若い女性たちのアダルトビデオ(AV)出演強要問題を考えるシンポジウムが5月26日、東京都内で開かれ、大学時代のAV出演疑惑がきっかけで、勤務していたテレビ局を退社したフリーアナウンサー、松本圭世さん(26)が登壇。AVだと聞かされず、「だまし討ち」のようかたちで撮影されたことを明かした。
松本さんはテレビ愛知でアナウンサーとして働いていたが、2014年に週刊誌で「現役アナAV出演疑惑」を取り上げられたことがきっかけで、同年に退社した。いわゆる素人ナンパもののAVで、当時大学生だった松本さんが男性器を模した飴をペロペロと舐めるシーンが映っていた。騒動が起きたあと、食事がノドを通らず、「世間の声がかなり厳しく、自殺まで考えたほどだった」と打ち明けた。
松本さんは「同情してほしいだとか、被害者アピールをしたいということではありません」と断ったうえで、「だまされる女性が悪いという風潮がある」「AV出演強要が社会問題として議論され、ほかの被害者の方が声をあげやすい環境になっていくきっかけになってほしい」と話した。以下、松本さんがシンポジウムで語った内容の全文を紹介したい。
●「承諾書にアダルトビデオを連想させるような言葉はなかった」
わたしは2014年まで愛知県のテレビ局でアナウンサーとして働いていました。「現役アナウンサーAV出演疑惑」と週刊誌でとりあげられて、それがきっかけでテレビ局をやめることになりました。
みなさんに同情してほしいだとか、被害者アピールをしたいということではありません。AV強要問題が社会問題として議論されたり、ほかの被害者の方が声をあげやすい環境になっていくきっかけになってほしいと思います。
いわゆるナンパもので、わたしが飴を舐めている映像を使われました。わたし自身、世間で騒動になるまで知りませんでした。ナンパものと呼ばれるアダルトビデオにわたしの映像が使われているということを騒動になるまで知りませんでした。インターネット上で知って本当にびっくりした。ただ、心当たりはあったんです。
騒動となる4、5年前、わたしが大学生だったころ、街なかで男性から「困っているから助けてください」と声をかけられたことがありました。「バラエティのようなものを撮影していて、誰も助けてくれないから、少しでもいいから協力してほしい」と。
初めは断りましたが、内容を聞いたところ「男性の悩みを聞いてくれるだけでいい」といわれて、何度も説得されたので、「それだけ困っているのなら」と半ば人助けのようなかたちで協力することを了承しました。小さな車に案内されました。車の中には、女性スタッフが1人いました。その女性にメイクを直されて、わたしとしては断りにくい雰囲気になってしまった。しかも女性がいたので、そこまで警戒しなくて、「撮影があるだろうな」くらいの認識でした。
そのあと、承諾書のようなもの差し出されました。もちろん内容を読みましたが、アダルトビデオを連想させるような言葉はありませんでした。「撮影に協力する」というだけだったんです。だからは私は「あやしい」と思わず名前を書いて、承諾書も渡してしまった。
その承諾書の控えはもらっていません。今だったら「承諾書の控えをもらわないのはおかしい」と思うんですが、当時大学生で社会経験もなく、あまり理解してなくて、「こういうものなんだ」とそのまますすんでしまった。
承諾書を提出したあと、男性スタッフに大きい車に案内されました。そこから撮影がスタートしました。初めは男性の話を聞いているだけで、とくにあやしいこともありませんでした。ただ、撮影が進んでいくにつれて、だんだんおかしな雰囲気になっていきました。
男性の悩みを聞いていたら、途中から飴を出されました。そのとき、おかしいと感じたんですが、車のなかにいて、撮影が始まっていましたし、男性スタッフ4、5人の中で女性はわたし1人。車の出入り口も1つしかなかったので、「逃げれば良かったじゃん」と思われるかもしれませんが、難しかったです。
とりあえず、求められていることに答えて、終わったあとに「この映像は使わないでください」とお願いすれば大丈夫だと思ったんです。実際に、撮影が終わったあとに「使わないでください」とお願いしました。向こうのスタッフからの返答は「大丈夫」というものでした。「大丈夫」と言われたら、大丈夫なんだろうなと思ってしまって、その日はそのまま終わってしまったんです。
●「1年以上、アナウンサーとしての仕事はできませんでした」
結局、大丈夫ではなくて、わたしが知らないところでアダルトビデオの冒頭部分に映像が使われて、知らない間に発売されていました。わたしはそれがきっかけで、当時担当していたニュース番組、情報番組、音楽番組すべてを降板することになり、1年以上、アナウンサーとしての仕事はできませんでした。
当時は、ご飯もノドを通らず、毎日泣いて過ごしていました。今となっては笑って話すことができますが、当時は世間からの声がかなり厳しくて、自殺まで考えたほどでした。
わたしの落ち度はゼロだったとはいいません。街なかで半ばだまし討のようにアダルトビデオの撮影がされているということだったり、契約書を書いたら守らないといけない、大丈夫と言われても大丈夫でないということだったり、誰に相談すればいいかわからなかったり。当時、何もわからなくて、忘れたころに騒がれる結果になりました。
みなさんの前でお話をすることで、少しでも知っていただいて、今後被害にあう方が一人でも少なくなればいいという思いをもって、こうして出てきています。人前で話ができるまでかなり時間がかかりました。
この問題については、まだまだ偏見があったり、だまされる女性が悪いという風潮がものすごくあります。わたし自身も表に出るのがものすごくこわかった。
だけど、たとえば、自分の親が「オレオレ詐欺」で、何千万円も取られてしまったら、だまされた親が悪いと思うのでしょうか。そんなことはないと思うのです。もちろん、わたしに脇の甘さがあったと思いますが、だまされた人が悪いわけではないと思います。
AV出演強要問題がしっかりと社会問題として認識されて、被害者が声をあげやすい、そして世間が被害者の声に耳を傾ける環境になっていくことを願っています。
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