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「借金で死ぬ必要なんかない」 なくならぬ自殺や無理心中、知ってほしい解決法
「経済・生活問題」を原因・動機とする自殺件数の推移(警察庁統計より、背景:makaron* / PIXTA)

「借金で死ぬ必要なんかない」 なくならぬ自殺や無理心中、知ってほしい解決法

福島県いわき市で起きた、乗用車の中から母子4人の遺体が見つかった事件で1月31日、母親の交際相手だという男性が逮捕された。無理心中を図ったとみられ、けがからの回復を待っての逮捕となった。

報道によると男性は「会社経営に失敗し、借金で将来を悲観した」などと語っているそうだ。

借金を苦にして自ら命を絶ったり、無理心中したりすることは現在でも珍しくない。しかし、債務整理にくわしい半田望弁護士は「借金で死ぬ必要はない」と呼びかける。

●雇用回復でも…「経済・生活」は2番目に多い自殺理由

厚生労働省の統計(2018年度版自殺対策白書)では、借金を含む「経済・生活問題」を理由として自死に至るケースは、2003年度の8897人をピークに減少傾向にあります。

それでも2018年度では3432人で、理由別では健康問題についで2番目になっています。いまもなお借金を理由とする自死や一家心中が後を絶ちません。

厚労省と警察庁による「平成30年中における自殺の状況」(https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/H30/H30_jisatunojoukyou.pdf)より

原因はさまざまでしょうが、破産等により借金を免れることを良しとしない考え方が我が国の価値観に根強く残っていることや、相談窓口にたどり着けなかった、ということも考えられるところです。

「借金を苦にして死ぬ必要はない」、「借金問題は必ず解決できる」と多くの弁護士や司法書士が繰り返し述べてきましたが、法律家としてまだまだ力が及んでいないのかと忸怩たる思いになります。

破産などの債務整理にはまだ多くの誤解があります。もう一度、借金問題の解決方法を整理してみたいと思います。

●債務整理は大きく「破産」「民事再生」「任意整理」の3つがある

借金の解決方法は大きく分けて、「破産手続(免責手続きを含む)」、「再生手続」、「任意整理手続」の3つがあります。

債務整理の3パターン 債務整理の3パターン

なお、高金利の「ヤミ金」については、最高裁の判例で違法な利息だけでなく、元本も含めて返済義務がないとされています。

●返せそうなら「任意整理」、自宅等あれば「再生」、それ以外は「破産」

個人の借金の場合、月々の支払額を減らせば借金全額を返済できるときには「任意整理手続き」を選択することもあります。

しかし、完済が困難なことが多いので、「破産」または「再生手続き」を選択することがほとんどです。

「再生手続き」を積極的に選択する場面は、▼住宅ローンがあり自宅を残したい、▼過去の破産などが原因で免責が認められない可能性がある、▼破産により法律上の資格制限を受けるーーといったときが一般的です。

目立った資産がない、総額を減額しても借金が残ることで生活再建が困難であるといった場合には、破産を勧めることになります。

●「全財産を失うんでしょ?」は破産のよくある誤解

借金問題のご相談を受けたときは、破産申立を勧めることがよくあります。その際、「破産だけはしたくない」というご意見をいただくこともありますが、多くは破産制度の誤解に基づくものです。

まず、「破産すると全財産を失う」ので破産をしたくない、という方がおられます。

しかし、個人(自然人)の場合、破産手続き中や終了後に生活を立て直す必要があるので、法律は99万円までの財産について、必要な手続きをとれば手元に残すことを認めています。

また、年式の古い車などは、そもそも資産価値がないとして処分の対象から外されることもあります。破産をした場合、自宅などの不動産やまとまった資産を手放す必要はありますが、「全財産を失う」というのは誤解です。

破産すると「ブラックリスト」に載って仕事や生活がしづらくなる、という誤解もあります。

「ブラックリスト」とは、金融機関やカード会社等が支払遅延などの事故情報を記録したものを指すと思われますが、そもそも支払の期限に遅れた時点で事故リストに記載されていると思われます。

ブラックリストに載ると銀行に口座を作れないとか、仕事に就けないということを心配される方もおられましたが、借り入れやクレジットカード作成以外の銀行取引で制限を受けたという話は聞いたことがありませんし、就職等で信用情報を参照されることもありません。

●「返せない借金をそのままにする方がかえって迷惑」

私は破産や債務整理は「人生のリスタート」だと説明するようにしています。

いろいろな事情があったとしても、借金をリセットして人生をやり直すチャンスを、法律は保障しているのです。そうしないと一切の失敗が許されない社会になり、チャレンジをする人も出てこなくなって社会の健全な発展ができなくなると思います。

貸す側は担保を取る等の対策もできますし、金融機関は一定割合の貸し倒れが発生することを見込んで利息などを設定していると考えられます。むしろ、破産等の手続きをしない不良債権になってしまう方がかえって迷惑になる、ということもあると思います。

借金を返さない、ということに心理的な抵抗がある人もおられるかもしれませんが、返せない借金をそのままにする方がかえって迷惑だと思いますし、法律が人生のリスタートを認めているのですから、きちんと生活を立て直して、迷惑をかけた分も含めて社会に貢献していただくほうがいいのではないか、と思います。

最近では弁護士等の専門家が、ホームページやSNSなどで正確な情報を伝えようとしていますが、それでも誤解や誤った情報を信じて破産や債務整理を躊躇される方は少なくないと思います。

冒頭に述べたとおり、借金問題は必ず解決できますし、借金を苦にして死を選ぶ必要はありません。まずは弁護士に相談をしてください。弁護士に心当たりが無ければ、お近くの弁護士会や法テラスに相談の申し込みをしてください。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

半田 望
半田 望(はんだ のぞむ)弁護士 半田法律事務所
佐賀県小城市出身。主に交通事故や労働問題などの民事事件を取り扱うほか、日本弁護士連合会・接見交通権確立実行委員会の委員をつとめ、刑事弁護・接見交通の問題に力を入れている。また、地元大学で民事訴訟法の講義を担当するなど、各種講義、講演活動も積極的におこなっている。

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