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トミー・ジョン手術、高校生以下が4割 学校に「投げすぎ」の法的責任を問える?
写真はイメージ(m.Taira / PIXTA)

トミー・ジョン手術、高校生以下が4割 学校に「投げすぎ」の法的責任を問える?

ひじのけがをした野球選手に行う「トミー・ジョン手術」について、群馬県の整形外科病院の医師が担当患者を分析したところ、手術を受けた4割が高校生以下の子どもであることが、NHKの報道で明らかになった。

トミー・ジョン手術は、ひじの靭帯が断裂してしまった場合に、自身の他の腱を移植して治療する手術で、プロ野球の投手の職業病とされている。最近では、エンゼルスの大谷翔平選手がこの手術を受けて、今期は打者に専念している。

NHKによると、トミー・ジョン手術を行う国内有数の病院である慶友整形外科病院(群馬県館林市)では、プロ野球選手を含めて、1200件の手術をしているが、600件以上を担当した医師が分析したところ、高校生以下の子どもが4割を占め、小学生もいたという。

高校球児の「投げすぎ」問題については最近、大船渡高校の佐々木朗希投手の登板回避問題が話題になり、賛否両論の意見が沸き起こった。

今後も、この問題はクローズアップされることになりそうだが、もし投げすぎで故障して、手術を受けなければならない場合、学校や監督の法的責任を問うことは可能なのか。大久保誠弁護士に聞いた。

●単に球数が多いからといって、法的な責任は生じない

「そもそも、『故障のもとになるのではないかというくらいの球数』というのが、はっきりとした数字として特定できるのか、この点が問題です。

何球以上投げたら故障が間違いなく起こる、という明確な医学的基準が、現在あるとは思えません。『球数』といっても、1試合のみで判断するのか、あるいは連投した場合の球数で判断するのか、それすらも判然としません。

その意味で、単に多くの球数を投げさせたからといって、法的な責任が生じることにはなりません」

●投げすぎで手術を受けざるをえなくなったら?

「投げすぎ」といえるほどの球数を投げさせた結果、将来有望な投手がひじを損傷して、トミー・ジョン手術を受けざるをえなくなった場合、治療費を請求することは可能なのか。

「たとえば、ひじに違和感や軽い痛みがあるということを選手自ら監督に告げていたり、監督が選手の様子からそれを容易に知ることができたにもかかわらず、選手に続投させたために、ひじを壊してトミー・ジョン手術を受けざるをえなくなった場合、監督や学校に治療費を求めることは可能です。

公立高校であれば、監督個人に対しては責任を問えませんが、学校の設置管理者である公共団体に対して、国家賠償法に基づいて損害賠償責任を問うことができます。私立高校であれば、監督及び学校の設置管理者である学校法人に対して、民法に基づいて損害賠償責任を問うことができます。

ただ、最初に説明した通り、何球以上投げたら確実に故障する、という『投げすぎ』の明確な基準があるわけではないので、監督や学校の法的責任を問うことは容易ではないと考えられます」

プロフィール

大久保 誠
大久保 誠(おおくぼ まこと)弁護士 大久保法律事務所
ホームページのトップページに写真を掲載しているように、野球が趣味です。

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