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「原則は1日8時間労働、ブラック企業には記録で対抗しよう」日本労働弁護団事務局長の岡田弁護士に聞く 
日本労働弁護団事務局長の岡田俊宏弁護士

「原則は1日8時間労働、ブラック企業には記録で対抗しよう」日本労働弁護団事務局長の岡田弁護士に聞く 

ブラック企業や各種ハラスメントが社会問題として認識されつつある一方、被害を根絶する道のりは険しいのが実態。最近の労働問題についてどのように考えればいいか。労働者が備えられることは何かあるのか。弁護士ドットコムニュースは1月17日、日本労働弁護団で事務局長を務める岡田俊宏弁護士にインタビューをした。主なやりとりは以下のとおり。

●ハラスメント相談は多い

ーー最近の労働問題をどう見ているか

日本労働弁護団として無料相談も受けているが、職場のハラスメントへの相談は多いです。長時間労働もあって精神疾患となる労働者の方も多い状況。こうした被害が職場から一人でも出ないような社会を目指していくために取り組んでいます。

マタハラ(妊娠や出産を理由とした職場での嫌がらせ)、パタハラ(男性の育児参加に対する職場での嫌がらせ)という言葉もできて、そういった相談も増えています。ハラスメント自体が増えているのか、昔からあったものがハラスメントだとわかって訴えるようになったのか、どちらもあるんだろうと思います。

ーー依然として非正規は「雇用の調整弁」として使われてしまっている

まだ大量に採用して大量に辞めさせるといった企業があります。正社員として雇うハードルは依然として高いです。企業は何かあった時に非正規の方が首を切りやすいということはあるんだと思います。

●非正規も労働組合に入り、労働者は団結を

ーー4月から始まる「無期転換」の前に雇い止めをされる場合もあるが、労働者側はどう対応したらいいのか

労使交渉の結果、既に無期転換に移行した企業もあります。ただ無期転換の発生を阻止するために雇い止めをするという例は出ていて、この4月を前に相談も増えていると思います。

労働者の側で事前に何ができるかというのは難しいところですが、東大に(有期契約の教職員の雇用を上限5年とする制度を)撤回させたという例があります。また、例えば理化学研究所で(有期)研究員の就業期間の上限を5年とするルールを就業規則に入れていたということで、不誠実交渉として労働委員会で争っています。

労働者がきちっと団結するというのが一番いいと思います。労働者が何人もいれば組合を作るとか、既存の組合に入るとかした方がいいでしょう。さらに、我々に相談してもらいたいです。雇い止めをされてから違法性を争うということもできますが、雇い止めをそもそも撤回させるというのが望ましいと思っています。

ーー雇用主はそもそも立場が強く、対抗するのは現実問題として難しいのではないか

いろいろな方法で脱法的な措置が取られようとしていることには対抗したいと思っています。個別の雇用契約書でも、途中で上限何年などと入れさせられるケースがあります。そこでサインしないと、その時点で契約が続かないこともありますが、団結したり弁護士や労働組合が入って交渉すればうまくいく場合もあるのです。

ところが、契約締結当初から上限何年などと入ってしまっていたら、「最初からわかっていたでしょ」となって対策は難しい。労働組合としてきちっとチェックする必要があります。そのためにも非正規の方を労働組合に入れないといけません。(正規職員の組合員たちが)自分たちの問題として捉えきれていないところもあります。我々もそこは頑張ってやっていかないといけないし、労働組合にも頑張ってほしいと思っています。

●ブラック企業に対しては証拠があると戦いやすい

ーーブラック企業対策として労働者側ができることは

一般的な長時間労働であれば、記録をきっちり残しておくということです。ハラスメントに関しても(音声などの)記録があった方がいい。それが難しい場合は、何月何日にどこでどんなことをされたかを細かくメモに残しておきましょう。一般的には証拠があると戦いやすいです。

ただ、本当に悪質なブラック企業なら辞めた方がいいこともあります。ブラック企業は戦略的にいろいろなことをやってきます。大量に採用して、馴染めるかどうか選抜をかける、過酷な研修をして、その中でパワハラが行われるのです。「これが当たり前だ」と洗脳されてしまいます。

ダメだなという人には辞めてもらい、逆に選抜された人にはその後も長時間労働が待っています。その中でまたパワハラが行われていきます。会社に従属させる奴隷化ということで、結果的に、精神疾患になって自殺するケースもあります。

就職が厳しい時代を経験した人は、正社員として採用されるのが難しいなか、「やっと正社員になった」ということで無理をしてしまうことがあります。ただ向こう(ブラック企業)は本当に巧妙です。無理をしてついていってしまうと、大変なことになると思います。

●解雇の金銭解決は「蟻の一穴」になるおそれ

ーー政府で検討される「解雇の金銭解決」についてはどう捉えているか

政府の報告書としては今後、労政審を開いて検討するという内容でした。我々としては全く必要のない制度ですし、入れれば解雇無効時の職場復帰の道が後退するんじゃないかということで反対しています。

争うなかで金銭で解決したい場合は、労働審判で解決が迅速に図られていると思っていて、新たな制度を導入する必要はありません。確かに弁護士費用の点で労働審判を起こすことを諦めている方もいるのかもしれませんが、そういう方に対しては公的支援を充実させるとか労働審判を使いやすくするということで対応できます。

こういった制度が導入されて、基準が設けられてしまうと使用者としてはその金額を使ってリストラができるようになってしまいます。(現在の議論では解雇の金銭解決の申し立てができるのは労働者側に限定されていますが)、一度入れれば、使用者からの申し立てというのもいずれ議論になる懸念があります。

ーー政府が掲げる「働き方改革」についてどう考えているか

賛否両論があるところです。同一労働同一賃金については、手当の部分でかなり前進するため格差是正につながる面があります。労働時間の規制についても賛成しています。一方で、労働時間の規制緩和につながるような高度プロフェッショナル制度や裁量労働制の拡大などについては、規制を緩和する方向なので、こうしたものが含まれる限り、改正法案には賛成できないと考えています。

裁量労働制の拡大については、とにかく誰が対象になるのか不明確で、誰でも入り得るのが問題です。また、「みなし時間」より実際の労働時間が短いというのは実際ほとんどないでしょう。裁量労働だということできちっと時間管理されていないことも多く、そうしたなかで拡大するのは、過労死の拡大につながるとみており反対です。

●ワークルールを教え、若い世代のメンタリティーを育む

ーー労働弁護団として特に注力していく分野は

労働弁護団では、きちっとインターバル規制を入れるとか、全ての労働者に対する時間管理を使用者に義務づけるということ。1日8時間労働が原則だというのを改めて確認する必要があると考えています。

私も子育てをしていますが、週末にまとめて子育てとかまとめて寝るというわけにはいきませんよね。まずは自分の命を守るため、体を休めるために休み時間を取る、その上で家族の時間や地域活動の時間といった時間を確保するという観点です。逆行する流れには賛成しかねます。

労働弁護団としては、ワークルール教育の実践ということで高校生とか大学生に教えに行っています。公民の時間で「労働三権」にちょっと触れるだけでは、働いていく上で何かおかしいと感じた時にどうしたらいいかわかりません。若いうちから、メンタリティーの部分を育んでほしい。おかしいと思ったときに弁護士に相談したり、団結したりといった動きが重要です。なかには将来的に経営者になる人もいるわけですから。労働弁護団としても教育をしていきたいと考えています。

ーーメッセージの発信については

政府の働き方改革に対する考え方とか、我々が何を目指しているかが必ずしも世の中に伝わっていないのではないかという認識を持っています。なかなか文書で意見書を出しても若い人に伝わらないのかなというところがあります。積極的にSNSで発信できればと思っています。

ーーこのほか注目していることは

「雇用によらない働き方」について、労働契約ではないので労働規制が及ばない可能性があるということで危惧しています。「Uber EATS」とか、今やってますよね。ああいった方々はそれぞれ会社に行って顔を合わせるわけでもないので、組織化も難しい。この問題は一気にやってくるのではないかと思っています。

【プロフィール】

岡田俊宏 (おかだ・としひろ)弁護士

1980年生まれ、栃木県出身。早稲田大法学部卒。2009年弁護士登録(東京弁護士会)。日本労働弁護団事務局長、東京弁護士会労働法制特別委員会委員(公務員労働法制研究部会部会長)。労働事件(民間・公務問わず)に注力。

日本労働弁護団URL:http://roudou-bengodan.org/

(取材:弁護士ドットコムニュース記者 下山祐治)早稲田大卒。国家公務員1種試験合格(法律職)。2007年、農林水産省入省。2010年に朝日新聞社に移り、記者として経済部や富山総局、高松総局で勤務。2017年12月、弁護士ドットコム株式会社に入社。twitter : @Yuji_Shimoyama

(弁護士ドットコムニュース)

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