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天然部長「みんな忙しいから歓迎会は日曜日ね」→法的に残業代、手当はつかない
画像はイメージです(xiangtao/PIXTA)

天然部長「みんな忙しいから歓迎会は日曜日ね」→法的に残業代、手当はつかない

「みんなが来られるように、歓迎会は日曜日に開催します」。職場の女性だけが入るメーリングリストに届いた、Y代部長の投稿を読み、A美さんは動揺を隠しきれなかった。

「最近、夜の飲み会は疲れやすいので、仕事を口実に歓迎会を欠席しようとしたら、同じように欠席希望が相次いだようです。Y代さんが、それならと休日開催を提案してくれたのですが、これでは断ることができません」とA美さんは話す。

東京都内のメディア関連企業に勤務するA美さんが新卒で入った時、すでに女性社員限定の歓迎会や忘年会などの社内行事があった。「昔は女性社員も少なくて、結束する必要があったのだと思います。その時の名残ですが、今は女性社員も増え、女性限定の集まりを開催する必要はないと思うのですが」。

問題は「実質、強制であることです」とA美さんは話す。

「全員が出席できるように幹事は予定を調整します。女性限定の催しがあると知ると、男性上司たちは時間通りに職場を出るように配慮してくれるほどです。

女性限定だからではなく、私はあらゆる飲み会が苦手で、遠慮したいんですよね。でも断れば、男性社員から『あいつは女性に冷たい』と噂されますし、今回のように休日に開催されるなら、しっかり業務として認め、その分も休日出勤手当を請求したいです」

休日に開催される女性社員限定の集まり。これは業務として認められるのだろうか。また、業務として認められるのであれば、どのような条件が必要か。椎木仁美弁護士に聞いた。

●「業務と認められない場合が多いと考えられる」

「 会社の歓迎会などの社内行事については、残念ながら業務と認められない場合が多いと考えられます。

業務かどうかについては、(1)事業主からの参加の強制があったかどうか、(2)強制の程度、(3)参加しない場合の不利益処分などがあるか、(4)事業主からの場所・時間・運営・準備などに関する指示があるか、(5)事業主と社員のどちらの費用負担か、などから判断されることになります」

●今回のケースは「業務として認めてもらうのは難しい」

今回のケースでも、業務と認められないのだろうか。全員が来られるように休日に設定されたことから「実質強制」と言っても良さそうだが。

「今回のケースは、残念ながら業務として認めてもらうことは難しそうですね。

事業主が主催するものではなく、女性社員有志が主催しています。また事実上断りにくい社内の雰囲気ではあっても、事業主から参加を求めるはっきりとした指示はなかったようです。

さらに、参加しないことによって業務上での明確な不利益(例えば、人事評価においてマイナスの査定とされうるなど)はないと思われます。歓迎会の開催にあたって、事業主から場所・時間・運営・準備に関する指示もないことからも、業務と認めてもらうことは難しいものと考えられます」

逆に、どのような状況であれば、業務として認められたのだろうか。

「事業主から参加を明示的に義務付けられていたり、参加しないことのペナルティが課されていたり、A美さん自身が事業主から行事の運営や準備を指示されていたりする場合には、業務にあたる可能性があると考えられます」

●「できるだけ強制的な雰囲気を作らない」

続けて、椎木弁護士は「業務かどうかに関しては、残業代・休日手当などの請求が可能かという問題以外にもある」と指摘する。

「行事中や行き帰りの事故などが労災補償の対象となるかという問題にもなります。こちらについては、事業主の明示的な義務付け・指示等まではないケースでも業務と認められた事例が一部にはあるようです。

いずれにしても、基本的には社員有志による社内行事については業務と認められないケースがほとんど考えられますので、できるだけ強制的な雰囲気を作らず、一人一人の考えや価値観を尊重にする社内の雰囲気作りをすることが重要ではないかと考えます。

子育て世代を含めて女性の社会参加が進み、ワークライフバランスが推進されている現代においては、女性社員の中でも休日や終業時間後の過ごし方については多様な価値観があるものと思います」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

椎木 仁美
椎木 仁美(しいき ひとみ)弁護士 桶谷法律事務所
桶谷法律事務所パートナー弁護士。平成23年弁護士登録。 企業法務を積極的に取り扱う事務所に所属し、経営判断、株主総会、M&Aなどの企業法務に携わる一方、個人的には、家庭内紛争(離婚、相続など)、労働問題、障害者問題、犯罪被害者問題、集団訴訟などにも積極的に取り組んでいる。最近では、周辺領域としてカウンセリングその他心理学について専門性を深めるべく研究をしている。家庭では2児の母。

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