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「裁判を支援してくれた学生たちが、よかったねと」 横浜国立大・元教授の「懲戒解雇」取り消しで和解
原告の男性

「裁判を支援してくれた学生たちが、よかったねと」 横浜国立大・元教授の「懲戒解雇」取り消しで和解

留学生の入試の合否判定や成績評価で不正をしたとして、2021年2月に懲戒解雇された横浜国立大の元教授が、処分は不当だとして、解雇の無効や未払い賃金の支払いを求めた裁判が東京高裁で和解した。

一審の横浜地裁は、原告の請求を棄却していたが、控訴審では裁判所からの和解勧告を受けて、大学が懲戒解雇処分を取り消し、労働契約の合意解約に変更することで和解となった。原告は2月14日、記者会見を開いて「名誉が回復できた」と語った。(ジャーナリスト・田中圭太郎)

●懲戒解雇を取り消して和解に

横浜国立大学で教授をつとめていた原告の50代男性は、外国人留学生と日本人帰国生向けのプログラムの責任者だった2021年2月、大学から懲戒解雇されたことを受けて、解雇を無効とする地位確認や未払い賃金の支払いを求めて、同3月に提訴した。

原告は、プログラムの入試において、多様な国籍の学生受け入れのため、同じ国籍出身者は2人までとする国籍の人数バランスなどを調整していた。

その調整が解雇された理由の一つだったが、調整は男性が主導したものではなく、学内の申し合わせに基づくもので、点数調整の指示もあったとして、処分は不当だと主張していた。

一審の横浜地裁は2024年2月、原告の請求を棄却する判決を言い渡した。責任を転嫁する判決だとして、原告側は東京高裁に控訴していた。

東京高裁では、約1年にわたって審理がおこなわれた結果、2月4日に和解が成立した。大学が原告の懲戒解雇処分を取り消し、労働契約の合意解約に変更する内容となった。

●和解に至った経緯は「守秘義務」で明かされず

画像タイトル 原和良弁護士

和解を受けて、原告は2月14日、都内で記者会見を開いた。同席した弁護団は、和解を「勝訴的」と評価する一方、和解に至った経緯などについては守秘義務がかされたことから明らかにできないとした。

それでも記者会見を開いた理由について、弁護団長の原和良弁護士は「懲戒解雇処分されたと報じられたことに対する名誉回復のため」と述べた。

「大学教員の懲戒処分ということで、処分の内容も含めてマスコミに大きく取り上げられた事案であり、『労働判例』の雑誌でもこの事件が注目されていました。一審判決の結論が変更になったことは、元教授にとっても名誉回復という点でしっかり伝えしておく必要があると考え、会見にいたりました」(原弁護士)

●原告「学生に対して申しわけないと思っています」

原告が担当していたのは、次世代のグローバル人材育成を目的として、英語を使用言語とする教育によって学士の学位が取得できる学部横断教育プログラムだった。懲戒解雇されたことで、当時のプログラムは廃止されて、留学生らはプログラムを受けられなくなった。会見に臨んだ原告は、まずは学生に謝罪した。

「私が担当した教育プログラムが途中で終わってしまって、わざわざ海外から来た留学生に向けたプログラムがなくなってしまったことにすごく残念というか、申し訳なく思っていました。意識が高い学生が来ていたにもかかわらず、途中で終わったことについては学生に対して申し訳ないと思っています」

原告は2012年に採用され、グローバル人材育成プログラムに立ち上げから関わり、専任の教授としては、1人で担当していた。年間40コマを担当していたうえ、留学生の受け入れや、さまざまな手続きのサポートをおこなうなど、激務の状態にあった。

画像タイトル 原弁護士と指宿昭一弁護士

弁護団の指宿昭一弁護士は「こんなに頑張ってきた先生が、なぜ懲戒解雇にならなければならないのか。ものすごい労働時間で学生さんたちのために頑張ってきたのにひどい」と振り返った。

また、原告が懲戒処分を受けたことで、学生の間には動揺が広がったという。それでも、この裁判に協力してくれた学生もいて、結果的に懲戒解雇を撤回できたことに原告は安堵の表情を見せた。

「裁判を支援してくれた学生たちが、『懲戒解雇が撤回されてよかったね』と言ってくれたので、私自身の満足というよりは、学生たちが満足してくれたのでよかったと思います。懲戒処分が正式に撤回されたことで、安心感が広がったという感じです」(原告)

高裁での和解を受けて、横浜国立大は2月7日、「懲戒処分の変更について」と題した文章をホームページで公表し、「懲戒解雇処分を取り消し、労働契約の合意解約に変更する」と記載した。

横浜国立大では、現在も原告が担当していたグローバル人材育成プログラムは開講されていない。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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