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パワハラ加害者の「そんなつもりはなかった」に徹底抗戦、被害者はこうして身を守れ
写真はイメージです(polkadot / PIXTA)

パワハラ加害者の「そんなつもりはなかった」に徹底抗戦、被害者はこうして身を守れ

パワハラによって、うつ病など精神的な被害が出てしまうことは珍しくない。弁護士ドットコムの法律相談コーナーにも、上司の度重なるパワハラにより、「動悸が起きる、不安で眠れない、涙や震えがとまらない」といった症状に悩む女性から質問が寄せられているが、この女性に限らず、うつ病などの精神疾患になったり、退職を余儀なくされたりと深刻なケースに発展することもある。

一方で、加害者側は「そんなつもりはなかった」と開き直ることは珍しくない。このような上司のパワハラに対抗するため、被害者はどんな法律知識を備えておくべきか。また、被害にあったら、どのような行動を取れば良いのだろうか。労働問題に詳しい高橋博明弁護士に聞いた。

●パワハラとは?

ーーまず、「パワハラ」とはどのように定義されるのでしょうか

パワハラは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義されます。加害者は上司に限らず、部下からのパワハラが認定されることもあります。

ーー認定される行為とは、どのようなものがありますか

パワハラとなる可能性のある例としては、次のようなものがあります。

(1)叩く、殴る、蹴るなどの暴行や傷害(身体的な攻撃)

(2)同僚の目の前での叱責や罵倒、必要以上に長時間にわたり執拗な叱責を行うこと等(精神的な攻撃)

(3)1人だけ別室に移されるなどの隔離や仲間外し・無視等(人間関係からの切り離し)

(4)業務上明らかに不要なことや不可能なことの強制、仕事の妨害等(過大な要求)

(5)業務上の合理性なく、能力や経験からみて簡易なあるいは業務内容の異なる仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)

(6)交際相手や家庭など私的なことに過度に立ち入ること等(個の侵害)

ーーパワハラというと、過剰な要求をしたり、ひどい暴言を浴びせたりするイメージが強いですが、「(5)の過小な要求」もパワハラに入る可能性があるのですね。ただ、加害者からは「パワハラのつもりはなかった」「気にしすぎじゃないか」という開き直りもよく聞くところです

違法なパワハラ行為かどうかの判断基準は、被害者の主観を前提としつつも、平均的な被害者であればどう感じるかという客観的な視点をとりこんで総合的に評価することになります。その上で、パワハラ行為の種類や程度、受けた被害の重さが、社会通念上許容される限度を超えた場合に違法となります。

加害者が「そんなつもりはなかった」と開き直ったとしても、加害者側の意図でパワハラかどうかが認定されるわけではありません。

●加害者と会社の負う責任

ーー加害者に対しては、どのような責任を問えるのでしょうか

パワハラ行為に対する責任は、加害者本人はもとより、加害者を雇用する会社も負う場合があります。

加害者本人の責任としては、次のものがあります。

(1)懲戒処分(会社から雇用契約に基づき懲戒処分を受ける(解雇、出勤停止、減給、戒告など))

(2)不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任

(3)暴行罪、傷害罪、侮辱罪、脅迫罪等の刑事責任

ーーパワハラが刑事責任に発展し得るものであることは、もっと広く知られるべきですね。では、会社側の責任には、どのようなものがありますか

会社が負うものとしては、主に次の2点です。

(1)使用者責任(民法715条)に基づく損害賠償責任

(2)(会社独自の責任)職場環境配慮義務違反(民法709条、415条)に基づく損害賠償責任

ーー「職場環境配慮義務」とは、どういうものでしょうか

会社には、雇用する従業員が適切な職場環境で業務に従事できるようにする「職場環境配慮義務」があります。したがって、会社には、そもそも職場でハラスメントが生じないように配慮すべき義務があるのです。仮にハラスメントが起こり、従業員に身体的・精神的な問題が生じている場合には、加害者である上司への指導や処分、あるいは配置転換等により、被害労働者に生じている問題を解消すべき措置をとるべき義務があるといえるでしょう。

ーーこの他、社会的な制裁もありますね

労働局、労基署等の監督官署からの指導、是正措置もあれば、報道等による信用失墜にも繋がります。これらによって、優秀な人材の獲得も難しくなるでしょう。さらに、被害者が労災を請求する可能性もあります。パワハラ被害にあい、体調不良となった労働者は、労働基準監督署長あてに労災請求できるからです。

●どうしたいのか? 考えるべき2つの選択

ーー被害にあった場合、次のアクションとして何をすれば良いのでしょうか。

まず証拠をおさえてください。この点については、後で説明しましょう。

そして、「会社内に解決を求めるのか」、それとも「会社外に解決を求めるのか」、よく考えてください。その際、考えていただきたいのが、次の点です。

・会社と対立関係になっても、責任追及をしていくことを考えているかどうか

・会社と対立関係になるのを控えたい場合、信用できるハラスメント相談部門あるいは上司がいるかどうか

会社内に解決を求める場合、直接、加害者本人に主張することは難しいでしょう。秘密を保持してくれ、かつ独立したハラスメント相談部門があるのであれば、当該部門に相談することが考えられます。ただ、このような部門のある会社は限られているのが実態です。また、加害者を監督する上司に相談することが考えられますが、その上司にハラスメント防止に対する知識経験がないと、かえって、ハラスメントが悪化することもあるため、慎重な検討が必要です。

会社外に解決を求める場合には、労働局や労基署等への相談、弁護士等の法律専門家へ相談をしてください。

●証拠はどうしたら?

ーー相談する際、なにを持って行ったらいいのでしょうか

ハラスメント行為があったことを示す証拠の収集が何よりも不可欠です。加害者本人や会社の責任追及、労災請求をするいずれの場合でも、ハラスメント行為があったことの証明がまずは必要となります。

パワハラ被害を受けたら、辛いかと思いますが、できるだけ客観的な資料(ハラスメント行為を記録した録音データやその行為があったことを示すメールやラインなどのほか、被害を示す診断書など)を残しておくべきでしょう。

ーーもし、うつ病などになった場合、どのような補償が受けられるのでしょうか

上司の行為が違法なハラスメント行為と認定される場合には、上司に対しては直接の加害者としての責任、会社に対してはその上司を雇用する使用者としての責任、あるいは会社の職場環境配慮義務違反の責任があるとして、その行為と相当因果関係のある損害について、その賠償を請求できる可能性があります。

賠償の対象となるのは、治療費等や精神的苦痛に対する慰謝料が考えられますが、被害の程度が深刻で、これにより仕事ができなくなったり、退職したりした場合には、本来得られたはずの賃金相当額を一定の範囲で請求できる可能性があります。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

高橋 博明
高橋 博明(たかはし ひろあき)弁護士 弁護士法人植松法律事務所
弁護士法人植松法律事務所所属弁護士。仙台弁護士会所属。労働問題(労働者、使用者側いずれも対応)のほか、相続・家事、男女問題などの民事事件や自己破産、民事再生、債務整理事件、刑事・少年事件を取り扱う。

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