教職員の長時間労働の一因となっている部活動。政府の教育再生実行会議が6月1日、部活動の外部指導員の活用など、対策の必要性を提言し、見直しの機運が高まっている。
本来、学習指導要領で、部活動は「生徒の自主的、自発的な参加により行われるもの」であり「教育課程外の活動」と規定されているが、現場では「全員顧問制は当たり前」などの風潮が根強い。
「ブラック化」した部活の実態とはどのようなものか。現役教員2人に聞いた。
●2度の休職…医師からは「命と仕事どっちを取るのか」
都内の公立中教員である原莉子さん(仮名・28歳)は教員歴6年目を迎えた。2校目となる今の学校では、校長に懇願し、部活動の顧問をしていない。以前の学校で部活動が原因で倒れてしまったからだ。
前の学校に勤務していた1年前までは、自分を含めた2人で吹奏楽部の顧問をしていた。平日の練習に加え、土日には外部指導員に指導をお願いしていたが、自分も学校には出てこなければならなかった。さらに地域の町内会などからの演奏依頼、学校行事でのステージ演奏など行事が入ることも多く、時期によっては月の半分以上の土日が潰れた。「その日曜日は予定があるのでと言っても、地域の町内会との古くからの繋がりで断われない。やらないと言う選択肢はありませんでした」とこぼす。
授業や部活動を通じて生徒と話すのは何よりも楽しかったが、顧問としてプレッシャーも感じていた。2014年に変更された都の吹奏楽連盟の規定により、吹奏楽コンクールの指揮者は「出演校の顧問」と決められていた。学生時代に吹奏楽はやっていたものの、指揮の経験はない。演奏には時間制限があり、1秒でもオーバーすれば失格だ。「極度の緊張とストレスで気が狂いそうだった。じん麻疹がで続けた」と振り返る。
部活動だけではない。若手は校内の掃除のため午前7時半に出勤しなければならず、上司は夜8時から平気で「明日までにお願い」と仕事を頼んでくる。「土日も出勤して頑張っている教員が偉い、休む方が非難される雰囲気だった」。副担任の仕事も増えてきた3年目の3月ごろ、ついに布団から起き上がれなくなった。薬をもらって仕事を続けていたが、6月ごろには医師から「絶対に休んだ方がいい」と言われ、適応障害の診断書を書いてもらい休職。9月中旬に復帰したが、もう一人の顧問が病気で入院し一人で秋の行事をこなした結果、体調は再び悪くなり、12月〜翌3月まで2度目の休職をした。
「子どもが目の前にいるのに休めない」。担当の医師にそう話すと、「命と仕事、どっちを取るの?」と諭されたという。「帰ってもずっと仕事をしていたし、120%で教員をやっていた。今は7~8割くらいにセーブしているが、精神科医には半分くらいでも多いよと言われる」。病院に通い、力を抜くことを覚えた。現在も睡眠薬などを服用しながら何とか働いているところだが、校長は「来年は顧問をお願い」と言ってきている。
●「部活動は教員の善意につけ込んだ仕組み」…ベテラン教員の叫び
「どちらかと言うと、私は土日も関係なく熱心に部活をやっていた側だったんです」。そう話すのは、とある公立中に勤務する40代教員・青木さん(仮名)だ。
現在は主幹教諭もしている教員歴20年以上のベテラン。校長に自ら直談判し、数年前から顧問業務を断っている。部活動に打ち込む一方で、自分の家庭が壊れていったからだ。「そもそも部活動は教育課程外の活動にも関わらず、学校の中でどんどん肥大化している。本来希望制であるのに、全員が顧問をするのが当たり前という風潮になっている」。厳しい口調でそう指摘する。
以前は部活が生きがいで、生徒と一緒に頑張っていた。生徒は当然勝ちたくて練習しているし、顧問としても勝たせてあげたいーー。大会や練習試合に比例する形で、練習の量は自然と増えていった。青木さんは顧問をしていた競技の経験こそなかったが、本やDVDを買ったり、専門家に会いに行ったりして「研究と勉強」でなんとかした。でもそれは決して特別なケースではないと言う。「教員は真面目で責任感がある人ばかり。子どものためと言われると断れない。部活動は教員の善意につけ込んだ仕組みなんです」。
「なぜ部活動を熱心にやらないのか」と言う職場の同調圧力、「もっと練習を入れて欲しい」と希望する生徒、負ければ「練習量が足りないからだ」と言う保護者からのクレーム…。気づけば部活動に多大な時間と労力が割かれて、しわ寄せは家庭にいった。「教員の本来の仕事である授業のためにに割くべき時間を一番奪っているのが部活動。学校の中で大きな顔して座っていて、ブラック化も甚だしい」と憤る。
労務管理のため自身で独自にタイムカードをつけた結果、顧問についていない今年の4月でも残業時間は72時間、5月は70時間だったという。「顧問をしていた時は、月150時間を超えていたと思います」。
●「部活動指導員」の導入で、部活動のあり方は変わっていくか?
文部科学省は学校教育法施行規則を改正し、今年4月から部活動の指導や大会の引率ができる「部活動指導員」を制度化した。
青木さんは部活動指導員の制度化について、「文科省が近い将来、学校から部活を切り離そうとしているのではないか」と期待する。「専門性がない素人が顧問として指導するよりも、地域の力を活用したほうがいい。これまでの外部指導員と違って引率もできるので、最終的には顧問を置く必要もなくなり、学校は練習場所を貸し出すだけにできるのではないか」と話す。
一方で原さんは「予算の都合で割り当てが限られた場合、強い部活動や教員のヒエラルキー次第で、外部指導員の配置が決まってしまわないか不安だ」と懸念する。職場では部活動指導員についての話は一切出ていない。「引率をお願いしていたときに、事故や怪我が起きたとなればどうなるのだろうか。そういったリスクを踏まえながら、外部指導員に手をあげる人は出てくるのか」。現実的に導入が進んでいくのか、半信半疑でいる。
これから各教育委員会は部活動指導員の勤務形態や報酬などについて規則を定めていく。スポーツ庁も部活動指導員の研修制度や部活休養日などについてガイドラインの検討を始めており、今年度内にまとめる予定だ。