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勤務後に急死、住み込み家政婦の労災認めず 代理人「脱法スキームにお墨付きを与えた判決」と批判
会見を開いた女性の夫(弁護士ドットコム撮影、東京都、2022年9月29日)

勤務後に急死、住み込み家政婦の労災認めず 代理人「脱法スキームにお墨付きを与えた判決」と批判

東京都で家政婦と訪問介護ヘルパーとして働いていた女性(当時68歳)が亡くなったのは長時間労働が原因だとして、女性の夫が国を相手に労災認定を求めた訴訟の判決が9月29日、東京地裁であった。片野正樹裁判長は、遺族側の請求を棄却した。

住み込みの家政婦など「家事使用人」は、労働基準法が適用されず、労災の対象外とされている。ただ、厚生労働省の通達で、雇用され指揮命令を受けている場合は労基法の適用対象となる。

判決後、会見を開いた女性の夫は「ずさんな判断。高齢者や要介護者のために献身的に一生懸命働いてきた妻の無念さを思い、これからも戦い続けます」と控訴する方針を示した。代理人弁護士は「脱法スキームにお墨付きをつけた判決だ」と問題視した。

●住み込みで連続勤務後、サウナで倒れる

判決によると、女性は2013年8月、要介護高齢者向けの居宅介護支援サービスや家事代行サービスを展開する都内の企業に入社。家政婦として勤務し、2015年5月からは訪問介護ヘルパーの仕事もおこなった。

女性は2015年5月20〜27日朝まで、家政婦と訪問介護ヘルパーとして、認知症で寝たきりの要介護者のいる家庭に勤務。27日夜、私的に訪れたサウナで倒れ救急搬送されたが、急性心筋梗塞のため亡くなった。

夫は2017年5月、渋谷労働基準監督署に労災を申請。労基署は女性は労働基準法第116条2項の「家事使用人」に該当するため、労災の適用除外になるとして、労災の不支給決定をした。その後の審査請求、再審査請求も退けられた。

●裁判所の判断は?

裁判では、女性がおこなっていた家事業務と介護業務が一体として会社の業務と言えるかどうかが争われた。

遺族側は「家事と介護の業務は一体として会社の業務だった」と主張。一方、国側は「介護業務については会社の指揮命令下だったが、家事業務については要介護者の息子との間で締結された雇用契約に基づいて行われていた」とし、労基法上の「家事使用人」にあたると反論していた。

片野裁判長は「家事業務は、要介護者の息子との間の雇用契約に基づき提供されている」とし、会社の業務と認定しなかった。そのため、労災も介護業務部分だけを対象とし、「介護業務の総労働時間は1日4時間半にとどまる」として業務との因果関係を認めなかった。

●「実態を全く見ていない」代理人は批判

「契約書や賃金規則の形式的な文言ではなく、実態に基づく判断をしなければならないことは労働法のいろはだ」、「実態を全く見ずに、形式だけで判断している。その理由も全く説明しておらずおかしい」。代理人弁護士は働き方の実態に踏み込まなかった判決について、厳しく批判した。

代理人の明石順平弁護士は「同じ家で同じ人にサービスを提供しているので区別できない。家事業務については使用者ではないとすることで、労基法の適用を免れ、住み込みの24時間労働ができるようになっている。是正されなければならない判決だ」と指摘する。

代理人の指宿昭一弁護士は「控訴審で戦って逆転勝訴を目指すが、家事使用人にはそもそも労基法を適用しないという時代遅れで間違った規定は削除すべきだ。国会で議論すべき問題で、厚労省は改正に取り組んでほしい」と話した。

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