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幼稚園の父母の会は「自動入会なのにブラックボックス」保護者が批判、提訴も視野に…東京・中野
取材に応じる保護者=東京都内

幼稚園の父母の会は「自動入会なのにブラックボックス」保護者が批判、提訴も視野に…東京・中野

任意加入団体である幼稚園の「父母の会」のあり方をめぐって、ひとりの保護者が問題提起を続けている。舞台は、東京都中野区にある私立幼稚園。「子どもが差別的な対応を受けたら裁判を起こす」と民事訴訟を提起することも視野に入れる。

この保護者は30代の女性。双子の男の子を通わせていて、4月からは年長クラス。子どもにとって慣れ親しんだ環境であることを踏まえ、卒園まで通わせる予定だ。ただ、父母の会には入園と同時に「自動入会」という扱いをされ、父母の会の運営に意見を反映する機会がなく、知らないうちに役員が選ばれ、物事が決まる様子に従来から疑問を抱いていたという。会費の使われ方にも納得がいかない。

●年間328万円動かす父母の会 保護者「密室で支出決定」

父母の会は同意なく、強制的に保護者を加入させることはできない。それにもかかわらず、入園後に毎月1300円の会費を幼稚園が保護者から徴収してきた。専用の封筒を園が保護者に渡し、保護者はそこにお金を入れて園に提出する。本来、幼稚園が代理で徴収するには父母の会からの委任が必要なはずだが、「会員の意思を反映した形で有効に委任された形跡は確認できない」(女性)という。

会員向けに配られる父母の会の「収入支出決算書」によれば、2016年度は会費収入が328万3800円で預金利息が38円あり、収入は合計328万3838円。これをすべて使い切っている。詳しい支出先について女性が開示請求したところ、幼稚園と父母の会の代理人弁護士から、以下のとおり回答があった。

・在園中の行事、園活動一般に関わる費用:269万7881円

・園児の健康管理に関する費用:20万2070円

・会運営費、外部団体関連費、その他:38万3887円

(合計:328万3838円)

遠足のおやつや園児検診費、事務用品、父母の会専用のノートパソコンなどに支出され、一部は慶弔費にもあてられているが中身はわからないという。

女性は「これだけ大きな金額を動かしておいて、支出に際して一般会員の同意を得ることもない。父母の会は文書の規約もなく、総会もなく、園と役員が密室で決めている。必要な費用はその都度、根拠を明示して請求すればいいし、園の事務に使うお金は園が直接保護者から回収するのが筋だ。まるでブラックボックスだ」と問題視している。

●問題提起のチラシは「園がこっそり回収」

女性は2018年2月下旬、4月入園の子どもの保護者が集まる説明会前に、「父母の会の加入は任意で会費の使われ方に問題がある」などと記したチラシを幼稚園付近で配った。だがその後、幼稚園側がチラシの回収に動いたことを説明会に参加した保護者から教えられたという。

女性は幼稚園と父母の会に対し、父母の会の退会は退園につながるということを口頭で言われ、事実上、入会が強制されてきたと主張。「入会意思はなく入会契約は成立しない」と通告した。これを受け、幼稚園側の代理人弁護士は3月、退会申し出を受理したと返答した。

「毎月1300円くらい我慢しようよ」「嫌なら転園すればいい」ーー。女性に対して周りが投げかける言葉は総じて冷たいという。ほとんど孤立無援の状態だが、「異論を言えない環境は健全ではない」と今後も問題提起を続けていく考えだ。

幼稚園を運営する学校法人の理事長は4月2日、弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「これまで問題なくやってきたのに、突然指摘を受けて困惑している。見解の相違がある」と述べた。退園をちらつかせたかどうかについては「ないと思う」とした。

●父母の会と幼稚園が実質的に一体化

教育問題に詳しい高島惇弁護士は次のように語る。

「父母の会における最大の問題点は、本来は任意加入団体であるにもかかわらず、一部の幼稚園において、父母の会と幼稚園が実質的に同一化している点にあります。そのため、保護者は、何の情報も与えられずに入園段階で当然加入してしまい、父母の会への支出や行事への参加、役員への就任を強制されることになります」

法的にはどのような問題になるだろうか。

「法的には、会費の支出を捉えて損害賠償を請求することが考えられますし、父母の会を退会後に幼稚園から不当な扱いを受けた場合には、その扱いについて不法行為を主張することが考えられます。

具体的には、父母の会に所属していないことを理由に、幼稚園の主催行事へ参加できなかったり、園内の生活を行う上で必要な情報が提供されないといった不利益が生じているかどうかは、重要なポイントです。父母の会やPTAをめぐる紛争は全国的にも活発化しており、結社の自由や平等原則といった憲法上の争点を複数含んでいるため、非常に重要なテーマです」

(取材:弁護士ドットコムニュース記者 下山祐治)早稲田大卒。国家公務員1種試験合格(法律職)。2007年、農林水産省入省。2010年に朝日新聞社に移り、記者として経済部や富山総局、高松総局で勤務。2017年12月、弁護士ドットコム株式会社に入社。twitter : @Yuji_Shimoyama

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(弁護士ドットコムニュース)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

高島 惇
高島 惇(たかしま あつし)弁護士 法律事務所アルシエン
学校案件や児童相談所案件といった、子どもの権利を巡る紛争について全国的に対応しており、メディアや講演などを通じて学校などが抱えている問題点を周知する活動も行っている。近著として、「いじめ事件の弁護士実務―弁護活動で外せないポイントと留意点」(第一法規)。

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