北海道旭川市で2024年、当時17歳の少女を監禁したうえ、橋から川に落下させて死亡させたとして、不同意わいせつ致死や殺人などの罪に問われた内田梨瑚被告人(現受刑者)に対し、旭川地裁(田中結花裁判長)は6月22日、求刑通り懲役27年を言い渡した。
判決はすでに確定している。
「旭川女子高生殺害事件」として社会的な注目を集めたこの裁判では、被告人が殺意などを否認し、(1)殺人の実行行為性・故意・共謀、(2)不同意わいせつと死亡との因果関係、(3)監禁罪の始期、の3点が主な争点となった。
被害少女が最終的に自ら川へ落下した可能性が否定できないとされた中で、なぜ「殺人」が認定されたのか——。弁護士ドットコムニュースは、確定判決の判決要旨をもとに、裁判所が認定した事実と、争点に対する判断の内容を詳しく紹介する。
*この記事には、暴行や性的な辱めに関する描写が含まれます。お読みになる際にはご注意ください。すでに判決は確定していますが、判決要旨の表現、判決宣告時点の「被告人」呼称を使います。
●監禁・不同意わいせつ致死・殺人の罪に問われた
内田被告人が問われたのは、監禁罪と不同意わいせつ致死罪、殺人罪だ。
時系列(判決要旨をもとに弁護士ドットコム作成)
判決によると、被告人は自分が写った画像を無断で使われたことに因縁をつけ、共犯者である小西優花被告人(懲役23年が確定)と、ほかの2人(判決では「X」「Y」)と共謀するなどして、少女を車で連れ回して監禁。
その後、少女を全裸にして辱めるわいせつ行為をしたうえ、殺意をもって神居大橋から石狩川に落下させ、溺水による窒息で死亡させたとされる。
このうち「不同意わいせつ致死」は、被害者が抵抗できない状態に乗じてわいせつな行為をし、その結果として被害者を死亡させた場合に成立する罪だ。
裁判所は、この不同意わいせつ致死と殺人について、いずれも被告人と小西被告人が意思を通じておこなった共同正犯にあたると認定した。
旭川地裁はこれらの罪について、被告人を懲役27年に処し、未決勾留日数のうち500日を刑期に算入すると言い渡した。
●争点に対する判断の結論
判決は、3つの争点について、いずれも被告人側の主張を退けた。
殺人については、被告人が少女を突き落とした事実までは認定しなかった。それでも、衰弱した少女を欄干の外側に立たせて「死ね」「落ちろ」などと迫った行為は、誤って落下した場合でも自ら落下した場合でも「殺人の実行行為」にあたると判断。殺意と共謀も認めた。
不同意わいせつ致死については、わいせつ行為と殺人の実行行為が「辱める」という同一の目的で不可分だとして、死亡との因果関係を認めた。監禁罪については、留萌市の道の駅で少女を車に乗せ、発進させた時点から成立するとした。
そのうえで、有期の懲役刑としては上限にあたる懲役27年を選択した。まず量刑の理由をみたうえで、争点ごとの判断を順にみる。
●犯行は「非常に残虐で卑劣なもの」
裁判所の判決は、量刑の理由について、次のような考えを示した。
量刑の中心となる殺人と不同意わいせつ致死について、執拗な暴行を加え、全裸にして録画するなど強く辱めたうえで「繰り返し死を迫って橋の上から落下させている」とし、その犯行態様は「非常に残虐で卑劣なもの」と厳しく評価した。
被害者が「想像を絶する苦しみの中、17歳という若さで尊い生命を奪われた」として結果の重大性を指摘し、遺族が厳罰を望むのも当然だとした。
動機についても、被害者がコンビニで助けを求めるという当然の行動に出たことに激昂したもので「短絡的かつ極めて自己中心的」であり、「酌量の余地は全くない」と述べた。
監禁についても、未成年の被害者を夜中に一人で来るよう呼び出し、約4時間にわたって自力で帰宅することが困難な場所まで連行し、逃げ出そうとした被害者を暴力などで阻止したとして「悪質である」と指摘した。
被告人と共犯者との役割についても、被告人が「年下の共犯者らを従えて、監禁を終始主導した」と位置づけた。
共犯者にも重い責任はあるとしつつ、わいせつ行為や被害者の死亡に直接つながる行為を「決定して共犯者に指示」していたのは被告人だったとして、「被告人が果たした役割は共犯者よりも大きい」と判断した。
同種事案の量刑傾向と照らすと、「非常に重い部類に属する事案」であり、無期刑を選択すべきとまでは断じられないものの、相当長期の実刑が必要だと判断。犯行直後からの隠蔽や公判での不合理な供述から、「自責の念に基づいた真摯な反省をくみ取ることはできない」とした。
こうして判決は、謝罪の言葉や若年であること、前科がないことなど酌むべき事情を考慮しても、「有期懲役刑を選択した場合における最長の刑を科するほかない」として、懲役27年を言い渡した。
●突き落としていないが「殺人の実行行為」が認定された
最大の争点は、被告人が少女を突き落としたと認定されない中で、少女を欄干の外側に立たせ、「落ちろ」などと迫った行為を「殺人の実行行為」と評価できるかだった。
被告人は、少女が死にたいなどと言うのが本気かどうかを試すためだったとして、殺意はなかったと供述していた。
裁判所はまず、落下直前の少女の状態を、約4時間にわたる連れ回しや執拗な暴行・脅迫によって「心身共に追い詰められ、相当衰弱した状態にあった」と認定した。
そのうえで、直下約13メートルに急流が流れる橋の欄干外側の、幅約10センチしかない床板部分に立たせて「死ね、落ちろ」などと繰り返し怒鳴る行為は、「衰弱した少女がバランスを崩すなどして橋から落下し、死亡する現実的な危険性が高いもの」だと判断した。
さらに、少女が「もはや被告人らの命令に応じて橋から落ちる以外の行為を選択することができない精神状態に陥っていた」と認定。
たとえ最終的に自ら落下したとしても、被告人らの行為は「(少女)をして被告人らの命令に応じて、橋から落下するという死亡の現実的危険性が高い行為に及ばせたもの」と評価できるとした。
こうして、「橋から誤って落下したか、自ら落下したかのいずれであっても、殺人の実行行為に該当する」と結論づけた。
●「死亡しても構わないと考えていたことは明らか」
殺意も認めた。
被告人と小西被告人は、少女を欄干に座らせ、その外側に立たせており、行為の危険性や少女の衰弱を十分認識していたと推認されるとした。
加えて、コンビニで助けを求めた後から落下に至るまで、執拗に「死ね」などと怒鳴っていた点を重視し、「いかに被告人が日常において死ねという言葉を軽い意味で使用していた」としても、この場面では「死亡しても構わないと考えていたことは明らかである」と認定した。
被告人の「殺意はなかった」との弁解も退けた。
本気かを試すために全裸にさせ、死の危険がある行為をさせたという説明は「直ちには首肯し難い」うえ、危険性をわかったうえであえて及んだ事実を否定するものではないと判断した。
以上から裁判所は、被告人らが危険性をわかったうえで「互いに意思を通じ、あえて」実行行為に及んだと認定。殺人の故意と共謀を認めた。
●不同意わいせつと死亡の因果関係も認めた
2つ目の争点は、少女を全裸にして辱めた不同意わいせつ行為と死亡との間に因果関係が認められるか、つまり「不同意わいせつ致死」が成立するかどうかである。
裁判所は、被告人らが、少女がコンビニで助けを求めたことで自分たちの暴行が防犯カメラに映ったと考えて激怒し、「制裁して辱める目的」で全裸にして繰り返し暴行し、土下座や欄干上での謝罪を動画撮影したうえで、全裸のまま欄干の外側に立たせて「死ね、落ちろ」などと怒鳴りつけたと認定した。
そのうえで、殺人の実行行為は「被告人らによるわいせつ行為の継続中に、辱めるという同一の目的で行われたもの」であり、両者は「不可分の関係にある」と判断。少女の死亡は「被告人らによるわいせつ行為に包含された危険が現実化したもの」だとして、因果関係を認めた。
●車両を発進させた時点から「監禁罪」成立
3つ目の争点は、監禁罪の始期である。被告人は、道の駅で少女を車に乗せた際の「黙って乗ってろよ。バッタバタにしてやるから」という発言について、公判では心の中で思っただけである旨供述していた。
裁判所は、この供述には「供述が変遷した合理的な説明はなく」、信用できないと判断した。
当時17歳の少女が、暴力団構成員との関係をうかがわせる被告人から因縁をつけられ、夜中に人けのない場所で会うことになった状況などからすれば、「乗車を自由な意思で選択したとは考えられない」とした。道中に「帰りたい」と車から出ようとしていたことも、その裏付けになるとした。
こうして、「(少女)を道の駅で車両に乗り込ませ、これを発進させた時点から」監禁罪が成立すると認定した。
●両手で「押した」とは認定せず
神居古潭・神居大橋での事実認定は、共犯者である小西被告人の供述の信用性に大きく関わっていた。
裁判所は、小西被告人の供述が自己に不利益な暴行・脅迫についても明確であること、橋上の状況をビデオ通話で把握していたXの供述とも整合すること、被告人自身も全裸にして土下座させたことや橋上での暴行・脅迫を認めていることなどから、信用できると判断した。
もっとも、「被告人が、(少女)の肩甲骨の辺りを両手で押した」という部分については、裏付けがなく、供述の経過や変遷の理由も明らかでないなどとして、信用性を「断定することまではできない」とし、押したとは認定しなかった。
●裁判所が認定した事件の経緯
裁判所が認定した事実経過の概要は、次のとおり。
被告人らの動き(判決要旨をもとに弁護士ドットコム作成)
2024年4月18日夜、少女(当時17歳)が、被告人の写った画像を無断で自身のインスタグラムに投稿した。これを知った被告人は少女に電話をかけ、Xに暴力団構成員のふりをさせるなどして因縁をつけ、一人で来るよう伝えた。
同日午後11時37分ごろ、留萌市の道の駅で少女と合流し、助手席に乗せて旭川市内へ向かった。裁判所は、この時点から監禁罪が成立すると認定した。被告人はスマートフォンを取り上げ、高速道路上で「帰りたい」と車外に出ようとした少女を暴行で阻止した。
翌19日未明、旭川市内の小学校駐車場で土下座と謝罪を強要して動画撮影し、50万円の支払いを要求。午前3時6分ごろ、コンビニに立ち寄ると、少女は店員に通報を依頼して助けを求めたが、被告人と小西被告人は引きずり出して暴行を加えた。
その後、神居古潭の駐車場で少女を全裸にさせ、着衣を投棄して土下座を撮影。神居大橋では「死ね」「落ちろ」などと怒鳴り、欄干の外側の狭い床板部分に立たせた。
少女は上体を前に傾けた後に落下し、溺水による窒息で死亡した。気温は摂氏5度前後で、小雨が降っていた。橋の直下約13メートルには急流の石狩川が流れている。
裁判所は、被告人が少女を突き落とした事実までは認定していない。
●【判決要旨】罪となるべき事実
被告人は、
第1 被告人が写った画像データを無断で使用したAを監禁しようと考え、小西優花(以下「小西」という。)、X及びYと共謀の上、令和6年4月18日午後9時頃から同日午後11時37分頃までの間に、Aに対し、電話で、「どう落とし前つけんの、誰にけんか売ってんの。」などと語気鋭く言うなどした上、北海道留萌市の道の駅において、Aを同所に停車中の軽四輪乗用自動車に乗り込ませ、同自動車を発進させて、同日午後11時37分頃から同月19日午前3時29分頃までの間、走行中の同自動車内でAの動静を監視するなどして同所から旭川市神居町神居古潭神居大橋に至るまで同自動車を走行させるなどし、Aが同自動車内等から脱出することを著しく困難にし、もってAを不法に監禁し、
第2 前記第1のとおりAを前記自動車に乗車させて北海道留萌市内から前記神居大橋に至るまで同自動車を走行させ、その間に、旭川市内のコンビニ等において、Aに馬乗りになってその顔面を殴打するなどの暴行を加えるなどしてAを監禁したものであるが、小西と共謀の上、令和6年4月19日午前3時29分頃から同日午前3時48分頃までの間に、前記神居大橋付近において、Aに対し、Aが前記暴行を伴う一連の虐待に起因する心理的反応により同意しない意思を全うすることが困難な状態にあることに乗じ、その着衣を脱ぐよう命じてAを全裸にさせ、Aに土下座して謝罪させている状況を携帯電話機で動画撮影した上、前記神居大橋において、Aの腰部を蹴るなどの暴行を加え、Aを前記神居大橋の欄干に座らせて謝罪させている状況を携帯電話機で動画撮影するなどのわいせつな行為をし、その頃、同所において、殺意をもって、前記一連の暴行等により被告人及び小西を極度に畏怖するなどしているAを前記欄干に再度座らせ、Aに対し、「落ちろ。」「死ねや。」などと言うなどしてAを前記神居大橋からその直下を流れる石狩川に落下させ、よって、同日頃、Aを溺水による窒息により死亡させて殺害した。
●【さらにくわしく】
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