「無料」の氷を持ち帰った49歳の男性が「窃盗罪」で現行犯逮捕――そんなニュースが報道され、話題になっている。
朝日新聞などによると、氷を「盗まれた」というのは、茨城県にあるスーパーマーケット。その入り口付近には、買い物客が「無料」で氷を持ち帰れるように、製氷機が用意されていた。
男性は7月29日午前10時20分ごろ、この製氷機から12キロの氷を、持参した袋に入れて持ち帰ろうとした。店長から「買い物客用の氷だからやめてほしい」と注意を受けたが応じず、通報を受けて駆けつけた警察に現行犯逮捕されたという。
逮捕された男性は「私は窃盗だと思っていない」と容疑を否認しているという。SNS上では、「これで逮捕されるのか」「買い物せずに試食だけしても窃盗なの?」「12キロも持ち帰れば逮捕されて当然」など、さまざまな声が上がっている。
スーパーで売られている商品を勝手に持ち帰ったら、当然犯罪となってしまうだろう。しかし、今回の事件で盗まれたものは、店が「無料」で提供していた物だ。なぜ「窃盗」容疑で逮捕となったのだろうか。刑事事件にくわしい伊藤諭弁護士に聞いた。
●所有者の承諾があれば「窃盗」にはならないが・・・
「窃盗とは、他人の財物を盗む犯罪です。モノを持ち去ることについて、所有者が承諾していた場合には、窃盗にはあたりません。
今回、スーパーは買い物客に対して、無料で氷を提供していたようですが、それだけで『誰でも好きなだけ氷を持っていって良い』という承諾があったとは言い切れません。
ポイントは、『スーパーマーケットがどの程度までであれば、氷を持ち帰ってもらってもいいと考えていたか』、また『それが顧客に分かるように表示されていたか』という点だと考えます」
スーパーの「考え」はどうだったのだろうか?
「前提として、この店で提供していた氷は、店に所有権があります。
そして、この氷は、店で買った商品の保冷用として、無償で提供されていたものだと報じられています。
つまり、『商品を保冷するために使う』という限りで、顧客が持ち帰ることを、店側は承諾していたと評価できます。
裏を返すと店側は、買い物客以外が持ち帰ることや、保冷目的から著しく逸脱した量の持ち帰りは承諾していないということです」
今回逮捕された男性は「窃盗だと思ってない」と容疑を否認しているようだ。もし店の承諾があると「誤解」していた場合は、どうだろうか。
「そうした場合、罪に問えないことがありえます。そこで重要になってくるのが、表示の問題です。
買い物客用の表示や、保冷用の表示などがあれば、それ以外の者に対して承諾していないことはわかります。しかし、現実にそれだけで窃盗罪に問うことは少ないでしょう。
今回のケースでは、店長が『買い物客用の氷だからやめてほしい』と注意をしたにもかかわらずこれに応じなかった、という点が逮捕の決め手になったと思われます」
伊藤弁護士はこのように述べていた。