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海賊版コンテンツに誘導「リーチサイト」規制へ…「リンク張るだけ」の対策に難しさ
リーチサイトの仕組み

海賊版コンテンツに誘導「リーチサイト」規制へ…「リンク張るだけ」の対策に難しさ

政府は6月中旬、知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議を開いて、2018年の「知的財産推進計画」をまとめた。インターネット上の違法なコンテンツに利用者を誘導する「リーチサイト」に対応するため、権利と表現の自由のバランスに留意しつつ、すみやかな法案提出に向けた検討をすすめるとしている。

リーチサイト規制のための法案は、おそくとも来年の通常国会までの提出を目指しているようだ。そもそもリーチサイトは、現行法で対応できないのだろうか。具体的に法規制するにあたって、どのような課題があるのだろうか。著作権法にくわしい岡本健太郎弁護士に聞いた。

●リンクは「アクセス先」を示しているだけ

「一般に、リーチサイトとは、ほかのウェブサイトに置かれた著作権侵害コンテンツへのリンク情報を提供して、利用者を著作権侵害コンテンツに誘導するウェブサイトをいいます。リーチサイトは、リンクの集合体であって、著作権侵害コンテンツを掲載しているわけではありません。

他人のコンテンツをインターネット上で無断配信した場合には、公衆送信権などの侵害となりえます。しかし、リンク先のコンテンツは、ユーザーのコンピュータに直接送信されています。リンク元が、リンク先のコンテンツを送信しているわけではありません。

リンクは、アクセス先を示しているだけですので、一般的には、リンクの設定は公衆送信権の直接侵害ではないと考えられています」

●現行法上、リーチサイト対策は簡単ではない

「著作権侵害コンテンツへのリンクの設定は、そのコンテンツを違法アップロードした人による公衆送信権侵害を容易にしていることから、『幇助』に該当し、損害賠償請求の対象となるという考え方が有力です。

これに対して、先に言及したように、リンクはアクセス先を示しているだけだから、リーチサイトは閲覧者を助けるものであっても、違法アップロードした人の『幇助』とは言い難いとする考え方もあります。

また、現状の著作権法の枠組みでは、著作権侵害の直接の主体ではないリーチサイトへの差止請求について慎重な意見もあります。

こうしたことから、特に悪質な海賊版サイトに対する権利行使を可能とする制度整備の一環として、立法措置が検討されているのです」

●「文化保護の観点」からは実効的な対策が期待されている

政府は今年4月、特に悪質な海賊版サイトを名指ししたうえで、法制度の整備まで緊急的な措置として、民間の事業者(プロバイダ)が自主的にブロッキング(遮断)することが適当、とする決定をおこなった。

「この政府決定については、特定サイトへのアクセスをブロッキングすることにより、発信者側の『表現の自由』や、受信者側の『知る権利』の侵害となる、プロバイダが各ユーザーのアクセス先を確認することにより『通信の秘密』が侵害されるといった指摘がなされました。

加えて、リーチサイト規制の対象が、特に悪質とまでは言えないサイトや著作権侵害コンテンツ以外(例:商標権、肖像権等の侵害コンテンツ、ヘイトスピーチなど)にまで拡大した場合、インターネットの自由が制約を受けるといった懸念もあるところです。

一方で、4月以降、名指しされた海賊版サイトの活動は弱まっているようでもありますが、マンガやアニメなどのコンテンツ・ビジネスが甚大な被害を受けていた経緯もあり、文化の保護といった観点からは実効的な対策が期待されています。

知的財産戦略本部では、『インターネット上の海賊版対策に関する検討会議』を組織し、現行法令下での海賊版対策の実効性の検証も含め、ブロッキングその他の方法による海賊版サイト対策の検討をおこなっています」

(参考)

「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」第1回https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2018/kaizoku/dai1/gijisidai.html

「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」第2回https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kensho_hyoka_kikaku/2018/kaizoku/dai2/gijisidai.html

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

岡本 健太郎
岡本 健太郎(おかもと けんたろう)弁護士 骨董通り法律事務所
骨董通り法律事務所。弁護士・ニューヨーク州弁護士。神戸大学大学院客員准教授。「著作権Q&A」(宣伝会議・2018年10月から連載中)、「エンタテインメント法実務」(編著。弘文堂・2021年6月発刊)など。

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