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コロナ禍の結婚式キャンセル料金「新郎新婦は支払うべきか」弁護士が解説
さまよう花嫁(写真はイメージ peach / PIXTA)

コロナ禍の結婚式キャンセル料金「新郎新婦は支払うべきか」弁護士が解説

新型コロナウイルスへの対策として結婚式をキャンセルすることは「自己都合のキャンセル」になるのでしょうか。3月に結婚式を挙げる予定だった新郎新婦が、式場との間で発生したキャンセル料金について今も交渉を続けています。

「人生の一大イベント」が頓挫したショックとキャンセル料金は新郎新婦への「Wパンチ」。一方で、コロナで打撃を受けたのはブライダル業界も同じです。相次ぐキャンセルで資金繰りに窮する式場も出ています。

事態の推移を振り返りながら、弁護士が「結婚式のキャンセル料金」について解説します。

(本記事は2部構成の後編です。前編で新婦へのインタビューを掲載しています)

●3月末に東京で式を挙げるはずだった

30代女性Aさんは、都内の式場で3月末日に予定していた結婚式を3月19日に中止した。「空気清浄機8台とアルコール消毒の設置」「デザートビュッフェをテーブルに届ける」など式場のコロナ対策に不安を感じたからだ。

「契約者都合」として約61万円(消費税込み)のキャンセル料金(見積もり金額の30%)を請求され、交渉で約56万円まで減額されたが、納得できていない。「感染拡大防止のために中止しました。契約者都合のキャンセルではありません」と一貫して主張する。

同じ系列の式場との間でキャンセル料金交渉を続ける全国の新郎新婦とSNSでつながり、「結婚式のキャンセル料金に消費税はかからない」という情報が広まっていることを知った。

高額なキャンセル料金をめぐって、多くの新郎新婦が悩みを抱え、消費者生活センターへの相談件数は3月の513件、4月の971件と倍増している。一方で、売上を断たれた結果、倒産した式場もある。互いに引くに引けない事情があれば、減額交渉の難航も避けられない場合があるだろう。

結婚式をキャンセルしたAさん(提供画像) 結婚式をキャンセルしたAさん(提供画像)

コロナ禍の結婚式キャンセル料金の考え方について、消費者問題に詳しい金田万作弁護士に聞いた。

●キャンセルは「不可抗力なのか?」

ーー緊急事態宣言発令前(今回の新郎新婦の場合は3月末日)に実施予定だった式のキャンセル料も減額が認められる可能性はあるのでしょうか

本来予定していた結婚式の開催が社会通念上可能かということで結論は変わります。

社会通念上、新型コロナで本来予定していた結婚式が開催できないのであれば、当事者双方の責任ではありません。いわゆる「不可抗力」によるものとして、「自己都合のキャンセル」ではないので、キャンセル料は発生しないことになります。

いつの時点で判断するのかによって結論が変わる可能性もあるため、キャンセルをした3月19日時点で考えてみます。3月19日時点でも、政府からは活動自粛や休業要請が出されていました。

2月〜3月にかけて、多くのイベントの中止や施設の休業が行われていました。

・全国的なイベント等の2週間の中止等の要請(2月26日)

・換気が悪く、密集した場所や不特定多数の人が接触するおそれが高い場所、形態での活動の自粛要請

・事業者への感染防止のための十分な措置の求め。全国の小中学校、高校等への臨時休業要請(2月29日)

・「3密」避けてとの専門家会議の提言(3月10日)

時期は多少前後しますが、3月22日に国や埼玉県が自粛を要請していた格闘技イベントが開催され、SNS上では不安や批判の声が上がっており、歓送迎会など会合や宴会もキャンセルが急増していたと記憶しています。

上記のような状況で、参列者は参加をためらいますし、新郎新婦もせっかくの結婚式をコロナ感染のリスクの場としたくないと考えるのは自然です。

式場側のコロナ対策として、「空気清浄機8台とアルコール消毒の設置」「デザートビュッフェをテーブルに届ける」との対策だけで、感染防止のための十分な措置がなされているかは疑問を抱きます。

感染対策のためなら、換気のよい会場で、全員がマスクをし、互いに距離を保って座り、黙って食事をし、短時間で終わらせることが考えられます。ですが、そんな結婚式ならやる意味がないとも言えます。

したがって、キャンセルはやむを得ず、「自己都合」ではなく、新型コロナによる「不可抗力」であって、キャンセル料は発生しないという考え方も十分に説得力があります。

●通常の結婚式なら「開催の余地あり」

しかし、開催の余地が全くないかと考えると、3月19日時点では、緊急事態宣言は出されておらず、全国的なイベント等などへの中止等の要請であって、比較的に小規模な結婚式というイベントまで中止等が公式に求められているかは疑問です。

結婚式の規模や内容によっては開催可能な場合もあり、一律に社会通念上不可能とまで断言するのは難しい場合があります。

よって、結婚式の規模や内容によって、開催の余地があるのにキャンセルした場合には、キャンセル料を支払わなければなりません。

なお、キャンセル料については、消費者契約法の適用があり、契約の解除に伴い事業者に生じる平均的な損害の額を超える金額を定める条項は、超えた部分が無効となるので(消費者契約法9条1号)、その場合には減額が可能になりますが、本件では比較的直前のキャンセルとなるので難しいです。

●緊急事態宣言後のキャンセル

ーーゲストを集めることによる感染リスクを避けるため、結婚式を中止・延期した場合、「自己都合のキャンセル」になるのでしょうか

東京都を含めた7都道府県への緊急事態宣言が発令され(4月7日。4月16日に全都道府県に拡大)、東京都は「緊急事態措置」による休業・休止・自粛が求められる事業を公表しましたが、結婚式場は社会生活を維持するうえで必要な施設として対象外とされ、適切な感染防止対策の協力を要請されています。

しかし、緊急事態宣言に伴って、政府から外出自粛や家族以外の多人数での会食も行わないよう求められるに至り、都道府県をまたいだ外出・移動や多人数での会食を伴う結婚式については、少なくとも東京都においては基本的には不可能であると考えます。

●緊急事態宣言後の結婚式キャンセルは新郎新婦の「自己都合キャンセル」にならない

よって、緊急事態宣言後に休業をしない結婚式場があったとしても、多数の人を集めての結婚式は「社会通念上」不可能ですので、式の中止・延期をした場合でも、「自己都合のキャンセル」にならないと考えます。2人だけの結婚式など、例外的に開催が不可能とならないような形式での結婚式は除きます。

もっとも、物理的には不可能ではなく、「社会通念上」可能かという判断なので、判断が分かれるところです。

ここまでの解説は、自己都合キャンセルの場合のみキャンセル料金が発生する契約、という前提です。

「式場側の責任ではなく開催ができない場合でもキャンセル料や代金が発生する」という定めがあれば、その定めの有効性(消費者契約法により無効となるか)の問題となりますが、公益社団法人日本ブライダル文化振興協会のモデル約款でも返金する形になっており、そのような定めをする式場は少ないのではないでしょうか。

●結婚式のキャンセル料金に「消費税はかからない」

ーー結婚式のキャンセル料に消費税はかかるのでしょうか。国税庁では「課税の対象となりません」と説明しています

国税庁の説明通りで、逸失利益に対する損害賠償金としてのキャンセル料であれば、消費税はかかりません。本件では、主として逸失利益に対する損害賠償金と考えられ、事務手数料部分が含まれていたとしても、区分されていないため、全体として不課税として取り扱われます。

●白黒つけるだけが得策ではない。「相互妥協」の道も

なお、結婚式場含めたウェディング業界も新型コロナにより深刻な影響を受けていることは間違いがなく、キャンセルではなく延期などで対応できるのであれば、双方にとって良い結果となる場合もあります。

もっとも、民法における当事者双方に責任がない場合の危険(リスク)負担の帰結としては上記のとおりです。事業者の補償等は政府や都道府県に期待したいところです。

まずは当事者間で話し合ってみて、それでも解決できなければ弁護士を頼るのもよいだろう。

取材協力:ウェディングニュース

プロフィール

金田 万作
金田 万作(かなだ まんさく)弁護士 笠井・金田法律事務所
第二東京弁護士会消費者問題対策委員会(電子情報部会・金融部会)に所属。投資被害やクレジット・リース関連など複数の消費者問題に関する弁護団・研究会に参加。ベネッセの情報漏えい事件では自ら原告となり訴訟提起するとともに弁護団も結成している。

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