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六本木「赤ケバブ」の客引き、風営法違反容疑で書類送検…普通の飲食店なのになぜ?
手前が「赤ケバブ」。奥が「青ケバブ」

六本木「赤ケバブ」の客引き、風営法違反容疑で書類送検…普通の飲食店なのになぜ?

赤色看板の「赤ケバブ」と、青色看板の「青ケバブ」。いずれも、東京・六本木で隣り合うように競って営業するケバブ店だが、「赤ケバブ」が執拗な客引き行為をしたとして、経営者のトルコ国籍の男性が、警視庁麻布署に風営法違反容疑で書類送検された。

産経新聞によると、一般的な飲食店の客引き行為に風営法違反容疑を適用して、経営者を摘発するのは全国初。経営者は、ケバブ店の従業員に対して、通行者に抱きつくなどのしつこい客引きをさせた疑いがもたれている。以前から、「赤ケバブ」と「青ケバブ」が面する路上では、客引き合戦が激しく、通行人から不快だとの批判の声があがっていた。

なぜ、通常の飲食店にもかかわらず、風営法が適用されることになったのか。風営法にくわしい山脇康嗣弁護士に聞いた。

●制裁効果が強い「風営法」

通常の飲食店にもかかわらず、風営法が適用されたのは、客引き行為が行われたのが深夜だったからです。六本木のある港区で客引き行為を規制する法令は、4つあります。違反に対する制裁効果が弱いものから説明すると、以下のとおりとなります。

(1)港区客引き行為等の防止に関する条例

この条例は、港区内の客引き行為の実態を踏まえ、(3)の東京都迷惑防止条例よりも規制対象自体は広げられています。つまり、居酒屋やカラオケ、マッサージなど、全ての業種で公共の場所における客引き行為を禁止しています。しかし、違反者が行為を是正しない場合でも、刑罰はなく、法(条例)違反に対する制裁金としての過料(5万円以下)と公表(氏名、住所、店舗名など)しかありません。違反に対する制裁効果は弱いと言わざるをえません。

(2)軽犯罪法

軽犯罪法は、「他人の進路に立ちふさがって、若しくはその身辺に群がって立ち退こうとせず、又は不安若しくは迷惑を覚えさせるような仕方で他人につきまとう行為」を規制対象としています。違反者に対しては、拘留(1日以上30日未満)又は科料(1000円以上1万円未満)の刑罰が科せられますが、制裁効果は強くありません。

(3)東京都迷惑防止条例

東京都迷惑防止条例は、性的な要素や異性による接待があるサービス以外の一般の業種については、「執ような」客引きだけが規制対象となっています。違反者に対しては、罰金(50万円以下)の刑罰などが科せられますが、懲役刑はなく、やはり、制裁効果は強くありません。

(4)風営法

風営法は、いわゆる風俗営業ではない一般の飲食店営業についても、深夜(午前0時から日出時まで)の営業に関して客引き行為を禁じています。一般の飲食店営業であっても、深夜に営まれる場合には、善良の風俗を害する行為を誘発するおそれがあるためです。違反者に対しては、懲役(6月以下)や罰金(100万円以下)が科せられます。制裁効果は、懲役刑まであることから明らかなとおり、(1)~(3)に比べて強力です。

●深夜の時間帯でなければ、風営法は適用されない

今回のケースでは、通行人から多くの苦情が寄せられていた上に、警察による警告にも従わなかったために、悪質であると判断された結果、深夜の時間帯における客引き行為について、制裁効果の強い風営法が適用されたと考えられます。一般の飲食店営業の客引き行為については、深夜の時間帯でなければ、いくら態様が悪質であっても、風営法は適用されません。

なお、風営法はいわゆる両罰規定があり、直接の違反をした行為者のみならず、経営者も罰せられます。今回のケースでも、客引きをした従業員と経営者の両方が摘発されています。

近年、客引き行為や客待ち行為に対する規制は、厳しくなる傾向です。2020年の東京オリンピック開催に向けて、さらなる厳罰化が進むかもしれません。経緯からして本件の摘発はやむを得なかったかもしれませんが、「街の浄化」という名目のもと、全ての業種で客引き行為を一律に禁止し、かつ、違反者には直ちに厳罰に処するといったことは行き過ぎであると考えます。住民や通行人の権利と事業者の権利をいずれも不当に侵害しないようにバランスをとることが重要ではないでしょうか。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

山脇 康嗣
山脇 康嗣(やまわき こうじ)弁護士 さくら共同法律事務所
慶應義塾大学大学院法務研究科修了。入管法・外国人技能実習法・国家戦略特区法・国籍法・関税法・検疫法などの出入国関連法制のほか、カジノを含む賭博法制(ゲーミング法制・統合型リゾート法制)や風営法に詳しい。第二東京弁護士会国際委員会副委員長、日本弁護士連合会人権擁護委員会特別委嘱委員(法務省入国管理局との定期協議担当)。主著として『〔新版〕詳説 入管法の実務』(新日本法規)、『入管法判例分析』(日本加除出版)、『技能実習法の実務』(日本加除出版)、『Q&A外国人をめぐる法律相談』(新日本法規)、『外国人及び外国企業の税務の基礎』(日本加除出版)がある。「闇金ウシジマくん」「新ナニワ金融道」「極悪がんぼ」「銀と金」「鉄道捜査官シリーズ」「びったれ!!!」「ゆとりですがなにか」など、映画やドラマの法律監修も多く手掛ける。

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