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ベッキー不倫騒動「LINEやりとり」を公開した出版社と情報提供者に問題はないの?
1月7日に発売された週刊文春

ベッキー不倫騒動「LINEやりとり」を公開した出版社と情報提供者に問題はないの?

タレントのベッキーさんと、バンド「ゲスの極み乙女」のボーカル・川谷絵音(えのん)さんの不倫疑惑が週刊誌に報道されたことで、ネット上では二人に対する非難の声が上がっているが、「LINEのやりとりを公開した側に問題はないのか」といった指摘も出ている。

1月7日発売の週刊文春は、川谷さんが既婚者であるにもかかわらず、ベッキーさんと交際していると報道。二人のものとみられるLINEのやり取りの内容や、LINEのキャプチャー画像などを掲載した。記事のなかでは、データの入手先について「川谷の将来を憂うある音楽関係者」としている。

たしかに、二人とも芸能人で、その言動は多くの人の関心を集めている。しかし、家族や友人と私的なメッセージを交換するツールとして使われる「LINE」のやり取りを、本人たちの同意なく公開することは、法的に問題ないのだろうか。プライバシーの問題に詳しい清水陽平弁護士に聞いた。

●プライバシーとして保護される内容

「まず大前提として、LINEのやり取り、画像などは、プライバシーとして保護される可能性が高いものといえます。

プライバシーについては、「宴のあと」事件という有名な裁判の判決(東京地判昭和39・9・28)で、以下のような要件を満たす場合に保護されるとされました。

(1)私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られるおそれのあること

(2)一般人の感受性を基準にして公開を欲しないであろうと認められること

(3)一般の人々に未だ知られていないことがらであること

現在もこの基準がストレートに妥当するのかというのは疑問なしとはしないのですが、実務上一つの基準として機能しています。

この基準によると、今回は、個人的なLINEのやり取りや画像であり(1)、一般人には当然知られておらず(3)、男女関係に関することと受け取られる可能性があることを考えれば、公開を欲しないといえる(2)ことは明らかと思います。

したがって、プライバシーとして保護されるべき内容といえます」

芸能人は、職業柄多くの人の目に触れるが、一般人と同様に考えられるのだろうか。

「芸能人であっても私生活がある以上、プライバシーがないということはありません。本件のような個人的なものについては、当然に保護の範囲が及ぶといえます。

ちなみに、仮に不倫関係であったとして、それが社会的に見て許されるものではないという事情があるとしても、プライバシー侵害になるかどうかの判断には、基本的に関係ありません」

●出版社も情報の提供者も、不法行為にあたる可能性

では、公開した側に責任があるということか。

「まず、プライバシーで保護される内容を公開した出版社は、プライバシー侵害による『不法行為』に当たる可能性があります

さらに、LINEのやり取りやキャプチャ画像などを出版社に提供した者も、プライバシー情報を直接公開したわけではないですが、出版社に渡している時点で公表してほしいという意思があるものと判断できるため、出版社とともに『共同不法行為』の責任を負う可能性があります。

提供した者については、本人のスマホなどを勝手に操作しているものと想像されます。そのため、LINEなどを勝手に見ることは不正アクセス禁止法に抵触しないのかという論点があります。

不正アクセス禁止法に抵触するためには、勝手にログイン情報等を利用してログインすることが必要ですが、実態として、LINEは最初に認証すると、あとはログインなどのステップを経ずにアクセスできてしまいます。そのため、不正アクセス行為には当たらないという考え方があります。

しかし、一方で、自動で認証がされているだけであるから、不正アクセス行為にあたるという考え方もあります。

これで実際に摘発されたという例は聞きませんが、法的には一応問題になり得る点です」

●法的には、どんな対応ができるのか?

プライバシーを公開された者は、どんな対応が考えられるのだろうか。

「プライバシー権に基づいて請求し得るものとして、損害賠償請求と、差止請求があります。

今回の場合、損害賠償は請求できる可能性がありますが、雑誌がすでに発売されてしまっているため、雑誌の発行を差し止めることはできません。

ただ、インターネット上にLINEのやり取りや画像について転載されてしまっているものもあり、それらについて削除を請求していくことは可能ということになります」

もし、実際に請求した場合、認められる可能性はあるのだろうか。

「最高裁は、プライバシー侵害の成否に関して、『事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量し、前者が後者に優越する場合に不法行為が成立する』としています。

具体的にどのような理由を考慮するかという問題はありますが、個人的には、世俗的興味に基づくものがその大半を占めると思われることからすると、法的には不法行為が成立するのではないかと考えています」

LINEの内容等が仮に本物ではなかったような場合には、どう考えればいいのだろうか。

「プライバシーの保護対象は『私生活上の事実らしく受け取られるおそれがあるもの』についても及びます。記事を普通に読めば、本人たちのものと受け取られるものであるため、やはりプライバシーの保護を受けることができると思います。

また、本人たちのものではないということであれば、本人たちが不倫をしているという誤解を生じさせる点で、名誉を害する事態になっています。そのため、名誉毀損の問題がクローズアップされることになります」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

清水 陽平
清水 陽平(しみず ようへい)弁護士 法律事務所アルシエン
インターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定について注力しており、総務省の「発信者情報開示の在り方に関する研究会」(2020年)、「誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」(2022~2023年) の構成員となっている。主要著書として、「サイト別ネット中傷・炎上対応マニュアル第4版(弘文堂)」などがあり、マンガ「しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~」の法律監修を行っている。

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