「今朝10時に無事納品できました!」。東京都内のIT企業課長のKさんは、部下から誇らしげにそう報告をされ、嫌な予感がした。納品したものは、あるクライアントが3日前に「急ぎでやってくれ」と、依頼された調査資料だった。
人手も足りておらず、本当は断ってもよかったのだが、部下の「大丈夫です。何とかします」という言葉に、「どうせ間に合わないはずだが、1日遅れくらいなら大丈夫なはず」という算段もあって、クライアントの要望を受け入れてしまったのだった。
しかし、どう考えても、納期には間に合わないはずだ。Kさんは部下に「どうやって間に合わせたのか」と聞くと、「3日、会社に泊まりこんでやりました!」と言ったのだ。Kさんは外出が多く、部下がそんな働き方をしていることは知らなかった。慌てて帰宅して睡眠をとるように指示をしたが、Kさんは頭を抱えた。
この3徹はすべて残業時間とするべきか。的場理依弁護士に聞いた。
●仮眠時間も労働時間になる?
「社員が業務のために会社に泊まり込んで勤務した時間は労働時間に該当し、その労働時間に対する時間外割増手当や深夜割増手当の支払義務が発生します。一方で、実作業から解放されて仮眠をとっている場合には、仮眠中の時間は休憩時間に該当するとして、時間外割増手当の計算の基準となる労働時間から控除できる可能性があります。
ただし仮眠中も、上司や顧客からの指示ですぐに業務対応しなければならない場合は別です。仮眠中も労働者が使用者の指揮命令下に置かれており、労働から解放されていないと考えられるため、仮眠時間が休憩時間とはいえないでしょう」
●無断での徹夜でも、締切がタイトならば時間外割増手当や深夜割増手当の対象
部下から事前に残業申請を受けていなかった場合でも、労働時間になるのだろうか。
「残業申請がルール化されているにもかかわらず部下が無断で徹夜をした場合でも、業務の難易度や分量、締切の期限が理由で、徹夜をしなければ完了できないほどの業務を指示しているのであれば、労働時間に該当します。
もちろん、労働時間に対する時間外割増手当や深夜割増手当の支払義務が発生します」
●部下には一定の休息時間を与えたうえで出勤させよう
クライアントの急な依頼があれば、急な納期対応もあるKさんの部署。今後どう部下の労働時間を管理していくべきだろうか。
「労働者の管理と法令順守を徹底するためにも、勤務間インターバル規制の導入を検討してはいかがでしょうか。勤務間インターバル規制とは、勤務終了時刻から次の始業開始時刻まで一定の時間的な間隔を空け、労働者の休息時間を確保する制度です。
就業中の休憩時間だけではなく、労働契約法や労働基準法ではカバーできなかった終業後から次の勤務開始時間までの休息時間を与えるという点がポイントになっています。
就業規則等で『終業から次の始業まで、9時間以上の勤務間インターバルの休息時間を確保する』ことを定めるケースのほか『○時以降の残業を禁止し、かつ○時以前の始業を禁止する』旨を定めるケースなども、勤務間インターバル規制を導入しているケースに該当します。
実際に、運転業務や、配送業務、病院での勤務、警備業務、製造業務、ソフトウェア開発業務など、長時間労働や深夜業務が発生しやすい業種を中心に導入を検討する企業が増えています。
勤務間インターバル規制は、長時間労働の抑制、時間外労働手当の削減、労働者の心身の疲労による健康被害を抑止するためにも一定の効果が期待されていますので、ぜひ検討いただくことをおすすめします」