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給料を間違えて多く振り込む→従業員「使ったので返せない」 誤振込の対処法は?
画像はイメージです(Luce / PIXTA)

給料を間違えて多く振り込む→従業員「使ったので返せない」 誤振込の対処法は?

振込先や金額を間違えて振り込んでしまう「誤振込」。2022年には山口県阿武町が給付金4630万円を住民1人に誤って振り込んだ事件が話題になりましたが、身近なところでも起きているようです。

弁護士ドットコムには「本来の給与額を大幅に超える金額を振り込んでしまった」という経営者からの相談が寄せられています。

相談者は12月分の給与として、ある従業員に誤った金額を振り込んでしまいました。1カ月ほど経ったあとに気づき、謝罪した上で返還を求めましたが、従業員からは「振り込まれた給与は使ってしまって返金できない」「毎月の支払いがあるので、分割での返還も難しい」と断られてしまいました。

従業員との雇用は続いている状態ですが、こうした場合、どうすれば返金してもらえるのでしょうか。山本幸司弁護士に聞きました。

●返還請求できるが…

——間違って振り込んでしまった場合、お金は返してもらえますか?

給与が過大に支払われた場合、会社は従業員に対し、不当利得返還請求権に基づき、過払い給与の返還を求めることができます。

返還請求できる範囲は、従業員が給与の過払いを知らずに使い込んだ場合には、従業員の下に現存する利益に限定されます(民法703条)。ただ、過払い給与を生活費に充てたときは、利益は現存すると判断されるのが通常ですので、過払い給与全額について返還請求できることが多いでしょう。

また、従業員が過払いされたことを知っていた場合には、過払い給与全額に加え、利息をつけて返還請求できます(民法704条)。

返金してもらう方法ですが、まずは、従業員に事情を説明して、返金について理解を得ることが大切です。

●給料から分割して控除する

——従業員は返金すると言っているものの、お金がない場合はどうしますか?

従業員の同意を得て、毎月の給与からの控除(相殺)により返還してもらう方法が考えられます。この方法は、賃金の全額払いの原則(労働基準法24条1項)との関係で問題となり得ます。

判例は、従業員の同意を得て行う控除について、その同意が自由意思に基づくと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときには、賃金全額払いの原則に反しないとして、控除を認めています(日新製鋼事件・最高裁平成2年11月26日判決)。

ただし、1カ月の控除額が高額で生活に支障を来たすような場合には、自由意思に基づかないと判断される可能性が高まりますので、複数月にわたって分割して控除するといった配慮も必要でしょう。

●労働者の同意がない場合、どれだけ給与から控除できるか?

——従業員が返金する気がないときは、どうなりますか。

従業員に返還の意思がない場合には、原則として給与からの控除はできません。

例外として、判例は、控除する金額や控除時期などの諸事情に鑑み、労働者の経済生活の安定を脅かすおそれがない場合に、労働者の同意なく給与から控除して調整する方法も認められるとしています。

控除可能額は事案により異なりますが、少なくとも、1カ月の給与の手取り額のうち4分の1を超える額を控除すると、違法とされる可能性が高いと考えられます。

また、労使協定に、過払い給与が発生したときに給与から控除できるとの規定があり、就業規則または労働協約にも同様の規定がある場合も、例外的に控除が認められます。

こうした方法による回収が困難な場合には、訴訟提起等の法的手段をとり、従業員の給与や退職金、預金等の財産を差し押さえることになります。ただ、費用や時間がかかりますし、過払い額を全額回収できるとも限りません。

費用をかけずにスムーズに回収するためには、従業員に丁寧な説明をして、理解を得ることが重要といえます。

プロフィール

山本 幸司
山本 幸司(やまもと こうじ)弁護士 山本総合法律事務所
広島弁護士会所属。企業法務(上場企業、医療機関など)、相続、不動産、労働、離婚問題、刑事事件などの分野で経験を積み、広島市で独立開業。税理士と共同して、法務・税務の両面からトータルサポート。

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