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ガラス板は「3対2」のはずが…死刑執行の「飯塚事件」DNA鑑定写真に“切り取り”の疑い、清水潔氏が見抜いたワケ
ジャーナリストの清水潔さん(2026年9月30日、東京都港区で、弁護士ドットコムニュース撮影)

ガラス板は「3対2」のはずが…死刑執行の「飯塚事件」DNA鑑定写真に“切り取り”の疑い、清水潔氏が見抜いたワケ

「正直に言いますが、何も変わらないと思います」

死刑判決を支えたDNA型鑑定に、重大な疑いが浮かび上がった。それでも、長年事件を追い続けてきたジャーナリストの清水潔さんは、そう言い切る。

NHKで9月23日に放送された「未解決事件」File.19。番組が取り上げたのは、1979年から1996年にかけて栃木・群馬の県境付近で幼い女の子5人が誘拐、殺害された「北関東連続幼女誘拐殺人事件」と、すでに死刑が執行された福岡の「飯塚事件」だ。

番組では、有罪の証拠の一つとされたDNA型鑑定をあらためて検証。鑑定書に使われた写真が、元のネガフィルムの一部を切り取って作られた疑いがあることを明らかにした。

これほど重大な疑いが浮上すれば、再審や捜査が動き出すのではないか──。そんな期待も抱かせる内容だった。

事件を追い続け、今回NHKに取材協力した清水さんに、今後の展望を聞いた。しかし、返ってきたのは、この国の刑事司法に対する厳しい見方だった。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

●「こんなに知らない人が多いんだな」

──番組の反響をどう受け止めていますか。

今回の放送にはいろいろなテーマが入っていたので、事件のことを知って驚く人もいるだろうな、というぐらいは予測していました。

ただ、北関東連続幼女誘拐殺人事件のこと自体を知らない人がこんなに多いのかと、むしろそっちのほうに驚きました。

──フリーのジャーナリストである清水さんがNHKに取材協力するという形は、どうやって実現したのでしょうか。

実は、2024年に放送されたNHKスペシャル「祖父はユダヤ人を救った〜ガザ攻撃と“命のビザ”〜」で、外交官の杉原千畝を取り上げたとき、ディレクターとして制作に関わりました。

そんな中で、NHK側から「何か一緒にできませんか」と声がかかったんです。

──今回のNHK「未解決事件」のディレクター、境一敬さんは、日本テレビ時代にドキュメンタリーを作っていたという経歴があるようですね。

境さんは、私が日本テレビにいたときの右腕のような存在で、一緒に調査報道の番組を作ったことがありました。彼がNHKにいたことも、今回の放送につながったと思います。

日本テレビでは、やることはやり尽くしましたが、NHKでやれば非常に影響力があるだろうなというので、やってみたいという思いもありました。

●鑑定書をいくつも読み込んで「あれっ」

──放送が浮き彫りにしたのが、DNA型鑑定の「MCT118型鑑定」の実態です。飯塚事件で、死刑判決を根拠づけた証拠の一つである鑑定書の写真が、警察庁の科学警察研究所(科警研)によって元のネガフィルムから切り取られていた疑いがあると。

番組では今年1月の場面として扱いましたが、取材を始めた昨年の秋頃から、「これはおかしいな」と思っていました。

本当なのかどうか確認作業を進める中で、1月の段階で「これはもう明らかにおかしい」と。

──なぜ、清水さんは気づくことができたのでしょうか。

北関東連続幼女誘拐殺人事件については、日本テレビにいたときにもたくさんやりましたが、DNA型鑑定の部分に関しては、まだやり尽くしていませんでした。

僕が気づけたのは、これまでいくつかのDNA型鑑定に関する事件の資料を読み込んできた経験があったからだと思います。

一つの事件だと、なかなか気づけない。鑑定書をいくつも読み込んでいたので、「あれっ」というところが出てきた。

──何がおかしかったのですか。

もともと僕は週刊誌のカメラマンだったので、ネガフィルムについては知っています。

DNA型鑑定で使われた、ガラスの板で囲んだゼリー状の「ゲル」には、実はガラス板のサイズがあって、それは3対2の比率なんですよ。それが鑑定書の写真では、3対2になっていない。

なんでゲルの幅が実験ごとに違うのか?という疑問から入っていった感じです。

明らかに切っているなということは、早い段階でわかるわけですよ。難しいのは、それにどういう意味があるのか。

切られている部分をよく見ると、バンドのようなものがある。これをバンドと言えるのかどうか。専門家に相談しながら、ゲルの倍率を合わせてみたところ、一致するなと。

画像タイトル 「北関東連続幼女誘拐殺人事件」を追った清水さんの著書「殺人犯はそこにいる」(2026年9月、弁護士ドットコムニュース撮影)

●不一致なら「無実の証明」

──それを見つけたとき、どう感じましたか。

テンションが上がるとかはなく、「あ、こういうことか」って。長年の謎が解けた感じでした。

捜査機関側は、足利事件の鑑定でやった「同時泳動」を、飯塚事件ではやっていないと言い続けてきたわけです。

だから、なぜ飯塚事件ではやらなかったんだという疑問が強かった。ずっとモヤモヤしていましたが、やっぱりやってたんだな、という気持ちが一番強かったですね。

──この発見には、どんな意味がありますか。

飯塚事件の弁護団はこれまで、このDNA型鑑定は証拠にならない、という扱いで争ってきました。

しかし、今回の発見は、死刑が執行された久間三千年(くま・みちとし)さんが犯人ではないという証明ができる可能性がある、ということです。

この考え方が正しければ、久間さんのDNAとは不一致。絶対に犯人になれない。

不一致ということになれば、無実の証拠であるということです。その時点で、他の目撃証言などの状況証拠の積み重ねは、すべて意味がなくなります。

──これだけの重大な疑いが生じていながら、なぜ事態は変わらないのでしょうか。

理由は簡単です。捜査当局にとって、事件はすでに解決しているんです。今更その間違いを認められない。

足利事件の菅家利和(すがや・としかず)さんは再鑑定ができたのでまだ良かったけど、ネガフィルムはないんですよ。そして飯塚事件では、鑑定試料を使い切っているから再鑑定ができない。

どちらの事件も、「DNAの再鑑定をされたら終わり」という構造になっています。

●再鑑定が決まった直後の死刑執行

──足利事件でDNAの再鑑定が決まった直後に、久間さんの死刑が執行されました。どう見ていますか。

「DNA型鑑定が間違っていたことがわかる前に国が死刑を執行した」などと推測する人がいますが、僕はそうは考えていません。

なぜなら、足利事件でDNAの再鑑定が決まったと僕らが報じた2週間後に死刑が執行されたのですが、報道したときにはすでに、死刑の執行命令書などの内部の手続きが進んでいたはずだからです。

むしろ、足利事件の再鑑定は、捜査当局が絶対に一致すると思ってやったはずなんですよ。すでに無期懲役が確定した事件で、再審も始まっていない段階で、再鑑定をやらなければ何も変わらない。それが、まさかの不一致になったということだと思います。

●無実の国民を国家が殺害…「国は絶対に認めない」

──2つの事件はこれからどうなるでしょうか。

飯塚事件では、国家が「間違えて国民を殺してしまいました」と認めるわけがありません。「犯人は私です」と自首する人間が出てきても、多分変わらないでしょう。

もし久間さんの冤罪が認められる日が来るとしたら、それは日本の死刑制度がなくなる日とリンクするのではないでしょうか。これは、もはや政治的な問題だと思います。

──なぜ、DNA型鑑定の問題は見過ごされたのでしょうか。

科警研の鑑定に不備があるなんて、普通の人は夢にも思っていないからでしょう。僕もこの取材を始めた2007年ごろは、「DNAは絶対だ」という言葉に騙されていました。

一人ひとりのDNAは全員が違う。それは絶対なんです。だけど、「DNA型鑑定」となると絶対じゃない。人間がやっているんだから、ミスがないわけがない。

それに、裁判官の責任も重い。弁護士たちがおかしいと言っていたのに、裁判官は聴く耳を持たなかった。警察による鑑定ということで、鵜呑みにしてしまった。

画像タイトル ジャーナリストの清水潔さん(2026年9月30日、東京都港区で、弁護士ドットコムニュース撮影)

●「記者は報じるところまでが仕事」

──北関東の事件では、真犯人と疑われる人物にも触れていました。

「清水さん、この事件どうするんですか?」って、よく聞かれるんです。でも、ちょっと待ってください。僕は記者なんです。報じるところまでが仕事なんです。

そこから先の、「なんで逮捕されないんだ」といった問題は、僕ではなく、捜査機関に聞いてほしい。

テレビのドラマみたいに、僕が捕まえて自供させればいいんですか。そういう話じゃない、ということですよね。

●「判決は本当に正しいのか」少しだけ考えて

──今回の番組によって、事態が動くでしょうか。

正直に言いますが、何も変わらないと思います。捜査当局としては、このまま終えたいわけです。

迷宮入りさせたくなかったら、世論が広がっていくしかない。

ただ、あえて自虐的に言いますけど、今回の放送に対してネット上で「すごいものを見てしまった」などと感想を書く人は多いですが、それだけなんです。

「この状況を許せないから私が立ち上がる」なんていう人はまずいない。だから変わらないんです。

──番組を見た人に伝えたいことはありますか。

裁判や捜査というものに、ちょっとは疑問を持ってほしいなと思います。「本当にそうなのか?」と、少しだけ考えてみてほしい。そこからじゃないですかね、すべては。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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