都内有数の人気ランニングスポットとして知られる皇居周辺で、ランナーと歩行者のトラブルが問題になっている。
皇居外周は1周約5キロ。信号がなく、都心でアクセスもよいことなどから、多くのランナーに親しまれてきた。特に2007年に始まった東京マラソンをきっかけにランニングブームが広がり、皇居周辺を走る人も増えたとされる。
しかし、皇居外周はランナー専用のコースではない。観光客や通勤する人なども行き交う一般の歩道だ。ランナーが増える中、歩行者との接触などのトラブルが問題になってきた。
こうした状況を受け、千代田区や警察、関係行政機関、ランナーなどで構成する「皇居周辺地域委員会」は2013年、「皇居周辺歩道利用マナー」を策定。「歩道は歩行者優先」と明記し、安全な利用を呼びかけている。
ところが、マナーの策定から10年以上が経った今も、問題は解消されていない。
千代田区議会では10月1日、皇居ランの安全対策が一般質問で取り上げられた。危険な追い越しや高速走行、グループによる歩道の占有、逆走などが問題として指摘され、区は今年度中に皇居ランの実態調査をおこなう方針を明らかにした。
区には、歩行中に後ろから来たランナーから道を譲るよう威圧的な対応を受けた、ランナーと接触した、といった声も寄せられているという。
では、ランナーが歩行者にぶつかり、転倒させたり、ケガを負わせたりした場合、どのような法的責任を負うのだろうか。
また、「歩行者優先」のマナーを守らず、混雑した歩道を高速で走ったり、無理な追い越しをしたりして事故を起こした場合、責任は重くなるのだろうか。竹内省吾弁護士に聞いた。
●歩行者と衝突、賠償額が1億円近くになる可能性も
──一般の歩道を走っているランナーが歩行者と衝突し、ケガを負わせた場合、どのような民事上の責任を負う可能性がありますか。高額な賠償を求められることもあるのでしょうか。
民法709条に基づく不法行為責任を負い、高額な損害賠償を求められる可能性があります。
歩行者が転倒して重い後遺障害が残った場合、治療費や慰謝料、逸失利益、介護費用などが加算され、賠償額が1億円近くになることも考えられます。
自転車などの乗り物に乗っていなくとも、生じた被害に応じて賠償責任が決まります。
重要なのは、法的な責任の重さは、単に「ランナーだから重い」という形式的な区分ではなく、双方の「速度」と「移動態様」など、実際の危険性によって判断されるという点です。
たとえば、陸上競技の「競歩」は法的には歩行ですが、時速12〜15キロの高速移動です。衝突時の衝撃や、とっさに回避する難しさは、一般的なジョギング以上と考えられます。
そのため、競歩をしている人が歩行者に追突した場合、事故状況によっては、自転車事故と同様に、衝突した側に全面的な過失が認められる可能性もあるでしょう。
一方、歩行者側だからといって、必ずしも過失がゼロになるとは限りません。
たとえば、体と顔だけ後ろを向いて進む「ムーンウォーク」のような歩き方をしていた場合です。
進行方向を十分に確認できず、とっさに立ち止まることも難しくなります。ランナーの接近を認識(予見)しながら、適切な回避行動を取らなかったと評価されれば、歩行者側にも過失が認められ、賠償額が1〜3割程度減額される可能性があります。
このように、単に「走っていたか、歩いていたか」だけではなく、互いの速度や周囲の確認状況、衝突を回避できたかどうかなど、具体的な事情によって過失割合は変わります。
●「ながらラン」や強引な追い抜きで刑事責任も
──歩行者にケガを負わせた場合、刑事責任を問われる可能性もあるのでしょうか。
あります。不注意によって人にケガを負わせた場合、過失傷害罪(刑法209条)が成立する可能性があります。法定刑は、30万円以下の罰金または科料です。
さらに、著しく注意を欠いた危険な走り方をしていた場合には、重過失傷害罪(刑法211条後段)が問題になることも考えられます。法定刑は、5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。
たとえば、スマートフォンやスマートウォッチの画面に気を取られながら走ったり、前方が十分に見えない状況で強引に追い越したりして歩行者に衝突した場合です。
●「歩行者優先」のマナー違反、事故の責任にも影響?
──皇居周辺では「歩行者優先」などの利用マナーが定められています。法的な強制力がなくても、マナーに反する走り方をしていたことが、事故の際の過失を判断する材料になるのでしょうか。
マナー自体に直接の法的強制力はありませんが、「その状況下で通常求められる注意を払っていたか」を判断する際の重要な材料になります。
皇居周辺では、「歩行者優先」や「左側通行」「集団占有の禁止」といったルールが周知されています。
それにもかかわらず、高速走行や逆走、歩道の占有などをして事故を起こした場合には、「危険性を予見できたのに、あえて事故を回避しにくい走り方を選んだ」と評価される可能性があります。