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元上司が復讐で人事評価を下げた? 退職男性の賞与一時ゼロに…法的に許される?
写真はイメージです(tkc-taka / PIXTA)

元上司が復讐で人事評価を下げた? 退職男性の賞与一時ゼロに…法的に許される?

ある上場企業を退職した男性が、振り込まれるはずの冬のボーナスが振り込まれておらず、同社に問い合わせたところ「評価E」の最低評価であるため賞与なしとなっていたーー。こうした情報が弁護士ドットコムニュースに寄せられた。

情報提供者によると、男性は賞与の付与率を評価する期間中は在籍。さらに、その間に仕事ぶりが評価され社内表彰もされており、「評価E」になることは考えられないという。ボーナスゼロだったことは、退職したことを「裏切り」と捉えた元上司の意図的な復讐ではないか、と主張して人事担当部署に調査を依頼したという。

調査により、退職するまでは「評価SS」(高評価)だったが、元上司によって「評価E」に書き換えられた、ということが社内資料の変更ログから判明。また上半期を評価する会議で、この男性は「評価SS」で提案・承認されており、「評価E」という数値になった事実はないことも確認された。会社側は対応の誤りを認め、結果的に、本来の支給日から10日ほど遅れて支払われたという。

情報が真実とすれば、結局は賞与が支給されたとはいえ、評価が不当に低くされ、かつ評価のもととなる数字が意図的に書き換えられていたことになる。その問題点について、竹花元弁護士に解説してもらった。

●元上司がした行為は懲戒処分の対象となる

今回の元上司の対応は法的にどう問題があるのか。

「まず、賞与請求権については、一般には、使用者の決定(人事考課)や労使間の合意がなければ労働者に具体的請求権は発生しないと解されています。そして、人事考課・評価については、査定権者・査定項目の決定、査定の幅・基準とその運用等において企業に広い裁量が認められています。

しかし、この裁量も無制限なものではなく、企業の公正評価義務などとの関係で権利の濫用(労働契約法3条5項)とされる場合があります。

元上司が権限外の行為として人事評価をEに変更したのであれば、情報提供者と会社との間の労働契約にかかる権利の濫用を持ち出すまでもなく、会社は社内で決定した「人事評価SS」を前提とする賞与を支払う義務があります。

この場合、元上司が行ったことは、会社と元上司の間の労働契約に違反するものとして、社内処分(懲戒処分)の対象になるでしょう。仮に、元上司が最終的な人事評価を決定できる立場にあったとしたら、人事評価をEにしたことは、権利の濫用と評価できると思われます」

●元勤務先への損害賠償請求が認められる可能性は高い

今回は会社側が非を認め、賞与を支払ったが、もし認めずに支払われなかった場合はどうすればいいのか。

「人事考課において権利の濫用が認められる場合、会社に対する不法行為に基づく損害賠償が認められることがあります。裁判例でも、人事考課が不当であったとして、同等の作業に従事する他の従業員と同等の賞与の支払いが命じられた事例や、勤務実態からすると賞与総額における平均額程度の賞与を支給されてしかるべきであったとして平均額と支給額との差額の支払いが認められた事例などがあります。

本件でも、損害賠償請求が認められる可能性が高いと考えられます。ただし、実際の訴訟においては、人事考課が不当であったことを立証する必要があります。

本件では、会社の調査により、『退職するまでは人事評価SSだったが、元上司によって人事評価Eに書き換えられた』ことを示す社内資料が発見され、書き換えの事実が判明しました。会社がこのような自主的な調査を行ってくれない場合には、社内資料を獲得できるかどうかが決め手になる可能性があります」

● 賞与の支給日要件は就業規則で事前にチェックを

では、退職者の評価を、元上司が限りなく低くすることは許されるのか。

「退職者の評価であっても人事考課には均等待遇や公正評価義務を背景とする権利濫用の問題が生じます。

なお、賞与については支給日在籍要件(賞与の査定対象期間の全部または一部に勤務していても賞与の支給日に在籍していない者には賞与を支給しないという扱い)が就業規則で定められている会社が多く、同規定は一般的に有効であると考えられています。

本件では支給日在籍要件が規定されていない会社であったようですが、自分の会社の就業規則がどのようになっているか事前に確認するとよいでしょう」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

竹花 元
竹花 元(たけはな はじめ)弁護士 法律事務所アルシエン
法律事務所アルシエンのパートナー。労働法関連の事案を企業側・個人側を問わず扱い、交渉・訴訟・労働審判・団体交渉の経験多数。人事労務や会社法務の経験を生かして、企業向けハラスメント防止セミナーやM&Aの法務デューデリジェンスも行う。東証プライム上場企業・非上場大手企業・医療法人・ベンチャー企業など、多くの業種・規模の企業で法律顧問を務める。労働法に関する書籍を23冊執筆。

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