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〈マタハラで退職〉不本意な退職に納得いかない! 弁護士に聞いた(Vol.5)
法的には?(Mills / PIXTA)

〈マタハラで退職〉不本意な退職に納得いかない! 弁護士に聞いた(Vol.5)

「妊娠したことを会社に告げたら、これまでと違う部署で働くことを強制された」。「産休や育休を取得した先輩社員がいない」。会社で起こるマタハラ(マタニティーハラスメント)は令和の時代になっても、まだまだ起きています。

特にパートやアルバイトなど非正規雇用の場合は、「言うことを聞かないのであれば雇用契約を終了させる」など解雇をほのめかして追い詰めるケースもあり、最後は「自己都合」で退社せざるをえない女性もいます。

スーパーでパートとして働いてきた四国地方のある女性は、待ち望んでいた妊娠が判明。しかし女性が上司に産休と育休の取得を申し出たところ、上司は「半年以上も休むのか」と批判的に伝えた上で、「明日から品出しの部署に異動してもらう」と異動命令を出したのです。

この女性は「妊娠中に体力の必要な品出しの部署に異動するのは実質、退職を命じられたようなものです。納得行きません」と憤ります。女性はやむを得ず退職したそうです。

会社の対応に法的な問題はなかったのでしょうか? 高木由美子弁護士に聞きました。

●高木弁護士「上司の対応は問題」

——この女性は妊娠中に上司に妊娠を報告したところ、「あまり休まれても…」と迷惑がられ、産前6週・産後8週の産休をとることにも抵抗されたそうです。上司の対応に問題はなかったのでしょうか?

この上司の対応は問題です。

「産前産後休業」は、労働基準法第65条で定められている労働者の権利です。労働者が正社員であるかパート社員であるかに関わらず、主張することが出来る権利です。

労働者は、産前6週間(双子以上の場合は14週間)、産後8週間休業できます。産前休業は、労働者が請求したときに、会社はその労働者を休業させなければなりませんが、産後休暇は、労働者が請求しなくても、また、たとえ、労働者が稼働を希望しても、会社は労働者を休業させなければなりません。

会社の就業規則等で産休産後休業についての取り決めがなく、制度が存在していない場合でも、従業員は、会社に「産前産後休業」を求める権利があります。

●「従業員に退職を仕向ける意図が見受けられる」

——さらに妊娠中にもかかわらず、突然、力の必要な品出し部署に異動を命じられました。女性は「自分からやめたいと言わせるためではないか」と考えています。

会社は、労働者が産前産後休業などの制度を利用することを理由に解雇など不利益的な扱いをすることは出来ません(男女雇用機会均等法(均等法)9条3項)。

このケースでは、会社が従業員が妊娠していると分かっているにも関わらず、敢えて体に負担の大きい職種に配置転換しようとしています。

明らかに妊娠を理由とした不利益変更で会社が従業員に退職を仕向ける意図が見受けられます。このような会社の取り扱いは違法といえます。

●対処法は?

——会社の対応に問題がある場合、どのような相談先、どのように行動すれば良いのでしょうか

このようなマタニティハラスメント行為について、都道府県労働局に相談し、労働局長による助言や指導をしてもらったり、紛争調停委員会による調停、つまり会社と労働者間の話し合いの仲介をしてもらうことができます(均等法17条等)。

労働局長による助言等に対し、会社からの是正報告がない場合、厚生労働大臣に報告され(均等法29条)、厚生労働大臣からも是正を求めます。それにも拘わらず、会社から是正の報告がない場合は、違法な取り扱いをしている会社名が公表されます(均等法30条)。

違法なことをしていると会社名が公表されることは、会社にとって信用にかかわることなので、違法な取り扱いを会社が改善することが期待できます。

もし、従業員が会社の異動命令を断って、解雇された場合は、不当解雇と考えられますので、弁護士に相談して、解雇無効確認の労働審判を申し立てるのが良いでしょう。たとえ、会社に戻る気持ちが無くても、退職することを前提で会社が解決金等を支払う形で解決できることが多いです。

いずれにしても、退職などする前に労働局や弁護士に相談してから行動するのが良いです。

プロフィール

高木 由美子
高木 由美子(たかぎ ゆみこ)弁護士 さつき法律事務所
第一東京弁護士会所属。米国・カリフォルニア州弁護士

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