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「PTAを退会した保護者の子どもは学童に入れない」 宇都宮市で2年前から不適切ルール
宇都宮市役所(JIOTO / PIXTA)

「PTAを退会した保護者の子どもは学童に入れない」 宇都宮市で2年前から不適切ルール

栃木県宇都宮市内の放課後児童クラブ(学童保育)にあたる「子どもの家」で、「入会はPTA会員に限る」という不適切な会則が2016年から設置されていたことが4月27日、わかった。

「子どもの家」は地域の運営団体が市から運営委託を受けている公設民営であり、一方の各学校のPTAは任意団体で保護者の加入は義務ではない。こうした会則があるのは、市内62か所で設置されている「子どもの家」のうち1か所のみで、PTAに加入していない特定の保護者を排除する目的で設置されたとみられる。

市生涯学習課は弁護士ドットコムニュース編集部の取材に対して、「子どもの家会則の一部表現で不適切な言葉があることがわかったので、是正するようを指導した」と事実関係を認めた。

●宇都宮市「会則は紳士協定的なもの」、PTA退会した保護者「学童の強制退所あった」

この問題は、2年前にPTA退会と同時に「子どもの家」を強制退所させられた保護者が今月、Twitterで「PTAを退会したら、子どもが学童を強制退所させられた」と投稿。それを見た市民から市に対して問い合わせがあったことをきっかけに発覚した。

市生涯学習課はこの会則について、「PTAは任意団体であり、『子どもの家』の運営団体とは別団体。PTAに入っていないことを理由に差別的な取り扱いをすることは許されず、不適切」とした。一方で、「運営団体の皆さんの話し合いで決められたもので、会則は『原則として』という紳士協定的なもの。実際にはPTAに入ってないことを理由に入会を拒んだことはない。運用上、強制退所させたという事実もない」として、PTAを退会した保護者の排除を否定した。しかし、保護者は「強制退所はあった」と話す。

●発端は「延長保育」をめぐるトラブル

発端は、3年前に起きた保護者と「子どもの家」の運営団体の間のトラブルにあるとみられる。市内の「子どもの家」は原則18時までとなっているが、働く保護者の要望から、全国的に放課後児童クラブの運営時間を延長する自治体は増えており、市内でも18時以降の延長保育を実施する「子どもの家」はあった。

保護者も終業時間の都合上、延長保育を希望していたが、認められなかった。しかし、保護者によると、2016年3月に市生涯学習課を訪ねて相談したところ、「小1の壁解消のため、2012年度から、市内のすべての子どもの家に19時までの延長開設を求めている」「延長開設に必要な指導員の賃金は、市の委託料で支払われる」と説明を受けたと話す。

また、保護者は「子どもの家」とのトラブルが起こる前、配偶者が単身赴任となり、2人の子どもの「ワンオペ育児」とフルタイムの仕事で多忙をきわめたことから、2015年2月にPTAを退会したいという意思を伝えていた。しかし、PTAの退会をなかなか認めてもらなかったという。保護者の地域では、PTAと「子どもの家」の運営団体の執行部メンバーは重複していた。

●学童とPTAの会長が連名で強制退所通告、「おひとりの意思より多数の意思を尊重」

そして、保護者のもとに2016年6月、「子どもの家」運営団体の会長(PTA顧問との注釈付き)とPTA会長の連名で文書が届き、「子どもの家」について「7月15日をもって退会していただきます」と強制退所の通告がされた。また、同じ文書で、PTAについても「ご希望通りPTAを退会してください」とあった。

文書には、「日本は民主主義の国でありおひとりの意思より多数の意思を尊重し大切にしなければなりません。これは常識的判断を持つクラブ会員やPTA会員の皆様も同じ気持ちでいらっしゃいます」「両件については生涯学習課・教育委員会等へ報告として連絡させていただきます」とも書かれていたという。

この文書に同封されていたのが、「本会はPTA会員である入会児童の父母(略)によって組織する」という文言が新たに加えられたあの会則だった。保護者はこの通告に従い、子どもを退所させなければならなかったとする。

保護者はこの2か月前の2016年5月、「子どもの家」運営団体から最初の退会通告を受け取った際、市生涯学習課に相談したが、「誰を入所させ、誰を入所させないかは各団体が自由に決めていい」と回答されたとのことだ。

弁護士ドットコムニュース編集部が市生涯学習課に確認したところ、「延長保育をめぐるトラブルがあったことはわかっていたが、会則が変更されていたことは知らなかった。会則は運営団体が決めるものであり、変更された理由はわからない」と話している。

●厚労省「地域の実情に応じて、自治体が判断するもの」

弁護士ドットコムニュース編集部が厚労省に確認したところ、「放課後児童クラブの利用者をPTAに入会する保護者に限定するという会則について、国として定めはない」とし、「地域の実情に応じて、自治体が判断するもの」と回答している。

一方で近年、放課後児童クラブの利用児童が増加、各地でその質向上が求められている。こうした状況を受け、国は3年前、「放課後児童クラブ運営指針」を策定している。

それによると、「放課後児童クラブの社会的責任」として、「子どもの人権に十分に配慮するとともに、子ども一人ひとりの人格を尊重して育成支援を行い、子どもに影響のある事柄に関して子どもが意見を述べ、参加することを保障する必要がある」ことや、「放課後児童クラブ及び放課後児童クラブの運営主体は、子どもや保護者の苦情等に対して迅速かつ適切に対応して、その解決を図るよう努めなければならない」ことなどが明記されている。

自治体には、国の運営指針に沿った、適切な放課後児童クラブの設置運営が求められている。

(弁護士ドットコムニュース)

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