大阪府の泉州地域で10月10日、秋祭りのだんじりが相次いで横転し、男性2人が死亡しました。
報道によると、同日午前11時ごろ、泉佐野市長滝の交差点で、右折しようとしただんじりが横転しました。だんじりの側面に乗っていた51歳の男性が下敷きになって亡くなったそうです。
同じ日の午後1時20分ごろには、泉大津市宮町の交差点でも、右折しようとしただんじりがバランスを崩して横転しました。こちらも側面に乗っていた48歳の男性が下敷きになって亡くなりました。どちらの事故でも、亡くなった2名の他、複数のけが人も出ています。
だんじり祭りは、これまでも死亡事故がたびたび発生するなど、安全性を危惧する声も上がっていました。SNSでは「そういうリスクがあることがわかって参加したのでは?」「(何かあっても責任を問わない)誓約書を書いてるでしょ」といった「自己責任論」も見かけます。
今回の祭りで参加者が誓約書を出していたかどうかは報じられていませんが、誓約書があった場合、主催者の責任は問えなくなるのでしょうか。簡単に解説します。
●刑事責任は問われる?
運行の責任者が、安全に曳行するための注意を怠り、人を死亡させた場合には、業務上過失致死罪(刑法211条、5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)が問題となります。
ここでいう「業務」は、お金をもうけるための仕事に限りません。
社会生活上の立場にもとづいて、繰り返し(または繰り返すつもりで)行うことで、人の命や体に危険を伴うものであれば、「業務」に当たると考えられています。
年に1度の行事でも、毎年行われ、危険を伴うだんじりの運行は、これに当たりうると考えられます。
過去の事故でも、実際にだんじりや山車の運行に当たっていた人が責任を問われています。
2023年11月には、静岡県伊豆の国市の神社の祭りで、山車が下り坂で暴走して横転し、引き手の男性1人が死亡、13人がけがをする事故がありました。
静岡地裁沼津支部は2025年1月、山車の誘導責任者だった男性に、禁錮1年8カ月、執行猶予3年の有罪判決を言い渡しています。
裁判所は、平らな場所で山車をいったん止めてから曲がる計画を立てず、そのように指示もしなかったことを、男性の過失と認めました。
刑事事件についても、参加者が誓約書を出していたり、危険を承知していたりすれば、犯罪が成立しないことになるのでしょうか。
亡くなった本人が危険を承知していたことを理由に、この罪の成立を否定した有名な裁判例として、ダートトライアル(未舗装のコースを走る自動車競技)の練習中、経験の長い同乗者が死亡した事件があります(千葉地裁平成7年(1995年)12月13日判決)。
この事件では、同乗者は、初心者の運転する車に指導役として乗っていました。
裁判所は、同乗者がその危険を自ら引き受けており、走行も社会的に許される範囲だったとして、運転者の行為に違法性はないと判断しました。
ただし、運転者に重大な落ち度がある場合は除く、という限定付きですし、これはダートトライアルという非常に危険なスポーツの練習という特殊な場面での判断です。
具体的な事情にもよりますが、お祭りのだんじりで同じように考えることは難しいように思われます。
●誓約書があっても法的責任は生じうる
今回の祭りで、参加者が誓約書を出していたかどうかは報じられていません。
一般論として、参加者に誓約書を求めている町会はありますが、こうした誓約書があっても、主催者側の責任がすべてなくなるわけではありません。
小さなけがならともかく、亡くなることにまで同意していたといえるのか、という問題があるからです。
法律上も、人の命や体についての責任を、故意や重大な過失がある場合まで免除する約束は、公序良俗(社会の秩序や道徳)に反して無効と考えられます(民法90条)。
人の命に関わる事故では、免除の約束が無効とされる可能性があり、この場合遺族は主催者側に損害賠償を求めることができます。
また、誓約書があるからといって、主催者が安全対策を怠ってよいことにはなりません。
主催者側には、予見できる事故の危険を防ぐため、安全対策を尽くす義務があると考えられます。
もっとも、そのためには、主催者側が安全への配慮を欠いていたと認められる必要があります。
他方で、本人の同意に何の意味もないというわけでもありません。
本人が危険を承知で参加していたことは、賠償額を減らす「過失相殺」(民法722条2項)の場面で考慮されることがあります。
●今回の事故で、責任は問われる?
事故が起きたからといって、常に主催者や運行の担当者の責任になるわけではありません。
安全管理を尽くしていても、参加者が盛り上がりすぎて、だんじりが暴走してしまうこともありえます。
今回の事故については、まだ詳しい状況が分かっていません。
刑事でも民事でも、運行の担当者が事故を予見できたか、交差点での曲がり方や速度について、どのような計画や指示をしていたか、などが問題となり、今後明らかになっていくでしょう。
小倉匡洋(弁護士ドットコムニュース編集部記者・弁護士)