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アイテム現金化アプリ「CASH」がネットで物議…法的な問題は?
CASHのホームページより

アイテム現金化アプリ「CASH」がネットで物議…法的な問題は?

このほどサービスが始まったばかりのスマホアプリ「CASH」(キャッシュ)が、大きな物議を醸している。

このアプリのコンセプトは、「目の前のアイテム(物)が一瞬でキャッシュ(現金)に変わる」。ユーザーはアプリ上で、手持ちのアイテムの情報を入力し、写真をアップロードすると、査定を受けられる。査定額(上限2万円以下)で承諾すれば、代金のキャッシュをすぐに受け取れるという仕組みだ。

代金を受け取ると、アイテムは、2か月以内に会社側に引き渡すことになる。アイテムを手元に残したければ、この間に代金と返金手数料(査定額の15%)をあわせて支払う必要がある。運営会社バンクによると、サービスは開始初日の6月28日だけで3億6000万円以上の利用があったといい、現在一時的に利用が制限されている。

一見、「質屋」のようなサービスのように思えるが、会社側はあくまで「売買契約」として「古物営業許可」だけを受けて運営しているようだ。だが、ネット上で、このサービスは「法的に問題ではないか」という指摘が多数あがっている。今回のようなサービスの法的問題について、吉井和明弁護士に聞いた。

●「貸金業法」違反、「出資法」違反の可能性も

――今回のようなサービスは、法的にどのような問題があるのか?

規約で定めた「売買契約」について、物を2カ月以内に引渡して、引渡しを望まない場合は、返金手数料を加えたお金を支払えばいい――ということを前提に話をすすめます。立て付けは、キャンセル料というかたちです。

売買契約と利用者への条件付き解約権留保の形をとっていますが、これは、質屋営業法において、「質屋営業」を、「物品…を質に取り、流質期限までに当該質物で担保される債権の弁済を受けないときは、当該質物をもつてその弁済に充てる約款を附して、金銭を貸し付ける営業」としているものを裏側から規定したようなものという印象を受けます。

売買契約との名目に関していえば、質草の査定がまともにおこなわれなければ、売買契約において重要なはずの商品と物の対価的均衡がないことにもなり、それ自体形骸化しているように思われます。

また、実際には、2カ月以内に引渡しを受けることに、事業者側にメリットもなく、古物の売却による利益を目指しているのであれば、このような条件を付けること自体が不自然です。

さらに、アプリのUI(ユーザー・インターフェース)そのものが、アイテムをキャッシュにしたあと、そのキャッシュを返金するかしないかを選択するような立て付けになっていることも問題だと思います。

このように、本件は、実質的に「貸金」であり、規約上「売買契約」という文言となっているだけで、貸金業規制法や、質屋営業法といった取締法規の適用を免れるわけではありません。

ーー質屋営業法の許可を取得していれば、問題なかったのか?

問題がないとはいえません。質屋営業法の「質」は、占有の移転なしには成立しないからです。本件は、法的にいえば、物の譲渡を受けながら、占有を移さない譲渡担保ということになります。そのため、質をとっていない以上、質屋営業をしているとはいえず、担保の付いた単なる「貸金」があるにすぎません。

ーー「貸金」だとすると、どんな問題があるのか?

「貸金業」の登録をしていなければ、「貸金業法」違反の可能性もあります。もし、「利息」をとっているということになれば、「出資法」の問題にもなってきます。「2カ月以内に15%」が利息であれば、年利に直せば90%です。また、総額に15%が返済期間に限らず変動しないのであれば、たとえば、1カ月で返した場合、年利180%になります。

出資法上、貸金を業としておこなっている場合、年利20%を超えれば違反となり、年利109.5%を超えれば、さらに重い処罰が課されます。

ーー民事的には、どのような問題があるのだろうか?

キャンセル手数料が利息であると考えた場合、利息制限法上の制限があります(元金10万円以下では年利20%まで)。その制限を超えた場合、超えた分は無効となります。払ってしまった場合であれば、不当利得返還請求(いわゆる過払金)になるでしょうし、払っていないなら、超過部分を支払う必要はなくなります。

また、無許可で貸金業を営んでいたということであれば、貸付自体が不法原因給付として返済を求めることができなくなるということも考えられます。

さらに、仮に最初に戻り、本件が貸金契約ではないとされた場合でも、キャンセル料を取ることが消費者契約法上有効かという問題が出てきます。これについては、消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等を無効とする同法9条、消費者の利益を一方的に害する条項を無効とする同法10条が問題となりうるでしょう。

以上のとおり、最終的には解釈の問題になるとしても、貸金業法違反や出資法違反の罰則は重く、手数料収入も全部またはかなりの部分がとれなくなってしまう可能性があり、本件は、ビジネスをおこなうにはリスクが大きすぎるように思われます。

ビジネスを始めるにあたり、自分だけに見えていると思った誰もいないブルーオーシャンが、実は機雷だらけで人がいないだけの危険な場所だったということがないよう、ニッチなビジネスにはそれなりの理由があることを踏まえ、事前に法的なリスクの確認をされるようおすすめします。

(補足)なお、アプリ運営会社バンクのホームページには、「顧問弁護士事務所」として、森・濱田松本法律事務所が記されていた(現在は削除されている)。弁護士ドットコムニュースが森・濱田松本法律事務所に取材したところ、次のようなコメントが寄せられた。

「当事務所は大勢の弁護士が所属して職務を行っておりますが、弁護士としての守秘義務との関係で、個々の案件や企業に関することについては、関与や受任の有無にかかわらず、回答を差し控えさせていただくことになっております。ご照会いただきました件につきましても、同様の対応とさせていただきたく、あしからずご了承いただけますと幸いに存じます」

(弁護士ドットコムニュース)

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