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ひきこもり支援うたう「自立支援業者」が破産、2000万円支払った女性「返金もなく悔しい」
業者に2000万円を支払った高齢女性(3月30日、東京都内)

ひきこもり支援うたう「自立支援業者」が破産、2000万円支払った女性「返金もなく悔しい」

ひきこもり当事者らの「自立支援」を掲げる民間業者で、昨年末に破産を申し立てた「クリアアンサー」社(東京・新宿)の第1回債権者集会が、3月30日に開かれた。同社の運営する「あけぼのばし自立研修センター」は、強引に当事者を入所させ、親に高額な報酬を請求することが問題視され、被害者の提訴が相次いでいた。

被害対策弁護団が債権者集会後、都内で開いた記者会見には、長男を入所させるため、同社へ2000万円以上を支払ったという母親(76歳)が出席。「契約を1年更新した2カ月後、息子は突然帰宅させられ、ひきこもりに戻ってしまった。返金もなく悔しい気持ちでいっぱいです」と訴えた。

●「破産3カ月前に1年契約強いる 借金して費用を工面

母親の長男(36歳)は小学校時代から不登校を繰り返し、高校中退後はひきこもり生活が続いていた。母親は知人の紹介で同センターを知り、2018年12月に長男を入所させた。長男は、自宅を訪れた職員に2時間半ほど説得され、抵抗せず施設へ向かったという。

入所時の支払額は、3カ月契約で約450万円。翌年3月には契約を6カ月更新し、約550万円を支払った。

最後に契約を更新したのは、破産3カ月前の昨年(2019年)9月だ。支払いが高額なこともあり6カ月の延長を希望したが、職員に「1年契約でなければダメだ」と言われ、借金して1050万円を支払った。

しかし11月末、職員から突然「息子を迎えに来るように」との連絡を受けた。驚いてセンターに行くと、身の回りの物を入れた段ボール箱2つとともに、長男を引き渡された。職員から詳しい説明はなかったが「いずれまた(施設に)引き取る」との話もあり「一時帰宅のようなものかな」と思ったという。

12月に入ると、会社や担当者と電話がつながらなくなった。不審に思った母親が施設に行くと、片付けの真っ最中だったという。偶然居合わせた同センター幹部に話を聴こうとしたが「もう会社は終わりました」と言われるだけだった。

「今も長男はほとんど部屋から出ず、お金も返ってこない。契約延長の時、高額な1年契約にこだわったのは、破産して支払いから逃げることを前提にしていたと思えてならない」と、母親は声を詰まらせた。

●責任逃れのため破産?「ネガティブ・キャンペーンが原因」と代理人

同センターの被害対策弁護団によると、同社は2018年から2019年にかけて、役員報酬を大幅に増額している上、昨年11月初めまで入所者を受け入れており「にわかに業績不振に陥るとは信じがたい」(弁護団の林治弁護士)。弁護団長を務める宇都宮健児弁護士は「責任逃れのために破産したとすれば、極めて悪質だ」と批判した。

だが、債権者集会で明らかにされた同社の資産額から、親が支払った費用を回収できる見込みは少ないという。

同センターについては、30代の男性が昨年2月、暴力的に自宅から連れ出された上に9日間地下室で監禁され、さらに精神病院に入院させられたとして民事訴訟を起こしている。しかし破産申し立てに伴い、この訴訟も停止された。林弁護士は「訴えが認められても賠償の見通しが立たず、訴訟はこのまま終了する可能性が高い」と述べた。

記者会見に出席した原告の男性は「事実関係を明らかにし、謝罪する最後の機会を与えたつもりだった。(破産申し立てには)怒りを禁じえない」と表明。

一方で、提訴によって同センターの実態を世間に伝えられたことについて「施設が存続していたら、今も多くの人が同じ被害に遭っていたはずだ。提訴したことを後悔はしていないし、社会的意義があったのではないかとも感じている」と話した。

また男性は、同センター職員らを暴行罪や逮捕監禁致傷罪などで刑事告訴している。「(同社の)法的な責任が消滅したとは考えていない。警察には厳正な捜査をお願いしたい」と要望した。

弁護団によると、債権者集会で同社の代理人弁護士は、同社の強引な手法を批判する報道や、相次いだ民事提訴などの「ネガティブ・キャンペーン」による減収が、破産の原因と説明。また同社社長は「うつ病で答弁できない」とされ、集会では終始沈黙していたという。

原告の男性は「『ネガティブ・キャンペーン』を言い訳に、根本の原因である自分たちの不法行為に、真摯に向き合わないのは不誠実だ」と語気を強めた。

●親のSOSに応えきれない行政

親が高額な支払いをしてまで民間業者に頼る背景には、彼らの切実なSOSに、行政の支援が応えきれていない実態もある。

前述の母親は「保健所などにも相談したが、どこもあまり熱心には対応してくれず、長男の状況も変わらなかった。センターではなく行政機関が支援してくれたら、どんなにありがたかったか…」との思いも口にした。

行政の相談窓口を訪れた親の中には「あなたの育て方が悪い」などと逆に叱責され、「二度と行きたくない」と話す人もいる。

弁護団は「各都道府県と政令指定都市に設けられた『ひきこもり地域支援センター』が十分に機能していない」と指摘し、支援の充実を訴えた。

また弁護団は、ひきこもりの自立支援をうたう業者は多数存在するが「監督官庁も法的規制も一切なく、無制約に事業を行っている」とも批判する。業者の実態を早急に明らかにした上で、法的な規制を設けるよう求めた。

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