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「アマゾン多過ぎ」ヤマトドライバーから悲鳴続出、「利便性」が生んだ過酷な実態
あるセンターの前に出されたカゴ台車。Amazonの箱が複数目に入る

「アマゾン多過ぎ」ヤマトドライバーから悲鳴続出、「利便性」が生んだ過酷な実態

「12月に入って、3キロも痩せました」。首都圏のヤマト運輸に勤めるAさんは、入社10年以上のベテランセールスドライバー。体重が減るのは、長時間の肉体労働に加え、昼食の時間が取れないためだ。

「荷物が多くて、まとまった休憩が取れません。12月は、お歳暮、クリスマス、おせちと1年で一番忙しい。朝7時半から夜11時くらいまで働いています」

実質的な時間外労働は「過労死ライン」と呼ばれる月80時間前後。「僕だけでなく、大半がそんな感じで働いているんです」

●ネットショッピングでドライバー疲弊

ネットショッピングの拡大で、宅配便の利用が増えている。国土交通省によると、2015年度の宅配便は37億4493万個。この10年間で約8億個(約27.3%)も増加した。

ショップ事業者としては、Amazonが独走している。インプレスの調査によると、2015年のAmazonの売上高は9300億円。2位のヨドバシカメラが790億円だから、10倍以上だ。楽天については、楽天ブックスなどの直販が対象のため、5位(550億円)。楽天市場を含めた流通総額では日本トップクラスとされる。

必然、Amazonの配達を受け持つヤマトの取り扱い数も増える。同社の2015年度の「宅急便」取り扱い総数は17億3126万件。Amazonの配達開始から3年で、およそ2億4000万件(約16.4%)伸びた。

本来、荷物が多いことは、ドライバーにとってマイナスばかりではない。ヤマトでは配送件数に応じた「業務インセンティブ」があるからだ。ただし、宅急便は1個20円ほど。仮に余分に50個運んでも、1000円ちょっとにしかならない。

「忙しさに比して、給料が上がった感覚はありません」。Aさんは訴える。結果として、現場にはAmazonに対する負担感が蔓延しているという。

●終わらない「再配達」、コンビニ配送は「オアシス」

Aさんの場合、1日に運ぶ荷物は150個ほど。12月は200個以上の日もあったという。そのうち、2〜3割がAmazonだ。「Amazonを扱うようになって、本当にしんどくなりました」

Aさんは朝、配達を始めると、まずマンションに向かう。「宅配ボックスってあるでしょ。すぐいっぱいになっちゃうから、他社と競争になるんです」

ボックスを狙うのは「再配達」したくないからだ。国交省の調査(2014年)によると、宅配便の再配達率は19.6%。再配達1回目でも約4%が残る。「みんな帰宅してから再配達の電話をかけてくる。だから夜の仕事はいつまでたっても終わらないんです。ヤマトの時間指定は午後9時までですが、その後も配達を続けています」(Aさん)

宅配ボックスを使いたい理由は、ほかにもある。都心部で働くBさん(40代)は、「タワーマンションは宅配業者にとって、面倒なルールが多い」と語る。管理人から台車の利用禁止や、一軒一軒インターホンで許可をとるよう言われることが多いそうだ。宅配ボックスを使えれば、そのわずらわしさから解放される。

「Amazonは、もっと荷物をまとめて発送してくれたらなと思います。それから、小さいものは封筒で送ってもらえると、不在でも郵便受けに入れられるのでありがたいです」(Bさん)

再配達に悩まされる宅配ドライバーにとって、オアシスとも言えるのが「コンビニ」だ。今年、ヤマトを退社した元ドライバーのCさん(30代)は、「コンビニはまとまった量を確実に受け取ってくれるから、本当にありがたかったです」と語る。

しかし、コンビニ店員の評判は芳しくないようだ。Cさんはこう続ける。「知り合いの店員さんは、『こんなサービスなくなればいいのに』と話していましたね。バックヤードがいっぱいになるし、受け渡しに時間がかかるから『休めない』って」

●業務効率でカバー図るも「現場はパンク状態」

Amazonの配送はもともと佐川急便が受け持っていた。ところが、運賃の値上げ交渉が決裂し撤退。入れ替わりで、ヤマトが2013年から参入した。現在、Amazonの配送はヤマトを中心に、日本郵便や「デリバリープロバイダ」と呼ばれる中小企業などが受け持っている。

佐川が撤退するような運賃でもヤマトが手を挙げたのは、佐川とのビジネスモデルの違いが大きい。佐川の宅配便の多くは、下請け業者に代金を払って届けてもらっている。これに対し、ヤマトはほぼ自社ドライバーで届けることができる。配達効率を上げれば、利益が出る。

しかし、目論見に反して、現場はパンク寸前だという。前述のAさんは次のように証言する。「この1年で周りのドライバーが10人ぐらいやめました。下請けの人にお願いして凌いでいるけど、社員自体はなかなか増えない。この間も、体験入社の子を1日、トラックの助手席に乗せたところ、『仕事が慌ただしすぎる』と言ってやめてしまいました」

●「送料無料」を求める消費者

Aさんはこうも述べる。「Amazonについて言えば、会社(ヤマト)が安く仕事を取って来て、現場に押し付けているという感覚です。そもそも『送料無料』は厳しいと思います。最近は、米や水など重いものもネット通販。消費者の方も『送料=手間賃』だと思ってもらえないでしょうか…」

送料が無料なのはAmazonだけではない。急速にシェアを伸ばしているヨドバシカメラなどもそうだ。野村総研が2016年に発表した「買い物に関するアンケート調査」によると、「ネットショップを選ぶ際の必須条件」は、「送料が安いこと」が約70%で、「価格の安さ」を上回る1位だった。送料無料の背景には、消費者の強い要望がある。

「適正な送料をいただければ、給料も上がるし、人も増えると思うのですが…。ダッシュボタンも出て、これからAmazonやネット通販の利用はもっと増えますよね。肉体労働ですから、今のままでは、あと何年体がもつか、まったく先が見えません」

●「労働時間の削減」がかえってサービス残業を生む

ヤマトは今年8月、横浜市にある支店が労働基準監督署からの是正勧告を受けた。問題視されたのは、(1)休憩時間が法定通り取得できていないこと、(2)時間外労働に対する賃金が支払われていないこと。

労基署に窮状を訴えた元ドライバーによると、労働時間を短縮するための取り組みが、かえってサービス残業を生み出していたそうだ。

ヤマトの労働組合は、会社との協定で労働時間の上限を決めており、上限は年々短縮されている。しかし、業務量は増える一方。サービス残業しないと、仕事が回らない状態だったという。

ヤマトの社員ドライバーは5年前から約4000人増えて、およそ6万人。しかし、荷物の増加に追いついているとは言いがたい。単純計算だが、この間、社員ドライバー1人当たりの宅急便の件数が年3000件以上増えているからだ。

会社も業務の効率化を目指し、近年は地域の主婦を2〜3時間だけパート社員として雇う「チーム集配」という方法に力を入れている。ドライバーと同乗させて、客先まで荷物を届けさせるのだ。

同社広報は「労働集約型の産業なので、人手が大切という認識は当然あります。ドライバーの増員も含めて、対策を検討しています」と話す。

●ユーザーはどうすべきなのか?

12月24日午前、記者宅のインターホンが鳴った。部屋の前にいたのは、ヤマト運輸の中年セールスドライバー。ネットの酒屋で注文した商品を届けてくれたのだ。

サインをしながら、恐る恐る尋ねてみる。「やはり、クリスマスは大変ですか?」。男性は苦笑いで答えた。「キャパ超えちゃってますね。特にAmazonは多過ぎ。仕分けが追いつかないですよ」。送料別のサイトで買ったものの、後ろめたい気持ちばかりが残った。

近所の営業所をのぞくと、大小さまざまな段ボールがうず高く積まれていた。慌ただしく出入りするスタッフ。「現代のサンタクロース」は忙しい。それも物凄く――。

今年はクリスマス期間中に、佐川急便に大規模な遅配が発生し、大きな話題になった。ネット通販で生活は飛躍的に便利になったが、運ぶのは「人」だ。宅配便の増加に、業界が耐えられなくなって来ている。

とはいえ、Amazonをはじめ、ネット通販の便利さを手離すことは難しい。Aさんに尋ねてみた。「利用者として最低限できることはなんでしょうか」。返って来た答えは、次のようなものだった。

「僕も『利用者』なんで、あんまり偉そうなことは言えません…。時間指定して、その時間必ず家にいてくれる、それだけでもだいぶ違います」

(弁護士ドットコムニュース)

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