「うちの新人、ヤバい。LUUP乗ってそう」
最近、Xでそんな投稿が注目を集めました。投稿では、別の同僚の発言として紹介されていましたが、6万9000「いいね」がつくなど、拡散していました。
LUUPとは、電動キックボードのシェアリングサービスで、都心部を中心に展開しています。自動車の運転免許証がなくても利用できる手軽さが若い世代に人気ですが、交通事故も増えており、交通ルールを守らないユーザーに対して厳しい批判が寄せられています。
そうしたことから、新入社員について「LUUP乗ってそう」と表現することは、ルールの遵守やモラルに懸念があるといった意味のネットスラングと考えられます。
似たようなものでは、「スタバでMac開いてそう」という表現もあります。これは実態はわからないが、仕事ができそうな雰囲気をかもしている人などを揶揄するものです。
こうした見た目や雰囲気で相手を判断するような「揶揄」や嘲笑的な言い回しは、受け手にとっては不快感や苦痛を感じてしまう可能性もあります。
職場で「LUUP乗ってそう」と新入社員について話すことは、ハラスメントにあたるのでしょうか。近藤暁弁護士に聞きました。
●ハラスメントに該当するとはいえない
——「LUUPに乗ってそう」という発言が、業務上の地位・関係性によっては職場内ハラスメントに該当する可能性はありますか?
結論として、この発言だけでは違法な職場内ハラスメントに該当するとはいえません。
パワハラについては、労働政策総合推進法で「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」とされています(同法30条の2第1項)。
これを受けた厚労省の指針では、その典型的な類型として精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)や個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)などが挙げられています(令和2年厚生労働省告示第5号「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」)。
パワハラにあたるか否かの判断に当たっては、様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況、業種・業態、業務の内容・性質、当該言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性等)を総合的に考慮する必要があります。
したがって、こういった諸事情を勘案することなく、ある発言だけをもってハラスメントとすることは適当ではありません。
●名誉毀損や侮辱になる?
——名誉毀損や侮辱にもあたらないのでしょうか。
「LUUP乗ってそう」という発言は人を揶揄する意味にも取れますが、日常的にネットを利用する一般読者の普通の注意と読み方を基準としてもその意味はなお曖昧であり、社会的評価を低下させるものとはいいがたいでしょう。
仮に社会的評価の低下を生じさせるとしても、ルールやモラルの遵守に懸念を生じさせるような前提事実に対する意見ないし論評の域にとどまる可能性が考えられます。
また、名誉感情を侵害するような、社会通念上許される限度を超えた表現ともいえません。したがって、名誉毀損、侮辱とはいえません。
また、個人情報や私生活の暴露ではないためプライバシーを侵害するような言動ともいえません。
●不適切な言動が続けば違法になる可能性も
——ハラスメントまではいかないといった場合でも、こうした発言について注意すべき点はありますか。
不適切な言動が継続的に行われれば違法性を帯びてくることもありますし、そうでなくとも職場環境の悪化、生産性の低下、離職率の増加、企業イメージの低下などの弊害をもたらします。
ハラスメントに関する社内方針等の明確化及びその周知・啓発、ハラスメントに対応するために必要な体制の整備、社内コミュニケーションの活性化や円滑化や職場環境の改善のための取組み(業務の効率化による過剰な長時間労働の是正など)に努めるべきです。