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顧客への退職報告、どこまで認めるべき? 経営者は「客を奪って独立するのか」と怒り
画像はイメージです(takeuchi masato / PIXTA)

顧客への退職報告、どこまで認めるべき? 経営者は「客を奪って独立するのか」と怒り

退職する時、自分のお得意様に、どこまで伝えていいのでしょうか。弁護士ドットコムに、ある経営者から「退職する従業員が、弊社のお得意様を奪って独立するようです」と相談が寄せられました。

この経営者は、従業員が退職することを顧客に伝えた行為について、「お得意様と無断でやりとりし、独立後の会社の顧客にしようと画策した」と受け止めています。なお、就業規則や雇用契約書に競業への転職に関する規定はないといいます。

「懲戒や損害賠償請求をしたい」と相談者は考えています。しかし、何の連絡もなく退職することは好ましくないケースもありそうです。どのような場合に問題となるのか。市橋耕太弁護士に聞きました。

●「競業避止義務」と「職業選択の自由」

——競業に転職するに際し、法的な制限はあるのでしょうか

いわゆる競業避止義務については、在職中は労働者が一般的に負うものと考えられていますが、労働者にも職業選択の自由があります。そのため、退職後の競業避止義務については、就業規則や雇用契約書等において特別の定めがある場合に限り認められます。

他方で、顧客奪取行為については、それが悪質な手段や態様で行われた場合には、こうした特別の定めがなくても使用者の営業利益を侵害する不法行為として損害賠償責任を負う可能性があります。

また、こうした行為を在職中から開始していたとすれば、懲戒事由になり得ます(ただし、懲戒解雇が相当かはケースによります)。

——「悪質な手段」とは具体的にどのようなものでしょうか

悪質な手段等としては、在職中に得た取引先に関する情報を持ち出して、当該取引先に対して積極的な働きかけをして顧客を奪い取ろうとするような場合が挙げられます。

相談に寄せられた事例ではどうか検討しましょう。

退職する労働者が個人的な人間関係を継続するため、個人の連絡先や転職先の案内をする程度では、「悪質な顧客奪取行為」とは言い難いです。

結果として、顧客の判断で取引先を変更した(独立した労働者と取引することとした)としても、それだけでは当該退職労働者に対する損害賠償請求は認められがたいと思われます。

今回の相談事例では、当該従業員がどういった目的で顧客とやり取りしているのかということや、自分の顧客になるよう誘導しているのかどうかがポイントとなります。

プロフィール

市橋 耕太
市橋 耕太(いちはし こうた)弁護士 旬報法律事務所
日本労働弁護団事務局次長。ブラック企業被害対策弁護団副事務局長。労働事件・労働問題について労働者側の立場で取り組む。大学等で授業を行うなど、ワークルールの普及にも精力的に活動している。

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