東京都内では、通勤時間帯になると、電車の座席に座り、パソコンを開いて作業しているサラリーマンをよく見かける。メールを返信する人、会議の資料を作る人、書類に目を通す人など、電車の中での時間の使い方は様々だ。
しかし、電車内でパソコンを使う際、携帯電話と異なり、覗き込み防止シールが貼られていないことが多く、また、画面も大きいことから、資料やメールなどの社内情報が周囲から簡単に覗けてしまう状態にあることも多い。
電車の中で無防備にパソコンを広げることで社内情報が外部に漏れてしまった場合、その従業員が損害賠償されることはありうるのか。また、処分を受けても仕方がないのか。今井俊裕弁護士に聞いた。
●守秘義務違反になる可能性
「従業員には、自己の勤務先が保有している企業活動上の秘密に関して、守秘義務があります。この義務は就業規則に明記されていることが大半ですが、仮に職場に就業規則がなく、労働契約書に明記されていなくとも、労働契約に付随する義務として認められます。
通勤や退勤の途上といえば、本来の労働時間ではなく、勤務先に拘束されている時間帯とは言えません。しかし、たとえそうであっても、守秘義務自体からは解放されずに、従業員は義務を負っている状態です。
そう考えないと守秘義務が有名無実となりますから。通勤退勤の途上で、不用意にパソコン等を広げている際に、勤務先の企業活動上の秘密が第三者に漏れてしまって、それによって勤務先が何らかの損害を被った場合は、やはりその従業員は守秘義務違反により、勤務先に対し相応の損害賠償義務を負うと思います」
自社が製造する製品の製造原価、販売する商品の仕切値、今後進出展開する予定店舗の立地候補、合併、M&Aや技術提携、業務提携等の情報などなど。それが同業他社に漏れることは、アンラッキーなことですが、可能性としてはないとまでは言い切れませんよね」
損害の全額を払うことを求められる可能性もあるのか。
「勤務先が被った損害額全額と同一額をその従業員が勤務先へ賠償しなければならないというわけではありません。勤務先も、自社の従業員のミスによる情報漏洩についてどのような対策を講じていたかが問われます」
処分を受ける可能性はあるのか。
「就業規則に基づく懲戒処分を受けることも有り得ます。その処分の内容や程度は、漏洩した情報の価値、質や量、漏洩先の企業その他の第三者の属性、それによって勤務先が被った損害額等によります」