安倍晋三元首相の銃撃事件以降、旧統一教会の被害を訴える相談が相次いでいます。弁護士ドットコムニュースは、ある信者家族の3カ月を取材。30代男性に、母親が脱会するまでの軌跡を語ってもらいました。
●サークル活動だと思って目をつぶった
母ヨウコ(60代)は、30年以上にわたって旧統一教会の信者です。私たちが子どもの時に娘の不登校や夫婦仲のことなど家庭の悩みを抱えて入信したそうです。
私と妹は既に独立しています。父が亡くなった後、遺品整理に実家の片付けに行くと、献金の見返りとして渡された分厚い本や文鮮明・韓鶴子夫婦の写真、クリスタルの置物や壺など多くの品があることが分かりました。
父も反対していましたから、よく口論になったこともあったようです。父が怒って割った印鑑もありました。
母は一人で暮らすようになってから、実家の土地を売って引っ越すなどと言いだす時があったり、選挙の時は自民党議員に投票するようお願いしたりで、正直、私たちも困っていました。家にはランチ会などの名目で教会の人たちがよく来ているようで、それも不快でした。
しかし、それ以外は全く普通の母親です。孫を実家に連れていってご飯を食べて団らんすることも、一緒に出かけることもあります。教会のことについて反対すると言い合いになるし、母は一時、教会から離れたふり(いわゆる偽装脱会)をしたこともあったのです。「サークル活動程度なんだから」と私たちは目をつぶっていました。
●なんとかしたい、でも情報がない
そんななか、7月8日の安倍元首相銃撃事件が起きました。
容疑者家庭の背景に統一教会があること、多額の献金をしていたことを知りました。
やっぱりこのままじゃいけない。お母さんには、もう教会に関わってほしくない。
インターネットで調べ、全国統一協会被害者家族の会(通称、家族の会)にメールや電話相談をしました。すると、これまで叱りつけるようにしていた私たちのやり方が間違っていたようなのです。電話口の方に「焦らないで」とも言われましたが、いてもたってもいられず経験者の話を聞きたいと7月末、初めて相談会に出かけました。
会場は多くの人であふれていました。私たちは、これまで分かっているだけでも母が数千万円献金していること、土地を売るのを止められるかなど、現状をどうにかしたいという思いだけでした。この時、脱会の2文字はまったく頭になかったのです。
いつの間にか家族全員が前のめりになって話を聞いていました。本当は、母が死んでしまえば楽になるのに、とまで思ったこともあります。じんましんが出てしまうこともありました。でも来てよかった。自分たちだけで悩んでおかしくなりそうだったけど、少しだけ光が見えた気がしました。
私たちの母をめぐる闘いは、この日から始まったのです。1歩進んで2歩下がるような毎日が待っているとは、灼熱の太陽が照りつけたあの日には、まだ思っていませんでした。