た。その後、被害者は指定場所で「お金です」と差し出すと、ちゅうちょせずに受け取ったことから、詐欺未遂の現行犯と認めて逮捕した。(【証拠】検察側の証拠(「現行犯人逮捕手続き書」)

裁判で弁護側は事実についてすべて認めており、長谷川さんも次回公判の被告人質問において、知人男性について「当初は信用していました。今は信用できないんだなと思ってます」と証言した。知人男性だけでなく、夜遊びで知り合った人たちとの関係を断ち、「更生」することの約束を口にした。

弁護人からは、地元のケースワーカーから聞いた内容をもとにしたアセスメント結果や、更生支援計画書などが証拠として提出された。

「弁1号証は更生支援計画書。社会福祉士作成。特性や障害、今後ののぞましい支援環境支援内容、支援目標が記されている。続いては…」

2号証の紹介に移ろうとする弁護士を制し、「それが重要だと思うので、中身を朗読してください」としたのが兒島光夫裁判官だった。

家族関係は難しいものだった。

父親は養育に無関心で長谷川さんとは会話がない。子育ては母親任せとなるが、この母親やきょうだいらも知的障害を有するか、その疑いがあるという。母親は子に愛情をもつものの、育児生活能力の低さから、ネグレクトが疑われ、養育不十分と判断されていた。

長谷川さんは事件の1年前から親元を離れ、共犯の知人男性と同居を始めた。他者に依存する特性があり、善悪の判断できないまま周囲に流される傾向があるという。

社会性の欠如と、善悪の判断の困難の原因は、家庭環境にもあり、両親や共犯者から距離をおくため、地元でないグループホームでの生活がのぞましいとのアセスメント(支援方針を立てるための評価・査定)結果が示された。

●犯行は知的障害の影響が

量刑に当たって考慮された事情は以下のポイントだ。裁判官は、易しい言葉を選ぶように、ゆっくりと話した。

・高齢の被害者が孫を思う気持ちを利用した悪質なもので組織性も認められるが、未遂で金銭的な被害は生じてない。
・犯行に不可欠な役割を果たしたが、強く言われて流され加担した面があり、軽度知的障害の影響もなかったとは言えない。
・犯情は芳しくないが、全体的なオレオレ詐欺のなかではマシな部類に属すると言える。
・前科なし。罪を認めている。社会復帰後の入居先など、更生の環境が整ってきていること。

続いて、もっとゆっくりと、語りかけるように執行猶予の意味を説明した。

「執行猶予の意味を説明します。ただちに刑務所に入れないで、社会のなかで更生するチャンスを与えることです。

執行猶予の期間は4年間。犯罪を犯しちゃダメということです。4年の間に罪を犯すことになると、今回の2年4カ月くらい刑務所で服役してもらうし、新たに犯した罪の刑もあわせることになるので、長く刑務所に行ってもらうことになります。

4年間は罪を犯さず、無事過ごすということになる。わかりますか? 言ってる意味はわかったかな。

くれぐれもその期間は真面目に生活してね。4年間が無事に経過しても、またやってしまうと。簡単に執行猶予は付かないから。4年の先も長く注意してね」

長谷川さんは逮捕後から、日記のようなノートを書き続けていた。見せてもらうと、判決の日付のページには、執行猶予の意味がメモされていた。

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「4年間の間にまた罪を犯したら、2年4カ月〜2年6カ月刑務署(ママ)

※4年間終わっても、悪い人について歩かない事、もしくは罪を犯さない事。」

判決言い渡しが終わり、法廷の外に出た弁護人は、執行猶予がついたことに安堵し、深いため息をついた。

ただ、検察が厳しい刑を求めたことも理解できると話す。

「未遂だったが、おじいさんは大切な200万円を盗まれたかもしれない。被害者にとっては、加害者の障害のあるなしは関係ないし、許せないに決まっている」

●弁護士からもらった辞書とCDプレーヤー

この弁護士は、国選での弁護を引き受け、社会福祉士と連携して、長谷川さんを支えた。判決が出た後も気にかけている。

長谷川さんの部屋には、弁護士からもらった国語辞典と、ポータブルCDプレーヤーがある。勾留中に読んだ本のなかで意味がわからない単語が出てきたら調べた。スマホのない生活も、プレーヤーで音楽を聴いてなんとか乗り越えられていると話す。

裁判で、長谷川さんは「悪いことをしている認識がないままなんとなく流されてしまった」と話していた。裁判で「なんとなく」とした部分をくわしく聞きたかった。

また、オレオレ詐欺に長谷川さんを巻き込んだ「キーマン」である知人男性との関係性や、受け渡しの状況における長谷川さん自身の認識を改めてインタビューで確かめたかった。

●本音はどうだったのか

——電話で話したり、お金を受け取ることについて、悪いことだと思っていましたか

なんとなくヤバいとは思ってたけど、「ノッチ」(長谷川さんは知人男性をあだ名で呼ぶ。便宜上、仮のあだ名を用意した)に脅されてるし、逃げたら何されるかわからなくて怖かった。怒られると、ノッチから蹴られたことを思い出して頭が真っ白になる。

——オレオレ詐欺をしている認識はありましたか

オレオレ詐欺は聞いたことがあったけど、俺という言葉をいうもので、男の人だけが何かするイメージでした。警察の人から渡された紙に「詐欺」と書いていたので、詐欺なんだとわかりました。

——ノッチとはどのような関係ですか

学校の同級生を通じて知り合いました。お父さんと一緒に働いている人でもあります。同い年で片思いしていました。

私と妹の部屋に、妹の元彼がいたから、私は弟の部屋に移って、ひきこもりになった。それを連れ出してくれたのが、ノッチ。ノッチの実家で同居しはじめました。

東京に行きたいと話したら、旅費を負担してくれました。「電話して」「電話くるから出て」と言われたのは事件の当日になって初めてです。その日はもう帰るつもりで荷物をまとめていたのに、「やらないとヤクザに指切られるよ」と言われて、東京に来る前にお腹を蹴られたこともあって、怖くて頭が真っ白になって、断りきれなくて。電話だけならわかったって。

普通に電話するだけだと思ってたけど、おじいさんのいるところに連れていかれて、お金を取りに「行け」って後ろから背中を押されました。思ってもないことだったから、おじいさんに「逃げて」って言いたかったけど、戸惑ってるうちに、警察が来て、「逃げて」と言う前に逮捕されました。

——ノッチに利用されたと思いますか

全体的にみると、そうかもしれませんが、ノッチもその上(の立場の人間)から利用されているんではないかと。私の弟を抱っこしたり、子どもが好きなんです。私と似た境遇で、ノッチも軽度知的かもしれなくて、悪い人といい人の区別がつかないのかなと思います。

——ノッチと関係を断つことを約束したけど、まだ会いたいですか

正直にいうと、ほんの少しはまだ、会いたいと思います。自分と何か似ているし、私も誰かに助けを求めたかったし、彼も誰かに助けを求めたかったのかも。

——おじいさんに謝りたいと考えたことはありますか

謝りたいけど、謝っても、相手からしたら許してもらえないことだから、その分、こう経験して、自分の意見の大切さと、こういうことに気をつけること、いろんな面を気づかせてくれたのがおじいさんだから、そのぶん頑張らないとなとは思いました。その気づかせてくれたのがおじいさんかもしれない。(長谷川さんは初めて涙を流した)

感謝しきれない。自分が変わるチャンスをくれたのかなと思いました。

今まで言いたいことを我慢してきたので、相談しなかったから、信用できる人にしようと思います。

●知的障害者が特殊詐欺の端役に使われている

2月にもう一度取材した際も、長谷川さんは、もしノッチの情報が何かわかったら教えてくださいと記者に頼んできた。それはできないと断ったが、どうしてもノッチへの思いを断ち切ることができないようだった。

一方で、犯した罪への反省と、被害者への謝罪の気持ちもまた感じられた。「手錠をかけられて裁判所に向かった記憶や感触がまだあります」と話していた。

楠原さんは「彼女もまた被害者の側面があるように感じます」と語る。

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障害者が特殊詐欺の加害者として巻き込まれるケースは増えているのだろうか。巻き込まれているとするならば、どのような支援が必要とされるのだろう。

障害者の直面するトラブル解決にあたる弁護士集団「全国トラブルシューター弁護士ネットワーク」の代表・中田雅久弁護士に聞いた。

「知的障害者と犯罪について、特殊詐欺に特化したデータはありません。しかし、刑事弁護に携わるなかでの体感としては、知的だけでなく、発達障害の人も含めて、特殊詐欺への関与が多いと感じます。少年事件も含めて、特に若い人に目立ちます」

今回の長谷川さんは、刑事手続きを受ける軽度知的障害者のなかで「珍しいケース」に属するという。事件に巻き込まれるなかで、知的障害との診断がついていない、少なくとも事件当時は診断を受けていない人のほうが圧倒的に多いそうだ。

「IQ相当値が軽度知的に該当する60〜70程度ですと、会話しても普通に受け答えしているように見えるため、学校でも『ちょっと勉強が苦手』くらいに思われて、本人も親も気づいていないことはあります。

刑務所に何度も入った経験のある人の弁護を引き受けると、実は知的障害があったと判明することがあります。その人が今まで受けてきた裁判の過程では、国選弁護人、検察官、裁判官と担当している法律家がいても、見過ごされているわけです」

刑事弁護にあたる弁護士の態度としては、障害を疑うべきケースもきっとある。しかし、障害の有無について鑑定をすることが、依頼人の利益につながるかどうか判断は分かれるだろう。

「率直に言うと、被害の小さな事件であれば、起訴されないことがほとんどですし、起訴されても1回目なら執行猶予が付けられがちです。それがわかっているのに、鑑定請求をして、結論が出るまで身体拘束を何カ月も長引かせることを弁護人がやるかというと、難しい。

無罪を勝ち取る、あるいは執行猶予判決を目指すのは弁護士として当然のことです。それに加えて、必要な福祉サービスにつなげることも本人のためになるとの考えもあることに留意すべきでしょう」

●共犯者の男性と「今も会いたい」

特殊詐欺などの犯罪に巻き込まれるのは、ツイッターなどSNSのバイト募集に釣られるパターンが比較的多く、地元の先輩や知り合いに誘われるケースも。

長谷川さんは、ノッチと「今も会いたい」と本音を話していた。

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「ほかに居場所、人間関係を築ける場所の乏しさがあると思います。支援が足りない環境にあって、本人がさみしさを感じる場合、自分にかかわってくれた人の悪い面に気づいても、縁を切れないことがあります。犯罪に関わるような人以外と社会のなかで関わる機会が制限されてしまっているのが大きいでしょう。

社会福祉の制度を使うためには、申請・認定・受け入れ事業先の決定・サービス提供の開始など、必要な人に支援が届くまでにタイムラグがあります。皮肉なことに、大規模な特殊詐欺であれば、会社のような組織体なので、生活する力が弱い人に、住むところ・仕事・お金、人間関係、愛情をぜんぶパッケージで提供できてしまいます」(中田弁護士)

今回、記者は長谷川さんに「被害者に謝りたい気持ち」を尋ねたが、それが必要な質問だったのかと弁護士は逆に問いかける。

「まず、事件を忘れたいという被害者もいるので、事件が終わった後に、謝罪にどこまで力を注ぐかは相手のことを考える必要があります。

他方、殺人や性犯罪で、相手の一生に大きな影響を与えた事件であれば、十字架を一生背負うことになるでしょう。しかし、幸いにして、実質的な被害が出ていない事件で、『ずっと私は犯罪者だ』とくすぶりながら生きていくのが、本人にとって良いかどうかは検討の余地があることです。

罪を償い終わった段階で新しい人生を始めてほしいと思います。

やり直したい人が、なんとか社会に踏みとどまっていても、どうしても誘惑や感情的な場面に遭う。そんなとき、グッとこらえるブレーキになるのは、事件を起こしたら失うかもしれない仕事・家族・出番・居場所など、自分にとって大事なものです。心のどこかで、この場所は本当の幸せではないと思ったままだと、捨て鉢な気持ちになりやすい。

ネイリストになる目標があるっていいことですよね。それに向かって自分が着実に近づいていくなかで、手放したくない人間関係を身につけてほしいです」

●「仕事でイヤなことがあったらどうすればいいですか?」

一度目のインタビューは、体調面のことも考慮して時間が決められていた。時間内に終えると、長谷川さんから「仕事でイヤなことがあったり、辞めたい気持ちになったりしたとき、どうしていますか」と逆取材がはじまり、終えたときにはインタビューと同じだけの時間が過ぎていた。

支援計画では、自立までに短期(〜6カ月)・中期(〜2年間)・長期(職場定着以後〜)の目標がそれぞれ用意されている。

グループホームで生活を整え、就労支援事業所で就労する(短期)。施設退所後の居住先を見つけ、福祉制度を利用した相談機関に登録し、相談援助を受けながら地域生活の安定を図る(中期)。職場や相談機関などの関係の構築を実現し、自立更生と地域生活の安定を図る(長期)。

これまでバイト経験や就労移行支援事業所での作業経験はあるものの、なかなか続けられなかった長谷川さんにとって、「職場での関係構築」や「自立」という目標は、言葉なじみだ けはよいものの、とても不安に感じていることが伝わってきた。

裁判のなかで、長谷川さんが「誓います」と答えた場面があった。

検察からの「いろんな人が支援に協力している。その期待にこたえて、まっとうに生きていくと誓いますか」という質問への答えだ。

罪を犯したとき、福祉のサポートにつながることはある意味ラッキーなのかもしれない。ただ、障害のあるなしにかかわらず、自立に結びつくのは、最後は本人の強い意思次第だろう。

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