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ひきこもり女性、羽交い締めで「支援団体」に…恐怖の3日間「五感がなくなった」
原告の女性(2019年10月1日、有馬知子撮影、東京都)

ひきこもり女性、羽交い締めで「支援団体」に…恐怖の3日間「五感がなくなった」

ひきこもりの「自立支援」を掲げた団体に無理やり連れ去られ、3日間にわたり施設に監禁されたとして、千葉県内に住む女性(35歳)が、慰謝料など550万円を求める訴訟を起こした。

女性は10月1日、東京地裁で開かれた第1回口頭弁論後に記者会見し、恐怖のあまり食べ物も水も摂れなくなった状態で3日間閉じ込められた後、衰弱して救急搬送されたと説明。「拉致によって心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつ状態を発症した」とも訴えた。(ジャーナリスト・有馬知子)

●羽交い絞めにされ連行、恐怖で頭が真っ白に

被告は、「あけぼのばし自立研修センター」を運営するクリアアンサー社(東京・新宿)。

訴状によると2017年10月3日の朝、女性の部屋に見知らぬ男女4、5人が突然入って来て、施設に入所するよう求めた。女性が拒否し続けると午後5時ごろ、男性3人が女性を羽交い絞めにして車に押し込め、同センターへ連れて行った。女性は部屋着のまま、下着もつけない状態だったという。

施設では、外からカギのかかる部屋に、24時間監視付きで閉じ込められた。女性は、職員の隙をついて窓を開けようとしたが、20センチくらいしか開かないようロックが掛かっていたという。当時について「全身震えが止まらず、怖くて頭が真っ白になった」と語った。

女性は恐怖で水も食事も喉を通らず、3日目に入ると「五感がなくなってきた」。だが職員は、様子を見に訪れた母親(65歳)と「顔色もいいから大丈夫じゃない」などと、笑って話していたという。その後、意識を失って救急搬送され、ICUで治療を受けた。

女性はこの頃、母親から暴言や心理的虐待を受け、ひきこもり状態になっていた。同社と契約し、連れ去りに同意したことで「精神的な苦痛を受けた」として、母親も被告に加えている。

同社は提訴について「裁判にて明らかにしていくべき内容だと考えています」としている。

●「3カ月で自立」うたい、親の苦悩に付け込む

ウェブサイトによると、同センターは、子どものひきこもりや家庭内暴力に悩む親と契約を結び、子どもを入寮させた上で、カウンセリングや就労支援などを実施。個人差はあるとしながらも、3カ月程度で子どもの「完全なる自立」を達成するとしている。

だが、ひきこもり当事者・家族でつくる団体「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」の池上正樹・広報担当理事は記者会見に同席し「ひきこもり支援は本来、当事者と時間をかけて丁寧に信頼関係を結んだ上で、彼らの意思に寄り添うことが必要。にもかかわらず、暴力や心理的な支配、嘘による連れ去りが起きている」と批判した。

原告側代理人を務める望月宣武弁護士も、「暴力的な支援施設は、家族の苦悩につけこみ、数百万円単位の高額の契約を結ばせる。だが連れ去られた本人は、かえって精神状態が悪化することも多い」と述べた。

さらに、池上氏によると川崎殺傷事件、元農林水産事務次官の長男殺害事件と「ひきこもり」が取り沙汰される事件が続いた後、同種の「支援」団体が、ひきこもり当事者を持つ親たちへの勧誘を活発化させているという。こうした団体を「ひきこもりを社会復帰させた」と好意的に取り上げるニュース番組なども現れた。

原告女性は事件後、施設を称賛するかのような報道をたびたび目にして「PTSDやうつ症状がひどくなり、薬の量が増えてしまった」と話した。

●被害はひきこもりに限らない 夫婦、親子関係の悪化で連れ去る団体も

女性は、地元の警察署に被害届を出そうとしたが「家族の問題でしょう」などと言われ、受理されなかった。市役所などの行政機関にも相談したが、民間の支援施設を所管する部署がないため「消費生活センター」に回されてしまった。

女性の父親(66歳)は「人権に関わる問題が、商品・サービスの契約トラブルなどと同列に扱われている。早急にこうした施設へ、法的な規制を設けてほしい」と要望した。

望月弁護士によると、ひきこもり当事者らを本人の意思に反して強引に施設へ連れ去る団体は、全国に複数存在し、脱走を希望する入所者の相談も多数寄せられているという。

また脱走者らの話から、ひきこもりや家庭内暴力がなくとも、親子関係が悪化したり、夫婦のどちらかが別居や離婚を望んだりした場合に、「支援団体」が契約者の話をうのみにし、対象者を連れ去るケースもあることが、明らかになってきた。

2015年、別の団体に連れ去られたとして係争中の女性(当時20代)は、貯金があり海外旅行も楽しむなど、ひきこもりではなかったにもかかわらず、母親のとのいさかいが原因で被害に遭ったという。

この訴訟については9月下旬に証人尋問が行われ、団体に医療・福祉の専門家がいなかったことや、入所者の約半数が脱走していることなどが、被告側の証言によって判明した。女性は「自立支援ではなく、当事者の心を深く傷つける、暴力的行為だ」と厳しい口調で語った。

KHJは今後、当事団体などと協力して支援のガイドラインや、当事者の人権を守るための「権利宣言」を作りたいとしている。またひきこもりに関する相談は、全国にある家族会の支部や、行政の「ひきこもり地域支援センター」に連絡するよう呼び掛けている。

【連絡先】
家族会支部 https://www.khj-h.com/meeting/families-meeting-list/
ひきこもり地域支援センター https://www.khj-h.com/media-administration/administrative-services/

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