生まれた直後に別の赤ちゃんと取り違えられ、68年間、生みの親がわからないまま生きてきた江蔵智(えぐら・さとし)さん。
東京地裁は2025年4月、東京都に対して、生みの親を捜す調査を命じ、判決は確定した。しかし、都は郵送による調査にとどまり、今年3月には事実上、調査を打ち切ったという。
江蔵さんは、都に判決どおりの調査を実施させるため、従わなければ金銭の支払いを命じる「間接強制」を東京地裁に申し立てている。
10月30日の期日後に、江蔵さんは都内で記者会見を開き、「1日も早い調査の再開を願っています」とうったえた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●判決は「戸別訪問等の適切な方法」と明記
江蔵さんは1958年4月10日ごろ、都立墨田産院で生まれ、別の新生児と取り違えられた。
東京地裁は2025年4月、都に生みの親を捜すための調査を命じ、判決は確定した。
判決では、調査対象者に文書を郵送するだけでなく、「戸別訪問等の適切な方法」で出生場所を調べ、DNA型鑑定への協力を依頼するよう求めている。
ところが、申立書によると、都は郵送による調査しかおこなわず、協力に応じた人はわずかで、回答が得られない人も多かったという。
江蔵さん側は、戸別訪問による調査を繰り返し求めたが、都は応じず、今年3月には事実上、調査を打ち切った。
都は、本人の同意を得ずに戸別訪問すれば、家族などに秘密が漏れるおそれがあり、適切ではないと主張しているという。
こうした都の対応を受け、江蔵さんは6月、東京地裁に「間接強制」を申し立てた。
間接強制とは、義務を果たさない相手に金銭の支払いを命じることで、義務の履行を促す強制執行の手続きだ。
代理人の小川弁護士(2026年10月30日、東京・霞が関の司法記者クラブで、弁護士ドットコムニュース撮影)
●調査しなければ「1日10万円」、裁判所に申し立て
江蔵さんの代理人によると、都は、申し立てで求められた内容が確定判決で命じられた義務と同じではないと主張。また、判決は具体的な調査方法を都の裁量に委ねており、強制執行できる程度に義務の内容が特定されていないともしている。
これに対し、江蔵さん側は10月22日付の準備書面で、判決の別紙で示された方法で調査し、その結果を報告するよう求める内容を予備的に追加した。
さらに調査がおこなわれない間は、1日あたり10万円を支払うよう求めた。
10月30日の期日では、争点が予備的な申し立てに一本化され、今年度中に裁判所が決定を出す見通しになったという。
江蔵さん側は準備書面で、小池百合子知事が2025年4月の記者会見で「速やかに調査を開始する」と述べたと指摘。
それにもかかわらず、今になって判決で命じられた義務の内容が特定されていないと主張するのは「信義誠実の原則」に反すると批判している。
●「生きているうちに再会したい」残された時間は少ない
江蔵さんの戸籍上の母は、都が調査を始めた後に亡くなった。
江蔵さん側は、生みの親も高齢になっていることは間違いなく、生きているうちに再会するために残された時間は少なくなっているとうったえている。
この日の期日後、東京・霞が関の司法記者クラブで開かれた記者会見で、江蔵さんは「1日も早い調査の再開を願っています」と話した。
代理人の小川隆太郎弁護士は、都の対応について「郵便による調査しかおこなっていないので、完全に調査義務を履行をしたことにはならない」と指摘。
「裁判所には、現在までに東京都がやってきたことは不十分であるという決定を出してほしい」と述べた。