有罪が確定していないのに、身体を拘束されている間に運転免許が失効し、再取得も難しくなる──。
長年続いてきたこの問題について、国が運用を見直した。
法務省矯正局は今年5月、刑事施設内で運転免許の試験を受けられる対象に、逮捕・勾留されている被疑者や裁判中の被告人などの「未決拘禁者」のうち、免許が失効した人も加えた。
これまで施設内での免許試験の受験は受刑者などに限られ、被告人らは対象外とされていた。
弁護士ドットコムニュースが情報公開請求で入手した法務省の通知には、運用変更の経緯や対象者の条件、共犯者同士の接触を避けるための対応などが記されていた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●受刑者は認められ、裁判中の被告人は対象外だった
運転免許は、有効期間内に更新できず失効しても、一定の条件を満たせば、試験の一部が免除される制度がある。
道路交通法では、海外旅行や災害など、「やむを得ない理由」で更新できなかった人について、一定期間内であれば技能試験などを免除して免許を再取得できる仕組みを設けている。
この「やむを得ない理由」には、道路交通法施行令で「法令の規定により身体の自由を拘束されていたこと」も含まれている。
しかし、刑務所や少年院などの矯正施設に収容されている間に免許が失効し、法律が定める「3年」の期限を過ぎると、出所後に再取得しようとしても試験の一部免除を受けられず、すべての試験を受け直さなければならない。
このため、法務省はこれまで、受刑者などに対しては施設内で免許試験を受ける機会を設けてきた。
一方で、判決が確定していない未決拘禁者については、施設内での受験を認めていなかった。
●「警察庁との協議が整った」失効から「おおむね2年」が条件
この問題について、弁護士ドットコムニュースが法務省に情報公開請求したところ、全国の刑務所長や少年院長に宛てた2026年5月27日付の通知(法務省矯成第799号)が開示された。
通知は、法務省矯正局成人矯正課長・少年矯正課長の連名で出されたものだ。
通知では、未決拘禁者についても「拘禁の趣旨・目的に反しない範囲」で受験の機会を与えることが相当だと説明。「警察庁との協議が整った」として、施設内での受験対象に加えた。
免許更新のお知らせ(rw / PIXTA)
対象となるのは、2001年6月20日以降に矯正施設に入所し、収容中に免許が失効した後も、引き続き刑事施設や少年院に収容されている人だ。
ただし、未決拘禁者の場合、試験の実施予定日の時点で、免許の失効から「おおむね2年」が経過していることが条件となる。
また、受刑者などについても、失効日から「おおむね2年6月以内」に出所することが明らかな場合は対象外になる。
試験は年1回実施され、具体的な日程は各施設と、その所在地を管轄する都道府県警察本部が協議して決めるという。
●接見禁止中は「仕切り」設置、共犯者同士の接触も防止
未決拘禁者を対象に加えるにあたり、通知では、刑事裁判への影響を避けるための対応も示されている。
たとえば、裁判所から「接見禁止」などの決定を受けている人が受験する場合は、仕切りを設けたり、隣の席との間隔をあけたりして、他の収容者との接触をできる限り避けるよう求めている。
複数の施設が合同で試験を実施する場合も想定している。
別々の施設に共犯者が収容されている場合には、検察官の意見を聴くなどして、共犯者同士が接触しないよう注意を求めている。
試験の申請や講習にかかる手数料は本人負担だ。新たに交付される免許証には施設の住所が記載されるため、事前に本人から同意書を取ることも定めている。
名古屋拘置所(akira / PIXTA)
●名古屋では国賠訴訟も…弁護士「大きな前進だが注視が必要」
この問題をめぐっては、署名活動や裁判の動きも起きている。
名古屋刑務所で服役中の男性が2025年5月、勾留中に免許を更新できず失効したのは違憲だとして、国を相手取り、国家賠償請求訴訟を起こした。
訴状によると、男性は名古屋拘置所に収容されていた際、施設内での受験を繰り返し求めたものの、認められなかったという。
2024年には、拘置所で運転免許証を更新できるようにしてほしいと求める署名を支援者が集め、国会議員らに手渡したこともあった。
今回の運用変更について、男性の代理人をつとめる大野鉄平弁護士は「とても大きな前進だと受け止めている」と評価する。
一方、制度が変わっても、実際に受験の機会が保障されるかどうかは、別の問題だと指摘する。
「この通知が適正に実施されるかどうかは注視する必要があると考えています。 なぜなら、受刑者の場合は今回の運用変更以前より刑事施設内での受験が許されていましたが、それでも事実上、受験の機会が与えられないまま失効から3年を経過してしまう方もいます。 今回の運用変更についても同様の問題が生じる可能性は十分にあり、受験の機会が実質的に確保されるのかどうか注視していく必要があります」