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タニタの働き方改革「社員の個人事業主化」を労働弁護士が批判「古典的な脱法手法」
タニタ本社ビル(グーグルストリートビューより)

タニタの働き方改革「社員の個人事業主化」を労働弁護士が批判「古典的な脱法手法」

健康機器メーカーのタニタの社長がとなえる「働き方改革」が注目をあつめている。同社は2017年から、社員が「個人事業主」として独立することを支援する取り組みをはじめた。

日経ビジネス(7月18日)によると、タニタ本体の社員のうち、希望する人は、会社との雇用関係を終了したうえで、タニタと「業務委託」の契約をむすぶ。そして、独立直前まで社員として取り組んでいた仕事を「基本業務」として委託されることになる。

報酬については、社員時代の給与をベースに「基本報酬」が決まり、「基本業務」におさまらない仕事は「追加業務」として受注して、成果に応じて「成果報酬」も受け取ることができる。

また、「基本報酬」には、会社が負担していた社会保険料や通勤交通費、福利厚生も含まれる。就業時間に縛られることがないので、出退勤の時間も自由に決められるといメリットがあるようだ。タニタ以外の仕事を請け負うのも自由で、契約期間は3年というものだ。

タニタの谷田千里社長は「働き方改革=残業削減」という風潮に疑問をいだいて、働きたい人が思う存分働けて、適切な報酬を受け取れる制度をつくりたいと考えて、「社員の個人事業主化」を導入したという。

こうした「改革」をどのように評価するのだろうか。労働問題にくわしい嶋崎量弁護士に聞いた。

●「違法行為となる可能性が濃厚だ」

タニタの取り組みは「違法行為」となる可能性が濃厚です。

労働者が、労働基準法で与えられる保護(会社からみたら規制)は、当事者間で合意しても、適用を免れることはできません。会社と労働者の合意で、解雇規制や残業代、有給、労災、育児介護休業、最低賃金などの規制を免れることはできないのです。

ポイントとなるのは、労働者か個人事業主か否かの見極めです。これは、契約の形式では決まらず、指揮監督下の労働か否か、報酬の労務対償性があるか、事業者性があるかどうか、専属性の程度など、総合的に事情を勘案して個別にその実態で判断されます。

日経ビジネスの記事からは詳細な実態はわかりませんが、「独立直前まで社員として取り組んでいた基本的な仕事を『基本業務』としてタニタが委託」するのであれば、仕事の仕方が労働者であったときと変わらない(指揮監督下の労働で、諾否の自由なし)とみられる可能性があるでしょう。

「社員時代の給与・賞与をベースに『基本報酬』を決める」というのであれば、報酬の労務対償性も認められそうです。

一方で、「就業時間に縛られることはなく、出退勤の時間も自由に決められる」という点は、個人事業主に近い方向で考えられます。

しかし、形式的に出退勤を自由と定めても、実際には出退勤時間を縛られるケースかもしれません(委託された仕事をこなすには、タニタ社員の勤務時間に合わせて仕事をする必要があれば、実質的には出退勤の自由はないことになります)。

少なくとも、この記事にある程度の方法で、安易に「労働者→個人事業主」への切り替えが合法になると誤解すると、労基法違反に手を染めるリスクがあります。これは、多くの経営者や、被害を受けかねない労働者が知っておくべき知識でしょう。

●持ち上げる風潮は「単なる世間知らず」

社員のニーズを『錦の御旗』に、労働法の規制を免れると、そのしわ寄せは同業他社にも及びます。

労働法は、公正な企業間競争を確保するという重要な機能がありますが、労働法を守らず利益を追求されたら、ライバル企業(及びその取引先)は不公正な企業間競争を強いられ、そのしわ寄せは社会全体を蝕むのです。

企業の社会的責任という意味でも、タニタの取り組みは問題です。長時間労働は、単に特定の個人・企業の範疇を超えて、そのしわ寄せが社会全体に悪影響が及ぶ課題です。   労働者を個人事業主へと切り替え、労働法の規制を免れようとする動きは古くからあります。何も今に始まったことではなく、古典的な脱法手法です。使用者からすれば、安直な方法ですから、先進的なビジネスモデルだと持ち上げる風潮は、単なる世間知らずとしか思えません。

プロフィール

嶋崎 量
嶋崎 量(しまさき ちから)弁護士 神奈川総合法律事務所
日本労働弁護団常任幹事、ブラック企業対策プロジェクト事務局長。共著に「裁量労働はなぜ危険かー『働き方改革』の闇」「ブラック企業のない社会へ」(岩波ブックレット)、「ドキュメント ブラック企業」(ちくま文庫)など。

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