同僚にミスを指摘され退職するよう要求されて、その場しのぎで「辞める」と伝えてしまった。でも本当は辞めたくないーー。弁護士ドットコムにこうした相談が寄せられました。
相談者によると、同僚は相談者がこれまでにしたミスを指摘して「世間にばらされたくなければ退職した方がいいんじゃない?」などと言われました。相談者としてもその指摘をはっきりと否定することはできず、その場しのぎで、辞める旨を返答したそうです。
ただ、その後、相談者は会社側から「辞める必要はない」「そんなこと気にせず頑張れ」と言われたといいます。退職を迫ってきた同僚に対しては、改めて辞めるつもりはないと伝えました。ところが、「とっとと辞めてけじめをつけろ」とさらに言われて困っている様子。
相談者は会社との間に雇用関係を結んでおり、同僚が何と言おうと、退職をしなければいけないということはなさそうですが、法的にはどのように考えればいいでしょうか。労働問題に詳しい本間久雄弁護士に聞きました。
●職場いじめの違法性、ケースバイケース
ーー同僚に「辞める」と言ったことは法的に意味をもつでしょうか
「従業員が雇用契約を結んでいる相手方は、会社であるため、雇用契約解約の意思表示である退職の意思表示は、会社に対して行う必要があり、それ以外の者に対する意思表示は無効となります。
同僚は、会社の代表取締役や人事部長・人事課長等の退職の意思表示を受ける権限のある立場にはありませんので、同僚に会社を辞めるといってもそれは、法的には何の意味もない意思表示と言えるでしょう」
ーー同僚の行為の違法性についてはどう考えられますか
「職場のいじめに違法性があるかどうかについて、裁判例では具体的事案に即して、ケースバイケースで判断しており、本件が訴訟となったとき、相談者の方の慰謝料請求が認められるかについては現段階では確かなことは言えません。
ただ、同僚の行為の違法性を判断するにあたっては、厚生労働省が設置した『職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議』が2012年3月に発表したパワーハラスメントの定義が参考になるでしょう」
●パワハラ訴訟「言った言わない』が問題に
ーーどういうことでしょうか
「この会議では、パワハラについて『同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為』と定義付けました。
そしてパワーハラスメントを6類型(身体的な攻撃・精神的な攻撃・人間関係からの切り離し・過大な要求・過小な要求・個の侵害)に分類しましたが、同僚の行為は、そのうちの精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言等)に該当するものと思われます。
なお、いじめ・パワーハラスメントが問題となる訴訟は、『言った言わない』が問題となりますので、同僚とのやり取りを録音する、経過を日記形式で詳細なメモにしておくなどの証拠化をしておくべきです」
ーー会社が同僚に注意をするなどして事態を改善すべきでしょうか
「はい。労働契約法5条は、『使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする』と規定しています。職場いじめは、労働者の生命、身体等の安全を脅かすものですから、使用者は、職場いじめをやめさせる義務があります。
労働者からいじめの申告を受けた使用者としては、相手方から聞き取りをしたうえで、いじめをやめるよう指導したり、配置転換を行うなどする必要があります。場合によっては懲戒処分も検討する必要があります」