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発達障害の当事者が「管理職」になって感じたこと、工夫してきたこと 
写真はイメージ(Graphs / PIXTA)

発達障害の当事者が「管理職」になって感じたこと、工夫してきたこと 

発達障害の当事者として、同じ悩みを抱える人の相談にSNS上で答えるツイッタラーの男性会社員reiさん(30代)が、生きづらさを「マシにする」ヒントを詰め込んだエッセイ「生きてるだけで、疲労困憊。」(KADOKAWA)を上梓した。

幼少期の言語発達遅滞により、小中学校を特別支援学校で過ごしたreiさんは、荒療治によって発話できるようになると、普通高校、大学に進むが、今度は就職活動の失敗をきっかけとして、約5年前に、発達障害の一種であるASD(自閉スペクトラム症)とADHD(注意欠陥多動性症候群)と診断された。

障害者雇用に切り替え、正社員として企業に入社し、IT系の業務に就き、2年前からは、十数人の精神・発達障害の社員をマネジメントする管理職として働いている。

管理職として、どのような体験をしてきたのか聞いた。

●急な生活習慣の変化に身体が耐えられなくなるケース

——発達障害者が辞めてしまう場合、どのような理由によるものが多かったでしょうか

体力です。生活習慣の乱れやすい発達・精神障害のかたが決まった時間に起床して電車に乗って8時間働くのは大変な負担です。

私の職場も労働強度はそこまでではないのに、急な生活習慣の変更に身体が耐えられず、調子を崩してそのままドロップアウトという例が多くありました。

私が管理職になったのは、私個人の能力というよりも、当時一緒に働いていた同僚がみんな辞めてしまったからです。

企業で働く前に、就労移行支援施設での、定時に起きて一定時間のタスクをこなすような「通う」習慣を身に着けることで、リスクは多少減らせると思います。

●リモートワークで「常時ダラダラ」「常時過集中」というムラができた

——本のなかで、ADHDを「時間感覚の欠如」「計画を立てて段取りを組んで行動することが苦手」、ASDを「空気を読む触覚の欠落のようなもの」などと説明しています。特性によって生じやすい課題について、教えてください

まず、ADHDの時間感覚の欠如によって、タスクへの着手からギアが入るまでの時間、ギアが入ってからの時間に物凄いムラができることがあります。

コロナ禍でリモートワークになると、その傾向はさらに顕著になりました。周囲に監視者がおらず、自分のペースで働けるために「常時ダラダラ」または「常時過集中」というムラができたのです。

私も部下も、仕事の極端な遅れを、過集中による残業で一気に終わらせるという日が続きました。過集中は自分の意思だけではなかなか中断できないので、疲労が溜まり、次の日はまたダラダラ…。

そのような悪循環を断ち切るため、スマホやキッチンタイマーで25分間経過したらアラートがなるようにし、その後は5分間小休止する「ポモドーロ法」を取り入れると、「集中の波」のコントロールができるようになり、疲労の蓄積も抑えられるようになりました。

部下もログを見る限りは成功しているように思えます。

ほかにも、在宅ワークでは、オンからオフ、オフからオンへの切り替えがうまくいかないことで体が休まらず、体調を崩すことがありました。仕事道具が目に入るだけでも切り替えられないので、業務終了後は、PCの電源を落とすだけでなく、PCそのものに布を掛けて見えなくしています。

続いて、ASDの空気を適切に読み込めない困難は、業務上必要な「報告・連絡・相談」に影響することがあります。過去の対人関係の失敗から、「話しかけるのが怖い」「なんと声を掛けてよいかわからない」とためらう当事者は少なくありません。また、私を含め、雑談もかなり嫌がります。

話しかけることを不安に思うのは、「どんな反応が返ってくるかわからない」面が大きいので、上司としての私の工夫としては、あえて「わかりやすいキャラ」を演じています。

ミスが報告されても、「そうか」しか答えません。

——テンプレートの対応しかしないんですね

そうです。改善策は時間をおいてからメール等で伝えています。失敗した当事者の頭のなかは「どうしよう」と罪悪感や恐怖でパニックになっているのに、タスクの目的や手順などを説明しても、頭に入るわけがありません。

ですので、部下がミスをしたら、他の定型業務をやらせたり休憩をとらせたりして、その仕事から距離を置かせています。

●職場では我慢強い人に負担が集まりやすい

——発達障害者と働く際の心構えはありますか

発達障害は、属人性が非常に強いため、一律の正解はないと思います。聴覚過敏の私は、環境音が気になってしまうのですが、だからといって耳栓やイヤホンをつけると、部下に大きな声を出させたり、私の身体をつかむことを強いたりしてしまいます。すると、今度は対人関係を苦手とする当事者が私に報告・連絡・相談できない問題が生じてしまいます。

当事者の困難や苦手に配慮していくと、チームで仕事をする以上はどうしても比較的我慢強い人に負担が集中してしまいやすくなります。

たとえば、電話の応対が苦手な人の代わりに、対人関係に我慢強い人が電話に出る。当事者のチック(予期せぬ動作や発声)が苦手な感覚過敏の人の代わりに、チックに我慢強い人が近くの席に座る——。

このように、当事者の課題は一時的に解決しても、決して消えることはありません。最終的には課題との付き合い方の問題になってくると考えています。

【著者プロフィール】 rei(れい) 美少女ゲームが好き。生きづらさを抱える人の悩みに答える発信を続けるツイッタラー。Twitter @rei10830349

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