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セブンオーナー「過労死寸前」で時短営業…「契約解除」「1700万支払い」迫られる
店の前の張り紙

セブンオーナー「過労死寸前」で時短営業…「契約解除」「1700万支払い」迫られる

大阪府にあるセブンイレブンのフランチャイズ(FC)加盟店が「24時間はもう限界」として、営業時間を短縮したことで、本部と対立していることがわかった。

この店舗は人手不足などを理由に、2月1日から午前1〜6時の営業をやめ「19時間営業」を開始。本部から「24時間に戻さないと契約を解除する」と通告されている。応じない場合、違約金約1700万円を請求された上、強制解約されてしまうという。

時短営業を求めているのは、セブンイレブン南上小阪店(東大阪市)のオーナー松本実敏さん(57)。店の売上は平均レベルで順調だが、人手不足から運営が困難になっている。

セブンでも、ビルなどの施設内にあるサテライト店のほか、少数だが加盟店でも24時間営業ではないところがある。「特別な合意」があれば、24時間ではない営業も可能であり、時短営業の許可を求めている。(編集部・園田昌也)

●妻を亡くし、人手不足が顕著に

松本実敏さん

松本さんは2018年5月にがんで妻を亡くした。妻は毎日店舗で働いていて、亡くなる1カ月半前でも、4時間ほど勤務していたという。それほど店は忙しかった。

松本さんは、喪失感を抱えたまま、2人分働いていたがついに限界を感じるようになった。

時短となった今も朝5時〜夕方6時まで13時間ほど働く。24時間営業なら16時間は働かないと店が回らないという。妻の死後8カ月ほどで完全に休んだ日は片手で足りる。

コンビニではスタッフを確保しづらい状況が続く。最低賃金は年々上昇しており、この傾向は今後ますます強くなると予想されている。加盟店の多くは家族経営だけに、松本さんのような事例は、ほかでも起こりうる問題だ。

「独立した事業者」ではあるが、コンビニオーナーには営業時間を決める自由がない。解約金や違約金が発生しうるためギリギリまで働き、「24時間年中無休」を支えなくてはならない。そんな業界の当たり前に一石が投じられている。

●24時間が契約なら、本部のサポートも契約?

松本さんがセブンと交わした契約では、24時間営業することになっている。その点で、時短営業は確かに契約違反と言える。

だからこそ、松本さんは妻が亡くなる前後から、本部に対して人手不足について救済を求めてきたし、時短営業について交渉してきた。

セブンのFC契約は15年更新。松本さん自身は2012年からだが、この間だけでもコンビニは8000店ほど増えており、大阪府の最賃も100円以上あがった。コンビニの密度があがれば、人を集めるのも困難になる。環境は変わっている。

コンビニ店舗数の推移

大阪府の最低賃金の推移

また、契約上は本部にも「経営上生じた諸問題の解決に協力」する義務がある。FC制度は、加盟店が看板やシステム、サポートを受ける代わりに、本部にチャージ(上納金)を払う仕組みだ。

たとえば、セブンHPには「加盟店への支援制度」として、「予期せぬ事態」が起きたとき、本部スタッフが応援に入る仕組みがあると書かれている。

契約に際し、オーナーたちは少なからず不安を抱えているが、こうした制度があることを知り、安心する。

オーナー代行制度

しかし、このサポート制度は常に使えるわけではない。

「妻が亡くなる1カ月ほど前に、本部の人が1週間ほどシフトに入ってくれました。本当にありがたかったです。おかげで、東京の大学に通う息子に会いに行けました。妻はずっと、息子がどんな風に一人暮らしをしているか見たがっていたんです」

ただ、葬儀のときを除き、これ以上のサポートは受けられなかった。最後の数週間は、一時的に帰省した息子にも手伝ってもらい、店と病室を往復する生活を続けた。

オーナーの中には何度も断られ、親の通夜を途中で抜け出し、泣きながら勤務したという人もいる。

セブンHPによると、国内の店舗数は過去5年で5000店ほど増えている。人手不足に限らず、本部側がサポート環境を整えるのも大変だろう。

セブン店舗数の推移

●悲鳴をあげる「社会インフラ」

松本さんは2〜3年前、業者に8万円ほど払って、パート募集の広告を数週間出したことがある。しかし、面接に来たのは高齢者の女性1人だけで「大変そう」と辞退された。それほどスタッフを集めるのは難しくなっているという。

時給を上げて、セブンの専用サイトでアルバイトを募集したが、それでも採用できたのは1人だけだという。

「相談しても、『スタッフの確保はオーナーの責任』『ほかにも人手不足の店はたくさんある』と取り合ってくれませんでした。お金は払うから、人を派遣する仕組みはないのかと聞いても、答えは『ない』です」

しかし、1月下旬に「2月1日から本当に24時間やめます」と伝えたところ、すぐに本部の反応があったという。

セブン福井豪雪

セブンは2018年2月の福井豪雪で、安全性を確保できないとして、24時間営業の停止を何度も訴えたオーナーの求めを退けている。このオーナーの妻は雪かきなどの疲労から緊急搬送され、オーナー自身も約50時間不眠で働くことになった。

なぜ24時間営業にこだわるのか。セブンは松本さんのように営業時間の見直しを求める店舗に対し、「社会的インフラだから」という旨の回答をしている。

今、そのインフラを支えるオーナーが悲鳴を上げている。コンビニ業界の苦境は知られたところで、時短営業を告知した松本さんに対し、顔見知りの客は「大変やろ」「応援するから店自体はやめないで」などと理解を示してくれたそうだ。

●「深夜分のチャージを返還しても良い」

そもそも24時間をやめられない理由の多くは、本部に入ってくるお金の問題だ。セブンに限らず、コンビニでは売上から仕入れ代を引いた「粗利」を本部と加盟店で分配している。

「本部は100円でも売上が多い方が儲かるんです。でも、加盟店は経費も考えないといけない。コンビニは24時間ですから、人件費は大きいですよ。時給を少しあげるだけでも影響があります。でも、本部は人件費のことは考えない」

チャージ分配の仕組み

これまで松本さんの店では、午前1時~6時の客は20~30人ほど。店は赤字だが、本部には1日4000~5000円ほどのチャージが入っていたという。全国2万店で単純計算すれば、毎日1億円だ。

セブンのFC契約では、これまで基本契約書と付属契約書の2つが交わされていた。「基本」では、営業時間は午前7時~午後11時(セブン-イレブン)だが、「今日の実情に合わせ」て登場した「付属」で24時間営業が規定されている。

24時間になることで、チャージ率は2%減額される。店の売上にもよるが、1%は約6万円に相当する。

「時短したので、チャージ率は2%上げてもらっていい。なんなら3%でも良い。人が増えたら、営業時間を元に戻すとも伝えています」

大手3社では、ファミリーマートが2017年から、月10万円の補助金がなくなる代わりに時短営業できる「実験店」を導入している。

本部に入るお金が減るのなら、配分を改めるという考えもありえる。しかし、セブンに24時間営業を見直す気配はないようだ。

●急に持ち出された「過去のクレーム」

時短営業をめぐるセブンとのやり取りの中で、松本さんが憤る部分がある。契約解除となる理由として、これまで問題になっていなかった「客からのクレーム」を槍玉にあげられたことだ。

「24時間をやめたことで色々言われるのなら分かりますが、今まで問題にしていなかった接客態度を言ってきた。こういうときに持ち出してくるのなら、加盟店は客や本部に対して何も言えなくなってしまいます」

松本さんが時短営業をしていることは、徐々にオーナーの間で知られ始めている。ここで自分が折れたら、ほかの加盟店にも影響するから引けないと、松本さんは語る。

店の外観

今回、本部と対立しているように、松本さんは物を言うタイプのオーナーだ。客に強く注意し、本部にクレームがいくことも多かった。

もちろん、客だけが悪いわけではないケースがあったかもしれないが、松本さんはクレームの都度、店舗担当の本部社員(OFC)に事情を説明し、理解してもらっていたという。少なくとも明示的に警告されたことはない。

そもそもなぜ、そんなに客を注意しなくてはならなかったのか。

松本さんの店は最寄駅から歩いて20~30分のところにある。車での利用が多いが、近隣には大学や高校などがあり、送迎などで駐車場を使われていたという。店の前にたむろする若い客なども多く、トイレを汚されるなどの被害もあった。

「学校行事などのときは、駐車場が満杯なのに客はゼロみたいなこともあった。だから、客とはよく戦いました。妻も『クソババア』なんて罵声を浴びせられながら、毅然と対応してくれました。『よく言ってくれた』と支持してくれるお客さんもいます」

松本さんの店の周辺地図

●「妻や息子のためにも後に引けない」

松本さんの店の売上は平均的な部類だ。だからこそ、店を続けたいと思っている。

接客に著しく問題があるのならこの数字は維持できないだろう。でなければ、店の接客が悪くても利益は出るということだ。

「妻と店をつくりあげてきたという自負はあります」と松本さん。それだけに妻の死はショックだった。店員との「緩衝材」の役割も果たしていたのでスタッフも減った。

2018年11月から、上京していた大学4年生の息子が店長として、ほぼ毎日シフトに入っている。妻が亡くなったとき、店を閉めるか迷っている松本さんに店を手伝うと言ってくれたのだ。

現在、息子や社員、バイトとともに店を回すが、社員には週1日の休みも与えないといけない。誰かがインフルエンザにでもかかったら、いよいよ店が回らなくなる。

「理解のある教授が、集中的にゼミをやってくれたので、卒業単位は全部とれています。息子は就職活動をせず、店に入ってくれた。なおさらここで店をやめるわけにはいかない」

「妻が亡くなったとき、ここまで店が厳しくなるとは思わなかった。どうせ解約になるなら、店なんてどうなっても良かったから一緒にいればよかった。弱音を吐かない人で、最後まで使ってしまった。一番の後悔ですよ」

店外観

●24時間は「安全安心・利便性の提供」とセブン

松本さんの件について、セブン側は「(時短営業の)是正とともに、クレームが多いため接客についての改善も申し入れている。一面として、クレームと人手不足がつながっている部分もあるのではないか」と回答した。

人手不足対策は、基本的にオーナーの努力としつつ、本部もサポートしているとして、採用専用のコールセンターや無料の求人サイトを設置したり、仕事の説明会を開いたりしていると説明した。研修などにより定着も図っているという。

24時間営業については、「セーフティーステーションとして街の安心安全や、いつでも開いているという利便性を提供できている」と述べ、松本さんのほかに無許可で時短営業している店舗はないとコメントした。

●24時間の店舗、そんなに必要?

最低賃金の上昇に加え、有給休暇の取得義務化、コンビニではあまり守られていないとされるスタッフの社会保険未加入の是正など、店舗の抱える人件費負担は今後ますます増える。

労働者にとって働きやすくなることは望ましいが、低賃金の労働者に多くのサービスを期待してきたコンビニ業界にとって、人を集めるのはより困難になることが予想される。

多くのオーナーを縛るセブンの付属契約書では、24時間営業を「今日の実情に合わせ」たものだと規定している。24時間営業そのものが悪いわけではないが、ほぼ全店がいつも開いているという状態の持続可能性が問われ始めている。

●情報募集

弁護士ドットコムニュースでは、コンビニやファミレスなど「24時間365日営業問題」について「LINE@」で情報募集しています。 こうしたお店で働いた経験などありましたら、以下からLINE友だち登録をして、ぜひご連絡ください。 https://line.me/R/ti/p/%40htt0723w

(弁護士ドットコムニュース)

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