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ジムの「糖質制限ダイエット」で湿疹がとまらずつらい、慰謝料は請求できる?
(cocoa / PIXTA)

ジムの「糖質制限ダイエット」で湿疹がとまらずつらい、慰謝料は請求できる?

今流行りの糖質制限ダイエット。パーソナルジムで糖質制限を指導される人もいるようですが、弁護士ドットコムには「糖質制限で色素性痒疹と診断された」という相談が複数寄せられています。

●【相談】糖質制限のリスク説明されず

ダイエットパーソナルジムに入会し、糖質制限をしてダイエットをしました。毎日勧められた食事をとり連絡していましたが、途中から湿疹が出てきました。ジムに相談して糖質を少し増やすメニューに変えましたが、湿疹が広がる一方でした。

大学病院を受診したところ、ケトン体が通常の10倍ほどあり、おそらくそれが原因での色素性痒疹と診断されました。ジムでは、糖質制限でケトン体は増えるが、それは問題ないと説明を受け、契約時に糖質制限のリスクなどは一つも説明を受けませんでした。そうした内容の契約書もありません。

医師によると、糖質制限により若い女性によくおこる事だと聞きました。いま通院中ですが、体に跡が残ってしまい、精神的につらい状況です。ジムに対し説明責任や賠償金などの請求は出来るのでしょうか。

●【回答】因果関係が必要(大村真司弁護士)

今回考えられる法的請求は、損害賠償請求ということになると思います。 基本的には、過失のある義務違反行為によって被害が発生した場合には、損害賠償責任が発生します。義務違反行為と被害の間には、因果関係が必要です。

ところで、色素性痒疹について私なりに調べてみましたが、基本的に原因不明で、ケトン体の急増が誘因の1つであるとはされているものの、それが決定的なものとされているわけでもないようです。低糖質ダイエットは、ケトン体の増加を誘発するとされています。

また、色素性痒疹は基本的には1週間ほどで消失するもののようで、再発を繰り返した場合に色素沈着の可能性がある病態のようですから、湿疹が生じた段階でダイエットを中止すれば、長期にわたり色素沈着が生じる可能性は低いようです。

今回のケースで湿疹の場所は明記してありませんが、通常は胸や背中などの上半身のようです。

糖質制限の内容がどの程度だったのか(どこでもやっている程度なのか、かなり極端な制限なのか)により、義務違反行為の内容が変わるので、場合分けして考えてみます。

●かなり極端な糖質制限だった場合

糖質制限ダイエットの内容が極端過ぎて、無視出来ない高確率で色素性痒疹が発生するということであれば、指導内容自体が義務違反行為になります。

この場合には、色素性痒疹の発症自体が損害です。しかし、1度の色素性痒疹では、長期にわたって色素沈着が残る可能性は低い上、胸や背中などの通常露出しない部位の色素沈着は、後遺障害である醜状障害とは認められないのが通常です。

したがって、損害としては、治療費と治療期間に相当する慰謝料で、トータルでも20~30万円程度が最大ではないでしょうか。そして、その立証も決して簡単ではありません。

●通常の糖質制限だった場合

通常の方法と程度であれば、色素性痒疹が発症することは、レアケースだと思われるので、糖質制限ダイエットの指導内容自体が義務違反行為だということは難しいでしょう。

●説明義務違反はあったか?

問題にしうるとすれば、低糖質ダイエットを行うことでのリスクの説明をすることを怠った、説明義務違反があるかどうかという点だと思います。

この場合、説明義務違反と因果関係のある被害は、色素性痒疹の発症ではありません。低糖質ダイエットをするかどうかを判断するにあたって、色素性痒疹の発症の可能性を考慮できなかったという意味での、自己決定権の侵害です。

請求出来るのは慰謝料です。当然のことながら、色素性痒疹の発症自体の損害評価よりさらに低額になります。

そもそも、説明義務違反があると言えるかどうかも微妙で、有無の判断には少なくとも医学的な専門性が必要ですが、そのような難しい判断を乗り越えたとしても、認められる損害賠償請求はごくわずかで、専門家に依頼して裁判などを行うのは不可能だと思った方がいいでしょう。

プロフィール

大村 真司
大村 真司(おおむら しんじ)弁護士 大村法律事務所
広島弁護士会所属。広島弁護士会 非弁・業務広告調査委員会委員長、消費者委員会委員、国際交流委員会副委員長、子どもの権利委員会委員

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