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親子でマレーシア教育移住、コロナ下に踏み切った父の覚悟「リモート時代の新しい姿」
マレーシアの首都クアラルンプール(bee / PIXTA)

親子でマレーシア教育移住、コロナ下に踏み切った父の覚悟「リモート時代の新しい姿」

我が子のより良い教育環境を求めて、日本国外への移住を決断し、実行に移す人たちがいる。行き先は米国をはじめとして、英国やオランダなど欧州各国のほか、ここ最近、注目を浴びているのが日本からの距離が近い東南アジアのマレーシアだ。

マハティール首相(当時)が1981年、日本から多くを学ぶことで国の発展を目指す「ルックイースト政策」を打ち出してから40年。親日国としても知られるマレーシアでの教育における魅力は何があるのだろうか。(ジャーナリスト 小西一禎)

●リモートワークなら「海外移住もできる」

4月初旬、一組の親子がマレーシアに移住した。元大阪府職員でNPO理事長も経験した会社員の篠田厚志さん(42)。小2の息子を連れて、2人だけの「父子海外生活」に踏み切った。実現に向け、大きく心を揺さぶられた背景には、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う働き方の大きな変化があり、決断に至る最後の一押しとなった。

「2年前からテレワークをずっと続けているうちに、だんだん『日本じゃなくてもいいんじゃないか』と感じるようになりました」。

元々、グローバル教育に強い関心があり「子どものために、世界中どこの国でも就職できる状況を作り出してあげたい」(篠田さん)と以前からずっと考えていた。

会社は今後もリモートワークが続くことを想定し、国外でも就労継続が可能だと判断。「これなら、行けるわ」と意を決するのには時間がかからなかった。

海外移住を扱うエージェントにすぐに連絡。

先方には(1)英語圏であること、(2)治安の良さ、(3)物価が安い、(4)日本との時差が少ないーなどの条件を伝えるとともに、誰を連れて行くかを考え始めた。エージェントが提示してきたのは、オーストラリア、シンガポール、マレーシア、フィリピンなど。この中から、すべての条件を満たすマレーシアを選んだ。

多民族国家で知られるマレーシアは、公用語のマレー語のみならず英語が広く通じ、中国語やヒンディー語など多くの言語が飛び交う。

マレーシアに移住してから10年目の文筆家・野本響子さんによれば、マレー語、英語、中国語を扱う幼稚園もあるという。篠田さんの目にも、複数言語が醸し出す多用な価値観があり、多くの異なる文化が広がるマレーシアは魅力的に映った。

●韓国、中国、パキスタン、中東、アフリカからも

3児のパパとして頭を悩ませたのは「どの子を連れて行くか」。高校生の長男と中学生の長女に、通常の勉強をいきなり英語で強いるのは厳しいと判断、小学生の二男を連れて渡航することとし、妻と長男、長女は日本に残ることにした。

日本と首都クアラルンプールの直行便の所要時間は往復いずれも7時間台。時差も1時間なため、夕食時間もzoomなどを繋いで共有、離れていても家族一緒の時間を確保できる。

最初の1年間、二男をインターナショナルスクールに通わせて、英語と海外暮らしに慣れた後、現地校への転校も含めて先のことを考えている。

マレーシアの教育について「言語が異なり、日本とは異なる教育があることをまず知ってもらえれば」と期待を寄せる篠田さん。ほとんど時差のない環境で、日本の仕事をフルリモートで継続する意向だ。

優れた教育環境を目指してマレーシアに移住してくる家族は、日本のほか、韓国や中国、パキスタンや中東、さらにはアフリカにも広がっている。

野本さんは、子どもがマレーシアの学校から入学許可を得られると、親ひとりに発行される「保護者ビザ」(ガーディアン・ビザ)の存在が大きいと指摘。親のビザに子どもが紐付けられるのではなく、逆のケースのビザを発行する国は極めて珍しい。

マレーシア教育の他の特徴として、プログラミングなど充実したIT・STEM教育も挙げられる。さらに、平均年齢が29歳前後と「若い国」であるため、子どもに対する目線が優しく、子育て世代は快適に過ごせるという事情もある。

●「子どもの教育を追求して移住する」というリモート時代の新たな姿

ただ、すべての人が環境に適応できるかと言えば、マレーシアも決して例外ではない。

野本さんは「子どもは慣れるのは早いですが、大人が精神的に参ってしまうケースを、幾度となく目にしました。どうしても、日本での生活との整合性を求めてしまうのです。そして、子どもにも大きく影響を与えます」と強調する。

マレーシア生活を始めたばかりの篠田さんは、何年いるかは決めていないものの、水が合えばずっと暮らしてもいいと永住を見据えている。

「拠点が複数あっても、リモートで仕事ができれば『日本の家』に縛られる必要はありません。子どもの教育を追求して、移住するというリモート時代の新たな姿を示したい」と力を込めている。

【筆者】小西 一禎(こにし・かずよし):ジャーナリスト。キャリアコンサルタント、プロコーチ。慶應義塾大卒後、共同通信社入社。2005年より本社政治部で首相官邸や自民党、外務省などを担当。17年、妻の米国赴任に伴い、会社の「配偶者海外転勤同行休職制度」を活用し、妻・二児とともに渡米。20年、3年間の休職満期につき退社。21年、帰国。米コロンビア大東アジア研究所客員研究員を歴任。駐在員の夫「駐夫」として、各メディアへの寄稿・取材歴多数。18年に「世界に広がる駐夫・主夫友の会」を設立し、代表。執筆分野は、キャリア形成やジェンダー、海外生活・育児、政治、メディアなど。著書に『猪木道――政治家・アントニオ猪木 未来に伝える闘魂の全真実』(河出書房新社)。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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