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"洗脳"手法を徹底研究、旧統一教会「伝道の違法性」を追及した第一人者の終わらない闘い
旧統一教会の手法を調べ上げて訴訟に臨んでいる郷路征記弁護士(2022年8月17日、本田信一郎撮影)

"洗脳"手法を徹底研究、旧統一教会「伝道の違法性」を追及した第一人者の終わらない闘い

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る議論や指摘で抜け落ちている点がある。それは、旧統一教会の伝道・教化活動そのものが、国民の思想信条の自由を侵害する違法行為であるとする判決が確定していること、すなわち憲法違反という認識だ。

その判決を1987(昭和62)年から14年間かけて勝ち取り、以降も違法伝道を白日の下に晒してきた第一人者が札幌にいる。

現在も3件の訴訟を闘い続ける旧統一教会の不俱戴天の敵ともいうべき郷路征記弁護士(全国霊感商法対策弁護士連絡会代表世話人)に聞く。 (ジャーナリスト・本田信一郎、文中敬称略)

●信仰の自由侵害を提起した弁護士はただ一人

――(旧統一教会の伝道・教化活動は)社会的にみて相当性が認められる範囲を逸脱した方法及び手段を駆使した、原告らの信仰の自由や財産権等を侵害するおそれのある行為であって、違法性があると判断すべきものである――。

これは郷路征記が1987(昭和62)年3月に提訴した「青春を返せ訴訟」(郷路本人が命名)で、2001(平成13)年6月に言い渡された札幌地裁判決の一部である。2003(平成15)年に被告である旧統一教会の控訴は棄却、上告も棄却されて確定した。

この訴訟以降も、郷路は一貫して旧統一教会の伝道・教化活動が、被勧誘者である国民の自主的、主体的な信仰選択を侵害する不法行為であることを立証し、そして、勝訴してきた。

ところが、安倍元首相銃撃事件以降、聞こえてくるのは霊感商法・高額献金・合同結婚式といった1980年代から1992(平成4)年をピークとする「騒動」の繰り返しのような視点の言葉ばかりで、冒頭の判決を踏まえた違法性の議論がなされていない。

どうも政治家は「ささいな接点」にせよ、憲法違反といえる違法行為を是認しているに等しいということの自覚がないようだ。空疎というほかない。

「実に見事に抜け落ちてますね。信仰の自由が侵害されているという裁判をやっている弁護士は僕ひとりですから」と穏やかな表情で郷路はいう。

「現在、2世信者、宗教2世の苦悩がクローズアップされていますが、たとえば、その子どもたちが旧統一教会に損害賠償を求めることを考えた場合には、親自身が違法な伝道・教化によって信仰を持たされたというところを出発点にしないと責任の追及はできないんです。

そこを問題にしないと苦しみの根源を問うことはできずに、単なる毒親問題になってしまう。それでは旧統一教会は痛くも痒くもないし、問題の本質に迫ることはできません」

●加害者になった元信者は涙を流して自責の念を語った

郷路が旧統一教会と接点を持ったのは、高額献金の返還交渉だった。時は1980年代になって霊感商法被害が急増した頃である。その後、脱会に伴う人身保護請求に関わり、手探りで資料や証言を収集する過程で、ひとりの元信者と出会う。

「25、6歳だったかな、霊感商法の中核を担わされ、霊能師として因縁トークをして壺を買わせていた女性でした…。涙です。滂沱(ぼうだ)の涙ですよ。顔を伏せるのでも、拭おうとするでもなく、涙が流れるまま話し続けました。犯罪行為を正しいこととしてやっていた自責の念に痛烈に苦しんでいたのです」

そして、郷路は旧統一教会が如何に周到な段階を踏んで信者を隷属させ、人生を収奪しているのかを知り、「こんなこと絶対に許せないと思った」という。

発火点を得た郷路は、元信者1名を原告に1987(昭和62)年3月、札幌地裁に提訴する。霊感商法は公序良俗違反の不法行為であり、伝道・教化活動を洗脳による人格破壊と構成して100万円の慰謝料を請求した。

この時、旧統一教会の反応として伝わってきたのは「変な訴訟を起こされたよ、慰謝料請求だぜ」という嘲笑だった。また、多くの弁護士からは「裁判所がそんな請求を認めるわけがない」「珍訴、奇訴の類」といわれた。――自ら信者になっていたのだし、むしろ霊感商法の加害者なのだから慰謝料請求は無謀――ということである。

ちなみに、同年9月に日弁連は霊感商法の被害状況(総額57億円)を発表したが、旧統一教会との関連は示唆するにとどまっている。

郷路はひとりだった。しかし、必ずしも孤立無援ではなかった。「元信者との『マインドコントロール研究会』を始めました。10名くらいで毎週土曜日の2~3時間、18カ月続けたので相当の延べ人数です。海外の文献と自身の教化課程を照らし合わせると、重なる点が次々に見つかり『自分は騙されていたんだ』ということがよく分かる」

「すると『私は悪くない』と思えるからリハビリにもなりました。それに、内部資料や教化講義の板書を写したノートなどの伝道課程の事実を全部、極力集め抜いた。それが大きかった」

●控訴委任状を携えて臨んだ判決は全面勝訴

原告は提訴からおよそ4年間で20名になった。そして、2001(平成13)年6月、一審の判決を迎えた。

「裁判官の態度も硬化している感じでしたし、『これは勝てないな』と思って、控訴審の全員の委任状を懐に忍ばせて、叩きつけてやろうと思って判決に臨んだんです。そしたら、全面勝訴だった。びっくりしました。ものすごく嬉しかったですね」

だが「判決文では『信仰の自由や財産権等を侵害するおそれのある行為』というけれど、原告は現実に旧統一教会員になっていたのにとは思いました。しかし、僕も何故その信仰を植え付けられるのかというメカニズムは、まだ十分に主張できてはいなかった。承諾誘導の技術だけでは説明しきれない。

ですから、裁判所もそこは何も触れないで、伝道・教化の最初の段階で正体を隠していることが信仰の自由を侵害するおそれのある行為だから不法行為だとした。それはそれで当時の裁判所の書き方としては大英断だったと思います。50万字の判決文でした」と振り返った。

提訴からこの判決までのおよそ14年間で、旧統一教会「騒動」は鳴りを潜め、取って代わるようにオウム真理教が注目され、果ては地下鉄サリン事件が起き、マインドコントロールやカルトが認識されるようになる。

郷路は「オウムを隠していない伝道・教化課程を違法だといえるのか、でも、そこを違法だといわない限りはやはり救われないのではないかと考えていました。世間の関心がどう移ろうとも、問題意識がずれることはありませんでした」という。

●第2弾の判決は「憲法の理念を基に評価、判断している」

郷路は旧統一教会の上告が棄却された翌2004(平成16)年、元信者40名と、その元信者に勧誘されて物品を買わされた近親者を含む23名を原告に、およそ6億5000万円の損害賠償請求を提訴した。今回の郷路の命名は「信仰の自由侵害回復訴訟」だった。

2012(平成24)年3月の札幌地裁の判決のポイントは

ーー信仰による隷属は、あくまで自由な意思決定を経たものでなければならない。信仰を得るかどうかは情緒的な決定であるから、ここでいう自由とは、健全な情緒形成が可能な状態でされる自由な意思決定であるということができる――
――旧統一教会の場合、入信後の宗教活動が極めて収奪的なものであるから、宗教性の秘匿は許容し難いといわざるを得ない――

であり、「青春を返せ訴訟」で指摘された正体を隠した勧誘・伝道はもとより、被勧誘者が「ミス認定」する内心に踏み込んでいる。

郷路は「僕はたこつぼの中にいたようなもので、内部文書や原告の証言を練り上げたのですが、裁判官は一神教の信仰を得る過程という視点から、僕の資料を切開して解明してみせたんです。論理ではなく情緒なんだと。だから正体を隠して統一原理を教義としてではなく事実として教えられると、より浸透させられてしまう。

因縁や迷信も繰り返されると、それが事実と思ってしまう人が一定の割合でいるという認定です。それに、直接的な適用はありませんが、憲法の理念を基に評価、判断している判決だと思います」という。

そして、およそ2億7000万円の支払いが命じられた。「実損とされた部分は全部認められました。慰謝料の計算もとても細かい分類をしてきちんと積み上げていて、最高額は750万円くらいです。遅延金を加算すると総額でおよそ4億4千万円になります」と郷路は判決を高く評価した。

「青春を返せ訴訟」と「信仰の自由侵害回復訴訟」の両確定判決で明確になったのは、『旧統一教会の伝道・教化活動は、対象者の思想信条の自由を侵害する違法行為である。伝道・布教や物品販売を行っているのは信徒会などの任意、協力団体等ではなく、旧統一教会そのものである。献金や物品購入だけでなく、献身(隷属)させられて旧統一教会の事業に専従したことは損害であり、慰謝料の加算事由である』であった。

●次なる戦場は東京へ 違法伝道訴訟を広げるために

2017(平成29)年から、札幌のみならず東京地裁と前橋地裁で同様の「違法伝道訴訟」を提訴した意図を、郷路は少し固い表情でこう語る。

「(違法伝道訴訟を)やる弁護士が増えてこないし、その傾向もない。それでは勝てない。旧統一教会のやり方は、霊感商法的手法で脅して透かして信者になる前に金をガバーッと取る。でも、信者になった後なら脅さなくても献金するし、買うんですよ」

「脅すような働きかけがあったことを立証して、個別に返金、賠償を求める勧誘違法型では信者になった後の献金については勝てなくなる。現に旧統一教会は、やり方を変えてきている。従来の請求方法で勝てなくなると、旧統一教会ばかりでなく、カルトといわれるものに対して、国民の権利を守る闘いに大きな損失を被るだろうと…。それを阻止するには『違法伝道訴訟』を広げなければならない。そのためには注目度が高い東京でと考えたのです」

旧統一教会が「違法伝道訴訟」を避けるための最低条件は、勧誘の最初から旧統一教会の伝道活動であることを明確に伝え、信者となった場合にどのような活動に従事することになるかを説明しなければならないが、それは、必然的に信者と献金額の減少に直結するだろう。

しかし、正体を明かした上で信者にするオウム真理教のような例もある。既に郷路の近年の裁判でも「隠してはいない」との反論があったという。それでも、35年前と比して「正体の秘匿だけでなく、伝道・教化課程の違法性についての分析が、かなりのレベルまでいけたというのが変わったところですね」と郷路は自信を覗かせる。

●伝道の違法性が広く知られていれば、安倍氏銃撃事件は防げた

安倍元首相銃撃事件について、郷路は「圧倒的に努力が足りなかった」と自戒する。そして、「伝道・教化の違法性が広く知られ、裁判所や社会に正体隠しの伝道は許されないとの規範があり、山上容疑者の母親の入会を防ぐことができていれば、この悲劇はなかったんです」という。

ここで郷路のいう規範は、カルト規制とは少し違う。

「規制から考えるのではなく、信教の自由をどう守っていくかという視点で考えれば良いと思います。国民は個人として、圧倒的な力量を持っている宗教集団の勧誘行為に対峙する立場に置かれているわけですから、十全な間違いのない判断ができる環境をどうしたら整えられるかという視点です」

「信仰は自分の責任で持つのだから放置して良いというのは見直さなければならないでしょう。人間はそんなに強くはない。他の影響を受けるものです」

そして、郷路は続けて自身の立ち位置を語った。

「僕の場合は旧統一教会の伝道・教化課程についての具体的な知識を持たないと、信仰の自由を守るためにはどうしなければならないかの解は出てこなかった。それは、すべての問題集団も同じだと思います」

「事実関係を精査し、理解した上で、信仰に至る過程で、国民の信仰の自由が守られているか、守るためにはどう考えるべきかという視点で洗い直して行く。その作業が必要なのだと思います」

弱者に寄り添い続けている郷路は、一息つくと、「正体を隠して騙すなんてのがどうして許されるのか、どうしてそんなことが違法だといわれるために民事の裁判で何十年も努力しなければならないのか…」と、珍しくぼやいた。

※8月23日午後6〜8時には自由法曹団北海道支部で郷路征記弁護士の「統一協会 その違法な伝道・教化の手法」と題したzoomによるオンライン講演がある。以下の Googleフォームより事前申し込みが必要。

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プロフィール

郷路 征記
郷路 征記(ごうろ まさき)弁護士 郷路法律事務所
札幌市生まれ、東北大学経済学部卒業。札幌弁護士会副会長、同会子どもの権利委員会委員長などを歴任。1980年代から旧統一教会問題に携わり、全国霊感商法対策弁護士連絡会代表世話人を務める。著書に「統一協会 マインド・コントロールのすべてー人はどのようにして文鮮明の奴隷になるのか」(教育史料出版会)など。

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