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フィンエアー名古屋拠点廃止、転居困難なCAは成田まで4時間通勤…異動無効訴え裁判に
一方的な配転で長時間通勤を強いられていると訴えるフィンエアーの現役CA(手前)ら

フィンエアー名古屋拠点廃止、転居困難なCAは成田まで4時間通勤…異動無効訴え裁判に

「片道4時間の通勤で往復20時間の国際線フライト。そしてまた4時間かけて自宅に帰る。そのころにはヘトヘトになっている」。

フィンランド航空(フィンエアー)の客室乗務員(CA)5人が、一方的に命じられた配置転換の無効確認を求めて同社を提訴。2月20日に名古屋地裁で第1回口頭弁論が開かれた。

CA側は名古屋ベース(愛知県常滑市の中部国際空港)で最長11年間勤務していたにもかかわらず、一昨年になって突如、会社側から成田ベース(千葉県の成田国際空港)への配転を命じられた。すでに愛知や岐阜、三重など東海各県の自宅で育児や介護をしており、異動は難しいと団体交渉などをしたが会社側が受け入れず、往復8時間かけて成田に通わざるを得なくなっている。

フィンエアーは北欧を本拠に「世界で最も安全な航空会社」をうたうが、CAからは「このままでは空の安全にも支障が出かねない」と悲鳴も。働き方改革や女性活躍の時代にも逆行するような、異常事態に陥ったのはなぜだろうか。(ジャーナリスト・関口威人)

●突然の「名古屋ベース」廃止、団体交渉に発展

訴状によれば、原告のCAのうち2人は中部国際空港(セントレア)開港翌年の2006年、フィンエアーが名古屋ーヘルシンキ路線を初就航するのに合わせ、名古屋ベース1期生として入社。当時の募集要項にはセントレアから公共交通機関で90分以内に居住または居住予定が条件とされていた。

他の3人も2010年から2013年にかけて、同社のCA募集に応募して名古屋ベースに配属。面接時には名古屋周辺に居住していることや、名古屋ベースで長期にわたって勤務できることを担当者から確認されたという。

しかし2017年11月、日本支社の人事担当者らから、当時24人が所属していた名古屋ベースを「半年後に閉鎖」し、それに伴って名古屋の全CAに「成田ベースへ異動する機会を与える」などと突然、伝えられた。

同社が名古屋から撤退するわけではなく、ヘルシンキで新たに日本語スピーカーのCA50人を採用し、ヨーロッパ路線のほか、名古屋便を含む日本路線にもその新人たちを乗務させる方針となったからだという。実際に名古屋ベースは廃止されたが、名古屋ーヘルシンキ線は2018年から冬期の週5便が週6便へと、逆に増便されている。

CAたちは団体交渉で名古屋にとどまることを求めたものの、会社側は「決定事項だ」と取り合わない。そして名古屋から成田へ通う場合は交通費を1年目に100%、2年目に75%、3年目に50%補助する条件を提示したが、4年目以降は補助を出さず、実質3年以内で「身の振り方」を決めるよう判断を迫った。

育児や介護を抱えてどうしても引っ越しのできない5人が、配転無効を訴える仮処分を昨年5月に名古屋地裁に申請。その中で会社側が3年間は100%の交通費とフライト前泊のホテル代の補助を認めることになった。しかし根本的な解決には至らず、本訴に移った。

●「安全運航を担う私たちがこんなに疲れ果てていていいのか」

この間もCAは勤務のたびにスーツケースを引き、自宅から最寄りの駅までタクシーで向かい、在来線の始発に乗り、通勤ラッシュの名古屋駅で新幹線に乗り換え、品川駅で特急に駆け込んで成田に向かう。

片道の移動時間は5人平均で約4時間、長い場合は4時間半以上。1本でも電車が遅れれば搭乗に間に合わない。それから1時間ほどの準備をして、10時間のフライト(そのうち機内での休憩2時間)でヘルシンキに飛び、現地に1日滞在、そしてまた10時間のフライトで帰国する。

CAの1人は取材に「きらびやかなイメージをもたれますが、実際は過酷な労働。また、飛行中も窓から機長が見ることのできない空の様子をチェックするなど、安全運航の役割を担っています。その私たちがこんなに疲れ果てていていいのでしょうか。家族にも家事や育児の負担をかけてしまって、申し訳ない」と吐露した。

●会社側「わがままな労働者を許しては、日本の労働者の質が低下する」

法廷では原告の1人が「往復8時間の移動も会社は勤務とみなさず、手当も出ない。成田ベースでなければ辞めさせるという、肩たたき以外の何ものでもない。名古屋で待っている今までのお客さんもいるのに、これほどの精神的、肉体的不利益を私たちが被らなくてはらない理由がどこにあるのか」と意見陳述。閉廷後の会見でも「会社は私たち日本人乗務員に関心がなく、歯車や将棋の駒の一つのようにしか見ていない」と唇をかんだ。

一方の会社側は法廷に弁護団も送り込まず、裁判所に提出した答弁書で「『ベース』とは単なるシフト編成上の単位。…地域を限定して採用された事実はない」「配転命令ではなく業務命令。…このような我侭(わがまま)な労働者を許しては、日本の労働者の質が低下する」などと主張し、全面的に争う姿勢を示した。日本支社は取材に対して「裁判で係争中ですのでお答えいたしかねます」とコメントした。

原告側弁護団の城塚健之弁護士は「配転無効訴訟は、よほどのことがない限り会社の決定に従わなければならないという悪しき判例(東亜ペイント事件最高裁判決)があるが、女性が家庭と仕事を両立すべき今の時代には合わない。今回のCAは非常に過酷な負担を強いられており、社会全体がおかしいと声を上げてほしい」と呼び掛けた。

傍聴には50人ほどの支援者が駆け付け、訴訟を「支援する会」も結成された。航空労組連絡会(航空連)の竹島昌弘事務局次長によると、就航中の路線で国内のベースが閉鎖され、CAが強制的に異動させられる例は、過去に聞いたことがないという。

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