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「虚偽にもとづく労災認定だ」財団法人が職員を提訴、職員側「嫌がらせだ」と反訴
会見の様子(2021年5月17日、都内、弁護士ドットコムニュース)

「虚偽にもとづく労災認定だ」財団法人が職員を提訴、職員側「嫌がらせだ」と反訴

労災認定をめぐって、異例の裁判が起きている。勤務先の団体が、「事実に反している」として、労災認定の取り消しと損害賠償を求める訴訟を起こし、これに対し、労災認定された職員側が5月17日、反訴し、記者会見で「いやがらせ訴訟だ」と主張した。

●財団「違法な公権力の行使」「判断の誤りに過失があることは明らか」

訴状や会見での説明によれば、勤務先の団体は、中小企業向けの特定保険業等をおこなう一般財団法人「あんしん財団」(新宿区)。AさんとBさんは、いずれも正職員として所属している(休業中)。

2人は、別々の支局で長らく事務を担当していたが、未経験の営業職への配置転換や過大なノルマ、転居を伴う遠方への異動を強いられたことなどを理由に精神疾患を発症し、休職に至った。労基署は両者ともに労災認定した。

財団はこれを不服として、2019年以降、AさんとBさんの労災認定取り消しをもとめ、国を相手取り、行政訴訟を起こした(国は訴訟却下を求めている)。

さらに、今年3月1日には、2人と国に対して、ぞれぞれ約460万円の損害賠償をもとめて東京地裁に提訴。

この損害賠償請求裁判で、財団は、AさんとBさんが、労基署に「虚偽の申述」や「事実に反する申述」をおこなったと主張。国に対しては、労災認定による補償を「違法な公権力の行使であって、その判断の誤りに過失があることは明らか」としている。

2人は5月17日、財団が起こした2つの裁判が不当であるとして、計300万円の損害賠償をもとめる裁判(反訴)を東京地裁に起こした。

●おそらく初めてのケース

職員の代理人弁護士らは、最高裁判決(最高裁判決昭和63年1月26日民集42巻1号1頁)の判断を示しながら、財団はあえて訴えを提起したものと言えると主張した。

代理人の嶋崎量弁護士は、財団が起こした2種の裁判を批判する。

労災認定取り消し訴訟については、過去にもあったそうだが「極めて異例」とする。

また、労災認定をきっかけとして、損害賠償を職員にもとめる裁判は「おそらく初めてのケース」で、「いやがらせ訴訟」と評した。

「業務起因性については争えばいいが、公的認定を受けているのにもかかわらず、使用者が、精神疾患に罹患したとされる人に対して、嫌がらせを続けるのはひどい」

職員らは職場復帰を目指して5年以上の治療を続けている。

職員側は、認定が取り消され、休業補償が支払われなくなる不安のなかでは、安心してゆっくり療養できるものもできなくなってしまうと考えている。

●財団の主張が認められる社会的影響

夫を過労死で失くした工藤祥子さん(過労死等防止対策推進協議会委員)は会見に同席し、「被災者救済と社会復帰を促進する労災制度」の根幹が危ぶまれていると話す。

「働けなくなった原因を作った会社によって認定を取り消されることは恐怖でしかない。

被災者が病気を乗り越えて、社会復帰する道のりはただでさえ厳しく、復帰が遠のくことは許されない。これが認められると、次の企業が出てきたり、労災認定のハードルが上がったりすることを危惧している」

●職員「財団はせめて私を治療に専念させて」

職員のコメントが会見で発表された。

「私が労災になって働くことができなくなった責任は財団にあります。せめて私を治療に専念させて欲しいと思います」(Aさん)

「普通の使用者なら、同じような理由で2人精神疾患の労災認定が出たら、真摯に反省をし2度と起こさないよう『あんしん』な職場を目指すのではないでしょうか」(Bさん)

●財団法人は「コメントは控える」

財団は5日17日、反訴について「訴状が届いておらず、事実確認ができていないので、コメントについては差し控えさせていただきたい」と編集部にコメント。

また、財団から起こした2種の裁判についても「係争中につき、コメントを差し控えさせていだたきます」とした。

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