2026年10月23日、横浜市鶴見区で、事故物件公示サイト「大島てる」の代表が登壇するイベント「事故物件になる、その前に」が開かれた。同区で精神科訪問看護を提供する「精神科の訪問看護ハッチ」が主催し、司会に現役看護師で怪談師の宜月裕斗さんを迎え、孤独死をめぐる不動産取引の実態を語った。
孤独死に至る要因のひとつに、居住者のセルフネグレクトが挙げられる。家族や周囲、医療者はその「SOS」にどう気づき、どう関わることができるのか。事故物件をめぐる問題から考えた。(文:遠山怜)
●2025年の孤独死は7.6万人も、不動産オーナーの本音は「自然死」
「大島てる」は、他殺や自殺など、居室内で人が亡くなった物件情報を掲載する事故物件公示サイトだ。ユーザーが投稿した物件情報が、地図上に表示される仕組みになっている。試しに「大島てる」で都内の住所を検索すると、マンションやアパートの各所に、事故物件を示す炎のマークが並ぶ。
「大島てる」サイトより(一部、画像に加工しています)
不動産取引において、国土交通省は「人の死の告知」についてガイドラインを定めている。賃貸借取引では、自然死や日常生活上の不慮の死を除き、自殺や他殺、特殊清掃が行われた場合などは、事案発生から3年間を目処に告知義務が発生する。
警察庁によると、2025年に全国の警察が取り扱った遺体は20万4562体。このうち、自宅で亡くなった一人暮らしの人は7万6941人で、全体の37.6%を占めた。一般に「孤独死」は、誰にも看取られずに亡くなることを指すが、近年は「同居の孤独死」という問題も注目されている。
大阪府は、同居家族がいるにもかかわらず、死亡から発見まで4日以上経過した事例を「同居の孤独死」と定義し、2017年以降の統計を公表している。同居人がいても、家族の急変により、残された家族の健康が危険にさらされる事態が起きている。孤独死の問題は誰にとっても他人事ではない。
「大島てる」代表によると、この事故物件の情報開示をめぐり、貸主と借主の間で“攻防戦”が起きているという。「告知義務あり」の物件は、入居希望者が集まりにくい。そのため、家賃収入や資産価値への影響を避けようと、貸主のなかには、事故物件として扱われることを避けようとする人もいる。
(写真右)事故物件公示サイト「大島てる」代表:不動産情報の透明化に努める。近著に『大島てるの怪談部屋 ヒトコワ事故物件』(彩図社)など。
(大島):「貸主側は、空室化を恐れて事故物件であることを伏せようとする。実際、サイトに掲載した物件情報に貸主側から、『数日で発見されたのだから消してくれ』と問い合わせがある。居室内でカップルが心中を起こした際も、『事件性がないんだから消せ』と依頼があったことも」
情報開示をめぐる争いの背景には、国土交通省の「人の死の告知に関するガイドライン」に遺体発見までの日数に決まりがない、という事情も関係している。事実、不動産会社によっては、独自の基準を設けているところもある。UR賃貸住宅を管理する都市再生機構(UR)は、死後1週間以内に遺体が発見されたケースを、孤独死の統計から除外しているという。
こうした事情もあり、発見までの日数や死亡の経緯を根拠に、「事故物件」には当たらないと主張する貸主もいるという。
●残された人に372万円の損害賠償
もっとも、事故物件化を避けたい事情は、遺族にもある。自殺などによって物件の資産価値が下がった場合、貸主が借主やその相続人、連帯保証人らに損害賠償を求めることがあるためだ。
(大島):「貸主が『お宅の息子が自殺したせいで傷物になった』と、減った家賃収入の補償を求めて、ご遺族相手に裁判を起こすことがある。そのため、貸主とご遺族で口裏を合わせ、損害賠償請求をしない代わりに『自殺ではない』とするケースも」
実際、2010年9月2日の東京地裁判決では、賃貸室内での自殺をめぐり、借主の連帯保証人に対し、原状回復費と賃室逸失利益を含め計約372万円の損害賠償が認められた。
賃貸室内で孤独死した結果、家族や保証人が多額の金銭的負担に直面する事態も起きている。
●介入が難しいセルフネグレクト
この問題をさらに複雑にしているのが、セルフネグレクトの問題だ。入浴や清掃、医療的措置を拒み、過剰な飲酒や拒食に走るなど、明確な自殺企図があるわけではないものの、自身の健康や生活の維持に困難を抱えている人もいる。
(宜月):「訪問看護先で、家の中が荒れ、ゴミ屋敷状態で生活している人は少なくない。お酒がやめられない人は、半ば自虐的に『自殺してるようなもんだから』と言ったりもする。死のうとしているとは言えないが、緩慢な自殺とも受け取れる」
(写真左)宜月裕斗:現役看護師で、怪談師として活躍中。近著に『5万枚のカルテを見た看護師が語る 不可解なエビデンスに学ぶスキルとしての怪異 ―加速する世界と医療の個性化をつなぐ病院怪談―』(ライフサイエンス出版)など。
(大島):「家族が心配して医療支援につなげようとしても、『俺はそんなの要らない』と本人が拒絶するケースが多い。実際には身の回りのことに手が回っておらず、何らかの支援が必要でも『自分のことは自分で』という意識が強く、介入が難しい。自分が死んだ後のことは知らないという人も多い」
では、助けを拒む人に家族や周囲はどう接すればいいのか。
(宜月):「最初は、看護師の訪問に拒否反応を示すことが多い。患者さんもそう簡単に心を開いてはくれないので、とにかく接点を持つこと。顔を見にくることを続けていくうちに、挨拶したり会話が生まれることもあるので」
家族だけで抱え込まず、地域の精神保健福祉センターや高齢障害課などの関係機関と連携し、複数の人が継続的に関わることが、支援につながる糸口になる場合もあるという。
また、監視や管理をされていると感じさせない見守りサービスも登場している。人の呼気に含まれる二酸化炭素や人感センサーを利用し、異変を検知する仕組みだ。
株式会社エーワンが提供する高齢者向け見守りシステム小次郎くん(筆者撮影)
セルフネグレクトの問題を一朝一夕に解決することは難しい。しかし、時間がかかっても、継続的な関わりが良い変化をもたらすことは多い。
●周囲が異変に気づくために
忘れてはならないのは、事故物件が近隣住民に及ぼす影響である。
(大島):「事故物件化してしまうと、同じアパート・マンション全体の治安にも影響する。告知義務ありの物件は、家賃の減額と入居者の審査基準が緩和される傾向がある。すると、他の物件で入居を断られた人が住民となり、トラブルを起こす事例が多い。集合住宅の治安維持という観点からも、周囲が異変に気づくことは大切」
では、そうした兆候を、周囲はどのように捉えればよいのか。「大島てる」代表は、「明確な予兆を探す」という考えから、孤独死を前提とした発想に切り替える必要があるという。
(大島):「これがあれば危険、というわかりやすいサインはない。高齢者に限らず、人が突然亡くなることはある。『他人に迷惑をかけたくない』と介護を拒否する人も多いが、居宅で一人で亡くなると、遺族やその次の入居者に大きな迷惑がかかることも。それを踏まえて、家族との同居やグループホームでの共同生活をお勧めしたい。他人と生活するデメリットはあるが、居宅内で数日放置という事態は回避できるかもしれない」