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「来られても何もできない…」警察の対応は“一転二転”、無差別殺人計画を防いだ通報者が語る「偶然」の舞台裏
富山県警本部(papa88 / PIXTA)と警視庁(弁護士ドットコム撮影)

「来られても何もできない…」警察の対応は“一転二転”、無差別殺人計画を防いだ通報者が語る「偶然」の舞台裏

富山県に住む男性による「無差別殺人」計画は、一人の通報によって未然に防がれた。

通報したのは、東京都在住の大友秀逸さん(50)。SNSで届いた異変を見逃さず、警察にかけあったことで、最悪の事態は回避された。

だが、大友さんへの取材から見えてきたのは、“美談”だけで片付けてはいけない現実だった。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

●最初の連絡から10日後、通報を決断

富山県滑川市の男性(53)が7月12日、殺人予備の疑いで県警に逮捕された。

容疑は、東京都内で不特定多数の人を殺害しようと考え、東京行きのバスを予約し、自宅のリュックサックにナイフ1本を入れるなどしたというものだ。

約2週間前の7月1日、大友さんはXを通じて、この男性から無差別殺人をほのめかす内容のメッセージを受け取った。

5往復ほどやり取りを重ねるうち、「本当に事件を起こそうとしている」と感じ、7月11日に警察へ通報することを決めた。

●「来てもらっても何もできない」最寄り警察署の対応が一転二転

相手の名前や住所は聞いていなかったが、男性のXやブログの投稿から、富山県に住んでいるらしいことなどは推測できた。

また、男性は大友さんに、東京行きの片道切符を購入したこと、7月13日夜に富山を出発し、翌14日朝に新宿に到着する予定であることを伝えていた。

危険が差し迫っていると考えた大友さんは、まず、自宅近くの警察署に電話をかけた。

男性から送られてきたメッセージを説明し、「こんなやり取りをしている人がいるんです」と伝えると、警察署の担当者から「110番にかけて、富山の警察署につないで説明してもらったほうがいい」と言われた。

大友さんはすぐに富山県警に電話し、これが結果的に無差別事件の実行を予防するきっかけとなった。

ただその後、最初に電話した自宅近くの警察署から今度は「署員を大友さん宅に向かわせます」と言われたという。

大友さんは「来てもらうのは悪いので、こちらから向かいます」と伝え、家を出た。

すると、途中でまた警察署から電話があり、「来てもらっても何もできないから、来なくていいかもしれません」と一転した対応を受けたという。

大友さんは「『もう関わりたくない』というスタンスを感じました」と振り返る。

画像タイトル 大友秀逸さん(2025年9月、東京都内で、弁護士ドットコムニュース撮影)

●「普通の人なら諦める」

「今回は、富山県警につながることができたのでよかったですが、最初に対応した警察署の方が『来なくて良い』というスタンスだったら、最初の電話でやりとりが終わっていた可能性があります。

普通の一般人なら『じゃあ、もういいです』と諦めると思います。そうすれば、彼は2日後に富山を出発し、14日朝には東京に着いて、無差別殺人が実行されていたかもしれません」

大友さんは、2008年に起きた「秋葉原無差別殺傷事件」で死刑を執行された加藤智大氏の友人だった。

事件をきっかけに「加害者も被害者も生まない社会」の実現に向けて活動してきたが、警察から冷ややかな対応を受けることは少なくなかったという。

2023年に、刑務所を出た人らの社会復帰を地域でサポートする「保護司」になり、以前よりは警察が耳を貸してくれるようになったが、一筋縄ではいかないことが珍しくない。

「保護司になる前、相談者から『人を殺す』みたいな発言があって、名前の挙がった駅を警察に電話して伝えたら、まず私自身が変な人だと思われてしまい、『話はとりあえず聞きました』と言われ、名前や住所も聞かれないうちに切られようとしたこともありました。

 今回も、保護司である私が連絡しても追い返されそうになった。それくらい警察は忙しいのだと思います」

●凶行を防いだ「偶然」の重なり

大友さんは振り返る。

「富山の警察の方と話したら、こちらの話をちゃんと真剣に聞いてくれ、すぐに動いてくれました。だから今回は間に合ったんです」

逮捕された男性が事件前に大友さんにコンタクトをとったこと、通報が必要なケースだと大友さんが直感したこと、大友さんが警察にかけあったこと、富山県警が迅速に捜査したこと──。

大友さんの証言をたどると、犠牲者が出なかった背景には、いくつかの偶然が重なっていたことが見えてくる。一つでも欠けていれば、結果は違っていた可能性がある。

画像タイトル 逮捕された男性がXで大友さんに連絡してきた投稿(一部を加工しています。弁護士ドットコムニュース撮影)

●ストーカー殺人とも重なる「警察を動かす難しさ」

実際、ストーカーや交際トラブルなどで、被害者や家族が事前に警察へ相談していたにもかかわらず、最悪の結末を防げなかった事件が繰り返されてきた。

警察は基本的に「民事不介入」であり、具体的な「実害」が生じる前には簡単に動いてくれないという課題がある。

「まだ何も起きていない」「相手が本当にやるかわからない」──そんな段階で危険を見極め、警察を動かすことの難しさは、大友さんも痛感している。

●「警察を批判したいわけじゃない」

一方で、大友さんは「警察を批判したいわけではないんです」と強調する。

これまでも、相談者の話の内容に危機感を抱いて、警察に通報したことが何度かあるという。しかし、すべて事件化することはなかった。

「ネット上には、『かまってほしい』など様々な理由から嘘をついてしまう人もいます。警察がすべての通報を真に受けて対応していたら、それに振り回され、本当に重大な事件への対応ができなくなってしまうおそれがあります。

それに、本人の名前や居場所といった情報がない場合は、警察としても動きようがないケースもあると思います」

画像タイトル 富山県警本部(りんごりんご / PIXTA)

●逮捕された男性は「これからスタートラインに立つ」

限られた人員や予算、働き方改革の中で、ネット上の無数の書き込みや通報から、本当に危険なサインをどう見抜くのか。

今回の事件が突きつけている問題はそれだけではない。大友さんは、生きづらさや生活上の困難を抱える人たちへの関わり方の重要性を次のように話した。

「死刑になりたくて無差別に人を殺そうとするような人は、すでに精神的に病んでいることが多いと思います。本来は、そうなる前に適切にケアができたほうがいい。

今回の男性も、逮捕されたことで本当の問題を少し先延ばしにできただけです。私としては、彼はこれからスタートラインに立つと思っています」

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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