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街頭インタビュー動画で誹謗中傷「削除拒否は幇助」、出演女性が制作会社提訴、ネット配信のルール問う
東京地裁(のみがわ / PIXTA)

街頭インタビュー動画で誹謗中傷「削除拒否は幇助」、出演女性が制作会社提訴、ネット配信のルール問う

街頭インタビューに応じた女性が、動画を配信した制作会社側を相手取り、動画の削除と220万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。

公開後に寄せられた誹謗中傷の責任は誰が負うのか。撮影前に署名した「承諾書」はどこまで効力を持つのか。

裁判では、契約の有効性や配信会社の責任が争点となる。一方で、その背景には、テレビと異なり、YouTubeやTikTokなどネット動画を誰がどのようなルールで律するのかという、より大きな問題も横たわる。

女性側は、その場で十分な説明もないまま署名した一枚の承諾書を理由に、誹謗中傷が相次ぐ動画の削除を拒まれたと訴えている。

●「即回答・即撮影」で署名したとされる承諾書

訴状によると、女性はミュージシャンとして10年以上活動してきた。2024年9月、東京の表参道を一人で歩いていた際、男性から街頭インタビューと称してネット番組「街角給与明細」への出演を持ちかけられた。

回答はその場で求められ、承諾するとそのまま撮影が始まる流れだったという。

女性側は撮影前に署名を求められた「出演承諾書」の内容も問題視している。

訴状では、この書面は制作会社に無期限・無条件で映像を利用する権利を認める一方、出演者には肖像権や著作権などを放棄させ、動画の削除を求めることや、異議を申し立てることも認めない内容だったと主張している。

女性は十分な説明を受けないまま、内容を確認することなく署名し、最低・最高の月収や貯金額、将来の夢などについてインタビューを受けたという。

その後、動画はYouTubeやTikTokで公開され、女性の容姿や発言を否定的に扱う書き込みが相次いだ。

女性は同年10月から11月にかけて繰り返し削除を申し入れたが、制作会社は承諾書の条項を理由に応じなかったとしている。

●権利の全面放棄は通用するのか

訴訟の中心は、この承諾書の有効性だ。

女性側は、出演者だけに不利益を負わせる条項は内容として不合理であり、民法90条の公序良俗に反して無効だと主張する。

さらに、事業者と消費者の契約で、消費者の利益を一方的に害する条項を無効とする消費者契約法10条により無効だとも訴えている

●中傷を知りつつ配信を続けた責任

もう一つの争点が、公開後の対応だ。

女性側は、受忍限度を超える侮辱にあたる書き込みがあると認識しながら動画を公開し続けた行為について、投稿者の侮辱に手を貸す「幇助」(民法719条2項)にあたると主張。

また、配信会社だけでなく、その代表者個人についても会社法に基づく責任を追及している。弁護士ドットコムニュースは被告側に問い合わせたが、返答はなかった。

●放送の「外側」にあるネット動画

この裁判は、出演契約や個別の投稿の違法性を超えた論点も浮かび上がらせる。

テレビなどの放送事業者は、放送法や放送倫理・番組向上機構(BPO)の枠組みのもとで、出演者の権利保護や放送後の中傷への配慮を一定程度求められてきた。

一方、街頭で撮影し、YouTubeやTikTokで発信する配信者は、そうした枠組みの外側にある。影響力は放送に匹敵する場合もある一方で、取材倫理や被害救済の仕組みは十分整備されているとは言い難い。

BPOの放送倫理検証委員会委員で、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所准教授の水谷瑛嗣郎さんに聞いた。

●放送には「上乗せ」の規律、ネット配信は自由放任

「放送事業者には放送法やBPOによる『規律された自主規制』が課され、国民の知る権利に応える社会的責務があります。

さらに、恋愛リアリティショー出演者が多数の誹謗中傷を受けて自ら命を絶つという痛ましい出来事が起こりました。民放連(一般社団法人日本民間放送連盟)はこの後に『放送内容によっては、SNS等において出演者に対する想定外の誹謗中傷等を誘引することがあり得ることに留意する。また、出演者の精神的な健康状態にも配慮する』との基準を加えるなど、通常の刑事・民事責任に上乗せした規律を重ねてきました」(水谷さん)

一方、放送にあたらないネット配信は、名誉毀損など一般の法規制が及ぶのみで、こうした自主規制の枠組みはない。

水谷さんは「承諾書に同意していても、公序良俗や消費者契約法に反する内容であれば無効になる可能性があります」と指摘する。

●「正直者が損をしない」仕組みを

そのうえで水谷さんは、根底には現在のエコシステムの問題があるのではないかと指摘する。放送とネット配信で規律に大きな差がある現状において、「同じようなコンテンツが消費されながら、配信経路によってルールが異なることで、『いびつな競争』が生じている」と話す。

注目を集めるほど利益につながるアテンション・エコノミーの下では、自主的なルールなどに縛られず、「炎上させてでも注目を集めたほうが得」というインセンティブが働きやすい。

一方で、ネット配信の「自由」さは、放送では到底できないコンテンツを生み出している。重要なのは、アテンションの獲得ばかりが重視されやすい現在の情報空間において、流通する情報の多様さをいかに確保するか、だ。

解決策のひとつとして、自主的に一定のルールに従う配信者には、コンテンツの可視性をあげるといった各種の優遇措置を与えたり、市場から評価されやすくする方法なども考えられるとし、「『正直者が損をしない』エコシステムへ変えていく必要がある」と語った。

撮影前に交わした承諾書は、公開後に生じた被害まで免責するのか。放送の枠組みの外で広がるネット動画に、取材される側を守るルールをどう及ばせるのか。審理の行方が注目される。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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